決戦 ⑤
祈っていると、一匹、また一匹と海猫達も来て、皆で一緒に祈りを捧げ始める。
「こっちじゃそう祈るんだ」
ふと横を見ると、もの珍しい祈り方をしていて、クリムはそう言った。
ええ、と答えたサファイアが、続ける。
「ここには日の光も、月の光も届きません。だから海の神に祈るのです。海神の園にゆけますように、と」
なるほど。クリムはそう思って、皆に習った。
傅いて、指を絡めて両手を組む。そして、再度祈りを捧げた。
非業の死を遂げた者達が、海神の園にゆけますように、と。
夕暮れ。港に戻ったクリム達はこの勝利を触れ回り、居残り組を迎えにいって、マスト行きつけの酒場、ナイトオーシャンで飲み明かす。
海猫達と別れる際、沢山感謝の言葉を貰ったが、居残り組の海猫達からも涙を流して何度も礼を言われ、あくる朝。
クリム達はまた、船の上にいた。今度はベリーとプチィも一緒だ。
「送ってくれて助かるよ」
クリムがそう言うと、マストはへっと笑う。
「なに、お安い御用さ」
その直後、酒瓶を持ったベリーがこっちへ来て、ムスっとした顔で酒瓶を突き出してくる。
船の上には海猫達もいて、今は二次会の真っただ中だ。
「もう、無茶して。ほら、飲みなさい!」
彼女はかなり酔っているようだ。クリムは昨日も説教されまくった。どうやらクジラに飛びつく瞬間が見えていたらしく、心臓が止まるかと思ったそうだ。
「ベリー、悪酔いし過ぎだ。それに、もう無茶はしないって何度も言ってるだろう。妹にまで怒られたんだ……」
海に沈んだあとに見た夢。多分、そういうことなんだとクリムは思っていた。
妹に頬を打たれたことなんて、一度もなかったから。
きっと、心配かけさせるなと怒ったのだろう。
「妹ぉ~……? もう、何言ってるのぉ~、クリムは妹を探してるんじゃなかったのぉ~……」
ふらりとベリーが倒れ込んできて、「おっと」とクリムは彼女を支えると、目を細めて遠くの空を見つめていた。
きっと妹はどこかで生きている。今はそんな気がしてならない。だって、夢に出てきてくれたのだから。
「普通逆に思うんだけどね……」
怪訝に思うように眉を顰めたマストが、問いかけてくる。
「何の話だ?」
「いや、なんでも。それよりさ、何か面白い話はないかい?」
「おまえ……、急だな。そうだな――――」
あ、そういやぁと、思い当たるものがあったようで、マストは話し始める。
その話の中で、戦友の名が飛び出てきて、クリムは顔に笑みを浮かべると、彼にこう言った。
「わかった。寄ってみよう」
久しぶりの再会が楽しみだ。向かうは鼻の上にある町、トップノーズ。
しかし、その町は鼻の下にあるアンダーノーズと違い、寂れていた。
一枚の記事が風に舞い、道行くものに静かに告げる。
新たなる脅威が、もうすぐそこまで迫ってきていることを。
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