戦士の顔 ②

「彼ら、海底都市ニャトランティスに住むっていう海猫達かい?」

「ああ、クジラに襲撃を受けた際にこっちまで逃げてきて、それから俺が子分共と一緒に面倒みてやってんだ」

 

 二匹に目を向けられた海猫達が、目の前までやってきて、一匹がクリムの手を取った。

 そして、膝を折る。


「赤毛のクリムさん。どうか、どうか仲間達の無念を晴らしてやってください……」


 一匹が涙ながらに訴えると、もう一匹が奥歯を噛んで拳を握った。


「本当は、本当は俺らの手で仇を取ってやりたい……。でもっ――――」


 悔しそうに身を震わせる彼を見つめながら、クリムは思う。

 もう、剣を握れないんだねと。

 恐怖に打ち勝つのは難しい。怒りに勝るほどの怖い経験を、彼はしてきたのだろう。

 

「君らの想いは受け取った。必ず勝利を持って帰ろう」


 そう言うと両目を閉じて、心の中で、『丘の上で眠る彼らの為にもね』と付け加えたクリムの雰囲気が、一変する。

 王家生まれの端正な顔立ちを血生臭い戦士のものへと変え、張り詰めた空気を纏い、漂わせ始めたのだ。


「それじゃ、祝勝会の準備を頼むよ」


 その空気に皆が気圧され、毛を逆立てる中、クリムはまるで買い物にでも行くような軽い口調でそう言い、船の方へと向かった。

 そんな彼の後ろ姿を見ながら、ヒューとマストが口笛を吹く。


「どうやら神様が、最高の戦士を俺らのもとに送り届けてくれたみてぇだな」


 ああ、ああと海猫達からも頷きが帰ってきて、彼もそそくさと向かっていると、「待ちなさい!」と後ろからベリーに呼び止められる。


「本当に魔法使いを置いていくつもりなの」


 マストは振り返って、言った。


「メスは連れてけねぇよ。――いや、嬢ちゃんと同じ一流の魔法使いが手も足も出ずに敗れてなきゃ、ポリシー曲げてお願いしてたとは思うぜ?」

 

 ベリーは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに表情を戻し、「そう」とだけ言った。

 その顔には、どこか諦めが滲んでいるように見えた。


「嬢ちゃんもこいつらと一緒に祝勝会の準備を頼む。赤毛のクリムの気迫を見たろ。絶対に」

「いやよ!」

 

 声を上げてマストの言葉を遮ると、彼女は続ける。


「絶対にいや。ここから船を見てるわ」

「……そうかい。なら、小屋の中に良いもんがある。そいつで彼氏の活躍をしっかり見てるんだな」


 マストはそう言うと船に乗り込んでいき、「行くぜ、てめぇらっ! 出航だ!」と大きな声を張り上げて四隻の船を出航させた。


 その船団がそのまま沖へ姿を消し、見えなくなると、ベリーは小屋に入って中を見回し、遠眼鏡らしき筒が机の上に置いてあったのでそれを手に取る。


 中を覗いてみると、思った通り遠眼鏡であったが、きゅいん、しゅーと機械仕掛けの音がして、これアーティファクトだと思い、彼女は驚く。

 外に出て早速沖へ向けてみると、照準が自動で調節されて船を捉え、随分高性能ね、とも彼女は思った。


 それから数時間後、作戦が始まったようで、一隻の船を先行させるクリム達の姿が見えた。

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