赤毛のクリム ⑤
「ありがとう。頑張るよ」
そう答えた直後、「あんた! あんた!」と近くにいた老猫の奥さんらしきメスネコがこちらへ駆けてきて、「マッシュさんがそう言ってたでねぇか」と老猫に言う。
「ありゃ、そうだったか?」
「ごめんなさいねぇ。このじじいったら変なこと言って。大怪我して戦えなくなってなんて噂もあったけど、大丈夫なのかい?」
心配そうな顔付きで見られ、クリムは少し戸惑うように笑った。
「大丈夫だって。見ての通り、ピンピンしてる。ここには本当に生き別れた妹を探す為に来ただけであって、まぁ僕の妹は、今更探しに来るなんて、とか思ってそうだけど」
どうしてあの時、てのひらを放してしまったのか。父の形見は大事に握っていたというのに。兄にも頼まれていたのに。おまけにと考えていると負の連鎖に陥りそうになり、クリムは軽く頭を振って、そのことを極力考えないようにした。
「なら良かった。それに妹さんだって」
おーい、と奥さんが話している途中で隣の畑からも声が掛かり、応対しているとその隣からも、そして真向かいさんからも声が掛かって、二匹は向かう途中で長いこと道草を食うことになる。
「おも…………」
「沢山シチューが食べられそうだ」
「それは良いけど、美味しく作れそう?」
「努力はするさ。僕だって不味いものなんて食べたくないし」
クリムの両腕には行く先々で貰った色んな種類の野菜が積まれ、山を作り、ベリーが抱え持つ紐袋の中も載せ切れなかった野菜でいっぱい。これを痛む前に二匹で消化し切るのは難しい。お裾分けをする必要がある。
誰にするかなど言わずもがな。農村地帯を抜けると石積みの家々が立ち並ぶ街の中へと入り、他の家よりも少し横長なプチィの家が見えてくる。中は住居兼工房となっており、扉を開けるとすぐに工房だ。
彼がここに来た理由は単純明快。鎧を磨くくらいでいくら何でも手間取り過ぎていると思ってのこと。
仮に他の修理品で立て込んでいたとしても、もう仕上がっていても良い頃合いだ。
しかし、毎日のように来るプチィからは「もう少し掛かりそうだぜ」なんて報告を貰っているので、未だ手付かずという可能性も無きにしも非ずではある。
そうしたらどうしてくれよう。ぶっ飛ばすか。クリムはそう思ったが、返り討ちに遭うなと思って、すぐにその考えを頭から捨てた。
マッシュの風体は獅子さながら。大きな図体に鋼の肉を着込み、戦場でだって滅多にお目に掛れないような立派な体つきをしている。あんなモンスターと肉弾戦などできない。恐らくねこぱんち一発で天上の裾野が見え、次の一発で猫の神に謁見を果たしていることだろう。
おー、こわと身震いしていると、ドシン、と大きな物音がしてプチィの家が揺れ動く。何事かと思い駆けていくと、窓からプチィとマッシュが大喧嘩しているのが見え、クリムとベリーは目を疑い、思わず顔を見合わせた。
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