第22話 銀狼の足音

 私とフェルルは警戒けいかいしながら、森の奥からやって来た気配のぬしを待ち構えた。


「なにが来るのかな?」

「大丈夫だよ。いざとなったら、私が師匠を守るから」


 フェルルは騎士としてのさがが出てしまったらしい。

 しかし私はそんなフェルルを抱かせやるようにして、隣になる。


「そんなに気負きおいしないでよ」

「師匠?」

「私は、フェルルのパートナーだよ。一緒に乗り越えよ、ねっ!」


 そう言って、笑顔になる。

 するとフェルルの目の色が優しくなった。張り詰めていた緊張きんちょうの糸が、ほろほろとほどけていく。


「うん」

「やっぱり、今の方が可愛いよ」

「えっ?」

「あっ、なんでもないです」


 私は真顔になった。

 そうして森の中からする気配に注意しながら待っていると、その姿を現した。

 それは私達よりも大きな銀色の狼で、綺麗でつやのある毛並みが素敵だった。


「狼?」

「いや、違うよ師匠。あれは……」


 フェルルの表情が固まった。

 とんでもないものを見てしまった。そんな風に見える。


「フェルル?」


 私がフェルルに尋ねると、間髪かんぱつれずに、まさかの狼が話しかけて来た。


「ここから立ち去れ、人間」

「しゃ、喋った!」


 私は驚いて、目を見開く。

 だって狼が急に人の言葉を喋り出すなんて、聞いたこともない。しかしフェルルはと言うと、全く驚いていなかった。


「立ち去れだってフェルル」

「うん、そう言ったね」

「いやいや喋ったんだよ。狼が人間の言葉を!」

「それぐらい普通だよ」

「普通なの!」


 この世界の狼は、人間の言葉を喋るのが当たり前。そんな事実を急に教えられたら、誰だって混乱こんらんするはずだ。特に私みたいな転生者なら尚更なおさらだろう。


「いやいやいやいや、私はそんなの認めないよ!」

「黙れ人間。貴様きさまのような、無礼ぶれいわきまえないような奴が、この神聖な森に踏み入れるなど、笑止千万しょうしせんばんすみやかにこの森から立ち去れ!」


 狼は凛々りりしい女性の声で、私達に言った。しかもその目はギラギラとしており、今にも私達を狙う目をしていた。


「フェルル、これってどう見ても……」

「うん。ヤバいよ」

「ヤバいって、そんな簡単に言わないでよ!」


 しかしフェルルはとても冷静で、その手は剣の柄を掴んだままだった。

 だけど私はそんな危機ききとした状況の中でも、何故か思ったよりも心はおだやかでいられた。その理由はわからない。


「立ち去る気はないのだな」

「もちろん。私達にだって、目的があるからね」

「そうか。ならばここで死ね!」


 そう言うと狼は私達に襲い掛かる。

 鋭い爪を逆立て、肉をえぐろうとする。しかしそれをフェルルは対応たいおうするように、私を突き飛ばした。

 それから抜刀ばっとうした普通の剣を使って、簡単に防いでみせる。


 キィィィィィィィィィィン!!


 金属のやいばと鋭い爪とがぶつかり合って、今にもたがいの命を奪う構えだった。完全な臨戦体制りんせんたいせい。あまりにも殺伐さつばつとしている。

 私のところにまで、鋭くて痛々しい空気が襲って来る。


「2人とも止めてよ!」

「「無理(だな)」」


 お互いにしのぎを削り合う。

 そんなヤバめの雰囲気に包まれた私は、どうにか出来ないかと模索もさくすることに、注力ちゅうりょくするのでした。


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