第21話 白百合(しらゆり)

 湖ですっかり体力と英気えいきを養うと、私とフェルルは装備を整えてから、白百合を探しに行くことにした。


「それじゃあ、そろそろ行こうか」

「そうだね師匠。うん、体調たいちょうはバッチリだよ!」


 軽くストレッチをして、り固まった身体をほぐすフェルル。

 私もそれにならって、屈伸くっしんや足を伸ばしたりしてみた。


「本当はタオルとか持ってくればよかったのにね」

「タオルなら作れるよ、ほいっ!」


 私は近くに落ちていた葉っぱから、タオルをビルドした。それをスッとフェルルに向かって放り投げると、ふかふかのタオルが行き届く。


「ありがと師匠!」

「これからない、全然いいよ」


 まあ、タオルが作れなかったら水かけなんてしなかったけどね。本当に便利だ、この能力。そう思いながら、私とフェルルはそろって身体をいた。

 そうして身体を拭き終える頃、ふと視線を動かすと、私とフェルルは湖の真ん中に、何かあることに気がついた。


「ねぇフェルル。あそこに、浮島うきじまがあるよ」

「どこどこ、あっ本当だ。あれれ?あれってもしかして……」

「何かあるの?」

「うん。白い花が咲いてる」


 フェルルは目を凝らして、浮島を眺める。

 するとそこには白い花が咲いているようで、どうやら花の形からして、近くで見てないから詳しくはわからないけど、百合ゆりっぽかったらしい。


「じゃあ行ってみようか」

「行ってみるってどうやって?」

「あっ!?……お、泳いで?」


 いやいや流石にそれは無理があるかも。自分で言ってなんだけど、ここから浮島までは結構距離がある。しかも浮島だから、周りに道なんてない。この湖を越えるしか方法はないのだ。


「うーん、じゃあ仕方ないね。私が採って来よっか」

「えっ、フェルルってそんなに泳ぎ得意だったんだ。知らなかった」

「えっ、うーん普通かな?」

「って、普通なのか!」


 多分だけど、フェルルの場合、全身の筋力でどうにかするってことだと思う。

 体力とかセンスとかは人並外れてるからこそ、できる技だ。そうでなくちゃ、勇者に選ばれることもないんだろうけどね。

 私は他人事たにんごとのように思いつつも、ふと感じた違和感いわかんが、スッとフェルルを「止めろ」と命令する。


「じゃあ行ってくるね!」

「待って!」


 私はフェルルを引き留めた。

 フェルルは「ふぇっ?」と、間の抜けた声を上げる。


「どうしたの師匠?」

「変な音しない?」

「変な音?」

「うん。ゆっくりこっちに近づいてるっていうか、私達を見てるっていうか」

「えっ?」


 フェルルは感覚をます。すると、何か察したのか。短く首を縦に振る。


「この気配、相当強いよ」

「わかるんだ」

「うん。ざっと、ゴブリンロードの10倍はある」

「そんなに!」


 ただでさえゴブリンロードは私から見ても強かった。それなのに、今感じる気配の主はその強さを軽く上回っているらしい。

 しかもそれがゆっくりにじみよるように、私達に近づいて来ていた。


「いざとなったら戦うけど、いいよね?」

「話し合いが通じるんだったら、それに越したことはないけど」

「それが通用しない相手だっているからね。ここは、師匠の騎士として師匠のたてになるよ」


 私の騎士って、そんなの一言も頼んでないんだけど。困惑こんわくする私に、相反あいはんして、フェルルはやる気十分。

 剣のに指をかけ、いつでも臨戦体制りんせんたいせいに入れる用意をする。


(鬼が出るか、じゃが出るか。どっちにしろ、戦いたくないなー)


 そんな風に考える私。

 そうして気配の主は、森の中からひっそりと姿を現したのだった。

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