第12話 ゴブリンロード

「俺の名前はゴブリンロード。コイツら、親分だ」


 なんとなんと名乗ってくれた。

 ゴブリンロードと呼ばれた巨大なゴブリンは、手に棍棒こんぼうを持っていて、それを私達に向かって容赦ようしゃなく、叩きつける。


「「うわぁ!!」」


 私達は急いでその場から離れた。

 だけど飛び散った石の破片はへんが細かくて、私達の肌を切る。


「いったぁ」

「大丈夫、師匠!」

「うん。私は、治せるから」


 そこで私はビルドメーカーを使って、自分の身体を瞬時に治した。あっという間に元通りになっていて、さっきまでの怪我が嘘のようになくなる。


「なに!?お前、なにをした!」

「傷を治しただけだけど」

「だけだと?」


 そりゃそんな顔されるよね。

 ゴブリンロードは不思議そうに、口をひん曲げる。

 その油断をついて、先に攻め込んだのはフェルルだった。


先手必勝せんてひっしょう。いっくよー!」

「甘い!」


 ゴブリンロードは棍棒を握っていない左手で、フェルルを吹き飛ばす。


「うわぁ!」

「フェルル!」


 空中で体勢を立て直し、間一発かんいっぱつのところで、フェルルは地面に着地した。

 あまりのことで、よく見えなかったけどとんでもない身体能力しんたいのうりょくに違いない。

 対するゴブリンロードも仲間ためかは知らないけど、勇者フェルルに負けていない。


(どっちも強い。だけど……)


 明らかにゴブリンロードの挙動きょどうはおかしかった。

 まるで“私達を足止め”することが目的みたいに、さっきから一歩も動いていない。

 もし、私達をさっさと倒してしまいたいのなら、その場から動けばいいのに、私達が攻め込まないと一切いっさい動かないのだ。


(何かあるんだ。この先に、私達を行かせたくない理由が)


 だけどその見当けんとうがつかない。

 そんな中、フェルルはさらに突き進んだ。

 それを見た私は、瞬時にフェルルの前に出て、無理矢理止める。


「フェルル、ストップ!」

「うわぁ!?」


 急に私が目の前に出て来たからか、驚いたフェルルは急ブレーキをかける。


「なに、師匠」

「ちょっとだけ待ってよ。ねぇゴブリンロード、私達は戦わなくても済むならそれでいいの。だけど代わりに教えて」

「教えてだと?」

「うん。皆んなは一体何を守ってるの!」


 私はそう尋ねる。

 だってさっきから変な動きばっかりで、全然攻撃してこない。最初の攻撃が、侵入者しんにゅうしゃを追い返すものだったら辻褄つじつまも合うし、理由もわかる。


「この先に何かあるんでしょ?」

「何故それを」

「やっぱりそうなんだ。ねぇ、教えて。私達も力になりたいんだよ」


 私はそう熱意を持って、伝える。

 するとゴブリンロードは少し迷っていたが、さっき私が自分で傷を治したことに興味を持ってくれたおかげで、すんなりと通してくれた。


「付いて来い」


 そう言ってゴブリンロードは、森の奥地に向かって歩き出す。

 私とフェルルも武器をしまって、ゴブリンロードや他のゴブリンの後に続いた。


 そうしてしばらく暗い森の中を、ひたすら歩いていると、ひらけた場所に出た。

 そこは小さな村のようになっていて、茅葺かやぶき屋根の家がいくつもある。


「ここって、ゴブリン達の村?」

「そうだ。こっちだ」


 そううながされさらに付いて行くと、そこにあったのは他とは比べ物にならない豪華な家だった。


「中を見てみろ。だが、あまり大声を出すなよ」


 ゴブリンロードは私達を家の中に招き入れた。

 そこは色んな旗の装飾そうしょくほどこされている。

 そしてその中で1人寝そべっていたのは、痩せ細ったゴブリンだったが、見た限り明らかに性別が違っていた。


「メスのゴブリン?」

「嘘っ!?そんなのってあるの!」


 フェルルは大声を出した。

 すると、近くで看病をしていた他のゴブリンに怒られる。どうやらこの村のゴブリン達は、皆んな人の言葉がわかるみたいだ。


「フェルル、メスのゴブリンってそんなに珍しいの?」

「うん。そもそもゴブリンって、ほとんどがオスだからね。でも、まれにメスのゴブリンが産まれることもあるそうなんだけど、身体が弱いんだって」


 確かにこのゴブリンもかなり弱っていた。

 腕は痩せ細り、衰弱すいじゃくしきっている。かなり辛そうだ。


「もしかして、このゴブリンを守るために」

「そうだ」


 ゴブリンロードはそう答える。

 だから突然ゴブリン達が大量に現れて、森を守るように動いてたんだ。そのため、こっちから手を出さないと攻撃してこない。全部合点がてんがいく。


「しんどそうだね」

「うん」


 さっきから息遣いがとても荒い。このままじゃ本当に死んじゃうよ。

 何とかしてあげたい。私はそう思う。ゴブリンロード達もそれを期待して、私達をここに連れて来たんだ。

 それが重たくのしかかって来て、おまけにゴブリンロードは私達に頭を下げた。


「頼む。ゴブリンワイフを助けてやってくれ!」


 深々と頭を下げられて、私とフェルルは困惑した。

 だけどそれ以上に“助けてあげたい”。そんな気持ちで心がいっぱいになっていた。


「フェルル」

「わかってるよ、師匠。大丈夫、だって私は勇者なんだよ!」


 とても頼りになる一言だった。

 私とフェルルは各々おのおのが出来ることを、手の空いているゴブリン達と力を合わせるのであった。

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