第13話 治療

「とりあえず私がビルドメーカーで怪我を治すから、フェルルと手の空いてるゴブリン達は薬を使って」


 私はフェルルにそう伝えた。

 だけど、無茶振りじゃない。私はフェルルが薬を作れるのは知っている。

 それもそのはず、騎士家系の家柄いえがらだからか、戦闘に関する知識は豊富ほうふで、その上色々知識ちしきを持っていた。

 それから、ミフユさんと一緒に料理してる手際てぎわのよさも確認済みだ。

 だからかは知らないが、


「任せてよ師匠。じゃあ、皆んな手伝ってね」

「「「おぅ!!!」」」


 ゴブリン達を引き連れて、フェルルは素材をかき集めに向かった。

 さてと、後は私がやれることをやってみるだけだ。

 ゴブリンワイフの元に残った私は、必死に看病かんびょうするゴブリンの横でしゃがみ込み、弱りきったゴブリンワイフのひたいに手を当てた。


「大丈夫ですよ。しっかり、意識だけは保っててくださいね」


 私はそう耳打ちすると、ビルドメーカーを使った。

 この能力は、私が触れたものだけに反応して、怪我を一瞬で治したり、石ころや木の枝の形を変えたりと色々出来る。だけど、何にもないところから物を作ったりは出来ない。無から生み出すことは出来ない力となっている。


「大丈夫。上手く出来てる」


 しかし、こう言った作業にはかなり向いていた。

 そのおかげか、ゴブリンワイフの衰弱すいじゃくしきっていて、今にも死んでしまいそうだった負の空気は一瞬で消え去った。


「呼吸が安定してるね。とりあえず、病気の方はあらかた治ったと思うよ」


 ゴブリンワイフの呼吸はかなり穏やかで、整っていた。

 見た目的にも怪我はなく、血管けっかんも浮き出ていない。かなり身体への負担ふたん軽減けいげんされたようだ。


「治ったのか、これで良くなるのか!」

「そうあせらないでよ。まだ治ったわけじゃないんだよ」

「そ、そうか」


 近くで見守るゴブリンロードは気を落とした。

 だけどそれもそのはずで、ゴブリンワイフの身体は大まかには治った。だけど私は医者じゃないから、完璧かんぺき治癒ちゆが出来るわけじゃないし、それに体力も戻ってないから、後はフェルル達次第しだいになる。


「フェルル、大丈夫かな?」

「師匠!」


 不安に思った私の元に聞こえて来たのは、フェルルの明るい声だった。

 周りにはゴブリン達を引き連れている。

 その手に持ったうつわを丁寧に運んでいた。


「フェルル、出来たの?」

「うん。これ見てよ、かなりいいでしょ」


 器の中には緑色をした、いかにもな飲み薬が出来ていた。

 聞く限りでは、蜂蜜はちみつだったり薬草だったりを混ぜて細かくすり潰し、さらにそこにとっても貴重きちょうな命の花のみつを加えたものになっている。


「これを飲んだらたちまち元気になっちゃうよー!」

「そっか。じゃあ早速飲ませてあげないとね」

「うん」


 私達はフェルルが作ってくれた薬を、ゴブリンワイフに飲ませるように頼む。

 ゴブリンロードはそれをこころよか受け入れ、ゆっくりとゴブリンワイフの口の中に流し込んだ。


 ゴクゴクゴク

 良い音を立てて、ゴブリンワイフの口の中に入って行く。

 するとゴブリンワイフの目がカッと見開いて、すると急に目をつむった。


「ど、どうしたのかな!」

「多分びっくりしちゃったんだよ。でも、見て。さっきよりだいぶ楽になってる。もう心配なさそうだね」


 ゴブリンワイフの息遣いは、最初に比べてかなり良い。

 それもそのはず、飲ませた薬がかなり質のいいものだったからだろう。みるみるうちに元気を取り戻して行く姿が目に浮かび、ゴブリンロードは涙をスッと流した。


「よかった。本当によかった」


 モンスターの涙を生で見た。

 それは人間と変わらない。そんな優しい光景に立ち会えた私は、心の中がスッとスッキリして気持ち良くなるのだった。

 そうして数時間後、私達はゴブリン達の村にしばらく滞在たいざいしていると、ふとやって来たゴブリンロードからこんな話をされた。


「今回のことは助かった。心から感謝している」

「いえ、こちらこそ大事にならなくてよかったですよ」


 私は謙遜けんそんする。

 しかしゴブリンロードの気持ちはとどまらず、私達に頭を下げる。

 そうしてこう口にした。


「俺達は2人に感謝している。だからこそ、俺達は2人に臣従しんじゅうしよう」

「「えっ!?」」


 ゴブリンロードは、深々と頭を下げながら、私達にそう答えるのだった。

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