初の討伐依頼
金を稼がなくてはならない。冒険者二日目の朝、起きてまず最初に考えたことはそれだった。今日は採取系よりも稼げる討伐系の依頼を受けようと思う。 身支度を整えている時に気付いたが、刀を二本とも預けたので、近接武器がなくなってしまった。森に入る時に適当にクリエイトで何かを作るとしよう。
――ギルドは今日も朝早くからごった返している。彼らもお金のために必死なのかな、と勝手に想像する。
銅級掲示板から討伐系の依頼を探す。銅級上位の依頼は無いため、『ウルラス』という中位の魔物の討伐依頼を選んだ。受付で依頼を発注し、ギルド二階へと向かう。二階には資料室があり、冒険者であれば利用が可能となっている。資料には薬草や魔物の情報が載っている。
ウルラスについて調べた結果、頭は鳥、体は狼という姿をしていることがわかった。体毛は緑色をしている。鳥の頭と言えばグリフォンを思い浮かべたが、そこから連想するような美しさをウルラスからは感じない。異様に細く尖ったくちばしをしており、どちらかと言えば不気味な見た目をしている。
「そういえば、この世界に上半身は鷲、下半身は獅子の姿をした生き物っているの?」
と小声でシックルに聞いてみる。
「ああ、グリフォンという魔物がいる。階級とやらは知らんが、バジルなら勝てるんじゃないか」
銀級か金級くらいだろうか。出会っても今の僕だと逃げたほうが良さそうだなと考えながら、資料を棚に戻し、ギルドを後にした。
***
黒の森に入り、昨日薬草採取をした領域よりもう少し奥に進む。このあたりも普通の森といった感じで、ともすれば癒し効果すらありそうな穏やかな森だ。魔物を気にしないでいいのであれば、森林浴でもしたい気分であった。
しかし、遊びに来たわけではないので、ウルラスを探すことにする。シックルに上から索敵してもらうことも可能だが、なるべく自分の力で解決すると決めているので、魔法を使うことにした。
「『アクティブソナー』」
探索用の水魔法で周りに魔物がいないか調べる。このあたりにはいないようだ。
少し移動してはアクティブソナーを発動するという作業を何度か繰り返し、三十分後に反応を検知したので、その場所へ向かう。
目視可能な場所にたどり着いたので、気配を殺し対象を観察する。
資料通りの不気味な姿だ。どうやらお食事中のようだ。鹿を仕留めたようで、細いくちばしを使い一心不乱に死体をつついている。
そういえば、シックルもウルラスもくちばしを持っていて、この場では僕だけが仲間外れな気がする。
「こいつの出番かな」
そう言って、鞄から黒いペストマスクを取り出し装着する。頑丈な木を削って自作したものだ。軽くするために薄く削ったが、耐久性もある。
「おぉ! 私とお揃いじゃないか!」
シックルもご機嫌だが、少しふざけすぎたようで、ウルラスに気付かれてしまった。
「クルルルル……」と甲高い鳴き声を上げながらゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「『クリエイト』!」
刀は武器屋に預けているので、とりあえず即席でトゲの付いた金属製の棍棒を作った。『鬼に金棒』の金棒だ。アダマンタイト製になってしまわないように力加減を調整したため、鈍色の金属となっている。おそらく普通の鉄製だろう。
次に、『身体強化』と『痛覚遮断』をかけた。魔物と戦う場合は、いつもかけるようにしている。
お互いの距離が約五メートルスになったあたりで、ウルラスが急加速する。想定の範囲内の速さであったため、余裕を持って避けることができた。ウルラスは僕の後方にあった木に突っ込む。木はざっくりと削りとられている。かなり威力があるようだ。ウルラスは踵を返し、またすぐさま飛びかかってくる。
何度か攻撃を避けて観察した結果、スピードはそれなりに速いが、単純にまっすぐ突っ込んでくるだけなので、タイミングを合わせれば避けることが出来、不意打ちさえ食らわなければ特に手こずる相手でもないと判断した。
「もういいか」
またしても突貫してきたウルラスをぎりぎりまで引きつけ、上にジャンプして避ける。空中で身をひねりながら、金棒をウルラスの頭に叩きつけると、「ゴシャッ」という音が鳴り、頭蓋骨をたたき割った感触が手に伝わる。ウルラスは勢いのついたまま不時着を試みた飛行機のように、地面を削りながら数メートルス進み、動かなくなった。
いつも解体に使っていた小夜風もないので、即席で十五センチス程のナイフを作成する。討伐証明部位であるくちばしと魔石を切り出した。その後、同じように索敵と討伐を繰り返し、三体分の素材を確保し、依頼達成の基準を満たしたため、この日の作業は終了とした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます