アルベールとしての日常_その三

「うまくできたようだな。他に魔法でやりたいことは?」

「そうだなぁ、攻撃魔法はいまいち使い勝手が悪いから、改善したいかなぁ」

「では、アルの想像する使い勝手の良い攻撃方法をそのまま魔法で再現すればいいのさ」


 それならまず思いつくのは何といっても銃だろう。


 土属性下級魔法にストーンというものがある。バスケットボール大の石の玉を手元から発射できる。

 

 だが、この魔法には玉のスピードがあまり速くないという欠点がある。ある程度距離が離れている場合は、冒険者などのように身体能力が高いものは避けることが可能だ。


 隙をつかない限り魔物にも避けられることは多いので、以前から実用性はいまいちな気がしていた。今までも、なんとか銃のような弾速にならないか魔力制御の調整で試行錯誤してみたが、うまくいったためしがなかった。


「ストーンの弾速を上げたいんだけど、今まで上手くいかなかったんだよなぁ。何かコツってないの?」

「あぁ、それは難しい問題だ。昔から色々な者が試したが、弾速を上げるというのを魔力制御で解決する方法は見つかっていないようだな」

「うーん。要するに魔力制御以外で解決するしかないってわけか」


 もういっそ銃を作ったほうが早いんじゃないか? と思ったが、火薬の作り方なんて一般人である僕にはわからない。


 では、必要な要素を魔法で代用していくって案はどうだろう?


 例えば、クリエイトという魔法がある。

 込めた属性の魔法を用いて、想像した形の物を作ることが出来る。一般的には土属性で石製の物を作るか、水属性で氷製の物を作ることになる。それ以外の属性で何かしら形を作っても、魔力制御を解くと霧散する。


 クリエイトで作れるのは、かなり単純な構造の物、例えば椅子や机程度だ。魔力制御が下手であれば歪なオブジェを生み出すことになる。


 僕はかなり器用なほうらしく、椅子等はもちろんのこと、シックルの石像くらいなら朝飯前である。羽を広げ威嚇する無駄に躍動感のあるシックル像を作ったところ、シックルが気に入り、それ以来ずっと僕の部屋に飾ってある。


 またある時は、練習がてら繊細な装飾を施した石製の机と椅子を作ってみたところ、「貴族様みたい!」とコラリーが気に入り、そのまま庭に置きっぱなしにしてある。よくコラリーがそこでお茶を飲んでいる。コラリーの特等席らしくバジルが座ろうとすると「壊れそうだからだめ!」と怒られていた。


 そんな感じで、クリエイトは今まで遊びにしか使ったことがなかったが、この魔法で銃本体と弾丸は作れそうだ。


 ただ、特に意識せずにクリエイトを使用すると、出来上がる物は固めの石程度の強度しかないため、そこに工夫が必要そうだ。


 この世界には、アダマンタイトやヒヒイロカネといった非常に固い鉱石が存在するらしい。僕はまだ見たことがないので、具体的には想像できないが、目標として意識してみるくらいなら出来るかもしれない。


 試しに作ってみたところ、強度はわからないが、想像通りの形の物が出来た。前世で見たことがあるピースメーカーと呼ばれていた銃が印象に残っていたため、それを再現した。リボルバーだが、弾丸は銃身の末尾に直接生成するので、シリンダーは使わない。飾りで付けただけなので、回転もしない。


 さて、銃はできたが、問題は火薬だ。魔法で代用するにしても、火属性に爆発するような魔法はないと聞いている。なので、今回は風属性の魔法を利用し弾を飛ばしてみようと思う。


 練習をしたいが、かなりうるさく、危ないため、森の奥に行くことにした。

 

 ラック村の周りは森に囲まれている。我が家は村の入口から一番遠い、奥まった場所にある。そして、我が家の裏には、森を突き抜けてさらに奥に向かう獣道がある。その道を少し進むと、森の中にぽっかりと広大な荒れ地が現れる。前世の学校の運動場よりは余裕で大きいように思う。ここでなら多少うるさくしても村には音が届かないだろう。

 

 一時間ほどかけて森の奥の広場にたどり着いた。


 さて、場所は用意できたが、いきなり自分で銃を使うというのは危険すぎる。クリエイトでマネキンでも作ってみるか? トリガーを引く必要はないので、ただ銃を持って突っ立っていてくれればいい。


「『クリエイト』」


 そう唱えると、ちょうど僕と同じ身長くらいの石像が完成した。クリエイトは魔力制御をし続けている間は自由に動かすことが出来るので、その間に先程作った銃を持たせ、銃を構えた状態で最終的に固定した。


 銃の中に弾丸も同時に生成した。弾丸の後ろに風魔法を当てて押し出すため、弾丸のお尻側はくぼみを作ってみた。


「おお、人型か。相変わらず器用だな。この人が持っている曲がった筒はなんだ? 変な形だな」

「これが、弾速を上げる解決策だよ。前世の世界にあった銃という武器を模したものだ」

「ほほう。この人は何て名前なんだ?」

「名前なんてないけど、マネキン……ヒトガタ……しっくりこないな。うーん、しっくりくる名前、しっくり、しっくり……うん、もうシックリさんでいいや」

「……その名前、誰かに似てると思わないか?」

「気のせいじゃないかな」


 まずは風魔法のウィンド――強風を相手に叩きつける風属性下級魔法――で火薬の代わりになるか試してみる。

 シックリさんから十分に離れ、銃身の底と弾丸の間でウィンド――強風を相手に叩きつける風属性下級魔法――を凝縮させて発生させてみた。


「『ウィンド』」


 ぽしゅん。と気の抜けた音を鳴らし、弾丸が飛び出した。威力としては、人にあたると痛いだろうが、痣になる程度だろう。

 いかんせん銃身の底と弾丸の間に存在する空間が小さすぎるため、その空間にウィンドを凝縮させることが難しく、ウィンド自体がほぼ不発となった。


 単純にウィンドを発生させる為の空間をもう少し広くしてみよう。ちょうど無駄なシリンダーがある。そのシリンダーの中を空洞にすると、鶏の卵くらいの大きさの空間を確保することができた。再度、弾丸を生成し、


「『ウィンド』」


 と唱える。今度は今の僕でもぎりぎり制御できそうだ。集中し、発生する風をシリンダー内に詰め込み、一気に解放した瞬間――


 ガァン!


 と、けたたましい音を鳴らし、リボルバーとシックリさんが爆散した。


「ああ! リボルバーが!」

「シックリさぁん!」


 シックリさんの無残な姿にショックを受けているシックルは置いておいて、結果を考察する。

 おそらく、ウィンドは十分火薬の代わりになる。発射された弾丸も、先程とは異なり、それなりに威力がある。魔物にも効きそうだ。


 ただ、やはり銃本体の強度がたりないようだ。鉄を強く想像して銃を生成したが、どれくらい固いものが出来上がったのかは実際撃って、結果を見ないことにはわからない。

 ここからは、成功するまで何度も試してみるしかないか。


 クリエイト、ウィンド、爆散、クリエイト、ウィンド、爆散、クリエイト、ウィンド…………。

 

 その後、爆散に次ぐ爆散を繰り返すこと数十回、ついに爆散しない強度の銃が完成した。


 シックリさんが爆散する度に「あぁ……」と我が事のように悲しむシックルは途中から無視した。


「……」

「ごめんて」

「……」

「ごめんて! 今度、人間形態のシックル像作ってあげるから機嫌なおしてよ」

「……ほんとか? 綺麗に作れよ?」

「ちゃんと作るってば」

 さすがに家には置けないので、この広場の隅っこにでも作るか……。今度ね、今度。

 

 さて、小回りの利きそうなリボルバーは出来たので、次は射程と威力を向上させるためにライフルを作ろうと思う。


 リボルバー作成の際に学んだ「ウィンドを発生させる空間が必要」という点に鑑みて、手で握るグリップのさらに後部、ストックの部分が大きいウィンチェスターライフルのような形状の銃を作成した。


 銃の長さは一メートルス弱か。ストック部分を空洞にし、そこでウィンドを発生させることにした。空間の大きさは文庫本くらいだろうか。これくらいあれば、リボルバーよりも強い風を発生させられそうだ。弾丸はリボルバーに込めたものより大きくした

 

 また成功するまで試行錯誤することになる。

 クリエイト、ウィンド、爆散、クリエイト、ウィンド、爆散、クリエイト、ウィンド…………。

 

 数多のシックリさんを犠牲にし、ようやく爆散しないライフルが完成した。

 シックルは諸行無常を完全に理解したかのような目でシックリさんの残骸を見つめていた。


 威力はリボルバーよりは明らかに強力で、そこまで強くない魔物なら一発で倒せそうな気がする。ちなみに魔物はラック村の近くにもいる。森の奥にいけば遭遇するらしいが、僕はまだ会ったことがない。もう少し成長したらバジルが森の奥に連れて行って一緒に魔物との戦い方を教えてくれると言っていた。正直かなり怖いが、はやく戦ってみたい気持ちもある。


 銃本体は、一度クリエイトで作成したものを当分使えるが、クリエイトで弾丸を生成し、ウィンドで発射するという一連の流れは毎回魔法を使う必要がある。


 銃が完成するまで試行錯誤している中で、いちいち詠唱するのが面倒くさくなって、試しに無詠唱で一連の魔法を発動させてみると、成功した。


 なにげに、無詠唱で魔法を使えるようになったのはこれが初めてだ。だが、無詠唱だとどうしても頭と魔力制御が混乱し、発動に時間がかかってしまう。やはり、これもオリジナル魔法として自分の体に覚えさせることにしよう。

連射もしやすいように出来る限り短くしようと考え、


「『』」


 と唱えながら一連の流れを数回練習すると、何度目かの行使で、回路が繋がるような例の感覚が体を通り抜けた。これで、弾丸を生成し発射する一連の流れを行使する『』というオリジナル魔法の完成だ。


「『!』」


 と連射することにも成功した。空気圧を利用して発射するせいか、パシュッという発射音だ。音量はかなり小さい。むしろ僕の詠唱のほうがうるさい。


 銃本体は今回作ったものをずっと使用するので、名前を付けてあげることにした。

 リボルバーは『夜鳴鶯よなきうぐいす』と、ウィンチェスターライフルは『夜烏よがらす』と命名した。

 銃を生成する際、最初は銀色の鉄っぽい色をしていたが、強度を上げていくうちに、色が変化していき、最終的には真っ黒になったので、夜の名を冠することにした。

 素材としては、明らかに鉄ではなさそうだが、何になったのかはわからない。シックルは素材に心当たりがありそうだったが、教えてくれなかった。拗ねてるのか?

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