ごきげんよう、音楽、音楽家に関わるロマンスは多いですけれど、シューマンの妻クララへの愛、そしてブラームスのクララへの恋とも取れるような献身は有名ですね。
ただ私は、この最後の変奏曲に関するブラームスの逸話は知りませんでした。
ブラームスのクララへの想いが恋だったのならば。
敬愛する師の遺作へ、師の愛妻に横恋慕する想いが溢れたメロディを補遺する行為の背徳感と言ったら、きっと真面目なブラームスにはとても耐え難いほどの罪悪感を覚えさせたのでしょうね。
それでも熱情赴くままに遺作を「完成」させたブラームスが、寡婦となったクララに思いを告げなかったのは、ただ、ただ、自分の想いを押し殺すことで師に詫びたかったから、かもしれません。
特に有名なシューマンの最後の言葉を、ブラームスの妻への恋心を指したものだとする解釈は、この物語での彼の錯綜する胸の内を抉るような言葉であり、それがあったからこそ、クララへの想いを押し殺せたのかも、と思うと、シューマン自身がそれを知りながらどう考えていたのか、それも相俟って、この物語が特にロマンティックな仕上がりになっているのかもしれないな、と思いました。
ブラームスは、シューマンの三女ユーリエさんに恋心を抱いていた形跡があるそうですね。この連弾をブラームスから誘われた「私」がひょっとしたらユーリエさんかと思うと、余計にブラームスの抱えた心の傷が胸に沁みます。
素敵な、そして静かで優しい掌編を、ありがとうございました。
作者からの返信
ごきげんよう、本作は一応フィクションですが、なるべく史実として知られている情報をもとに書くことに努めました。ブラームスが『亡霊変奏曲』を連弾アレンジしてユーリエに捧げた逸話はあるそうです。そんな背景もあって、こんなラストに。
シューマンの最後の言葉は含みがいっぱいあっていくらでも解釈できそうだと思ったので、僕はこんな小話にしてみました。遺言が謎めいているのは僕の好きな作家エドガー・アラン・ポオもそうで、彼の「神よ、この哀れな魂を救いたまえ」をラストのセリフに当て込んだ映画もあるんです。ちょっとグロありなのでしのぶ様におすすめするのは憚られますけど、その映画の影響で「遺言がラストの展開を作っていくような話にしよう」と思ってこれを書きました。
この三角関係、僕はどうしてもブラームスに入り込んじゃうんですよ。尊敬する人の最愛の妻を好きになってしまうなんて悶絶というか、「そんな……神様……」みたいな。もう何と言っていいか分からないんですけど、僕はこの話を聞いた時「ブラームスくーん!」って叫びたくなったので、彼の魂に共鳴するつもりで書きました。その割にあんまり調べてないかもですが音楽は疎くてですね……でも、こんな感情もちょっとはあったはず!
僕はクラシック含め音楽には本当に疎くて、シューマンと聞いた時も「『シューマンの指』っていうミステリーあったなぁ」なんてミステリーを絡めたことしか浮かばないくらいだったのですが、ブラームスのエピソードを聞いて一気に興味が湧きました。世界が広がるっていいですね。感動。
こちらこそ、いつも読んでいただき嬉しいです。ありがとうございます!
恋は叶わなかったけど、心地よいラストでした。
子供と奏でる遺作。ステキ…
私、いつか手を出しちゃうのかなとハラハラしてたけど、よく我慢したな……
気持ちを知っていた師匠は、もしかしたらこの遺作をあえて未完にしたのかな、とも思っちゃうよね……
作者からの返信
これほぼ実話なのよ。遺作の行方とラストシーンは僕のフィクションだけど、師弟と妻との関係はリアルだから調べてみて。面白いよ!