第3話

「それじゃ、またね」

「おう、またな」

校舎に入ると、クラスが違う俺と梨沙はそれぞれの教室の席へと足を運ぶ。

自分の席で突っ伏していると、不意に前方から呆れ混じりの声が聞こえた。

「よう浅人。今日も義妹ちゃんに起こされたのか?」

こんな慣れた口調で俺に話しかけられるやつは、このクラスに1人しか居ない。

「おはよう直哉なおや。今日はずっと待ってたラノベ新刊の発売日だからな」

「お前も相変わらずだな....」

そう言いひたいを押さえる目の前のイケメンは、中学からの同級生である舞坂 直哉まいさか なおや

高身長で顔が良い上に高1にしてバスケ部のエース、そして成績優秀というまさに完璧超人と呼ぶに相応ふさわしい奴だ。

加えて性格も人当たりがよく、困っている人を見たら手を差し伸べるような優しさまで持ち合わせている。当然モテるが、本人いわく恋愛には興味が無いとのこと。

「仕方がないだろ…今巻はついに雪乃か結衣が選ばれる回だっんだ。徹夜をせずして何をする」

「いや普通に寝ろよ」

直哉とはを境に仲良くなり、

同じ高校に進学した今では互いに親友と呼べる間柄あいだがらとなっていた。

しばらく談笑していると、不意に直哉が周囲をキョロキョロ、そしてヒソヒソと俺に耳打ちする。

「な、なぁ浅人。お前、なんか綾瀬さんに

見られてね?」

「お前もついに頭がおかしくなったか....」

「おい」

「ホームルームを始めるぞー。水雫咲みなさき舞坂まいさか。何を堂々とヒソヒソ話をしているんだ?」

先生の声が聞こえた気がしたが、俺達は構わず続ける。

「あのな。相手はあの『Mana』だぞ?こんな地味で冴えないオタクのことを見るわけが無いだろう」

俺が視線を綾瀬さんへ向けると、やはり彼女は前を向いて読書をしていた。

「いや、本当にさっきまでお前のことを見てたんだって。それもガン見」

「お前も疲れてるんだな......たまには休めよ」

「だからなんでだよ」

「水雫咲、舞坂。後で指導室に来い」

「「すみません」」



ホームルームを終え、指導室で先生からの

愛のムチ(と勝手に解釈している)を受け、

4時間目まで授業を済ませた俺は

食堂で昼食をとっていた。

すると教室で部活のメンバーと昼食をとっていたはずの直哉が、何故かニヤニヤしながら俺に話しかけてくる。

「おい浅人、教室で綾瀬さんがお前を呼んでたぞ。お前と話がしたいらしい」

「綾瀬さんが?いや...何もしてない......はず」

2次元によくありがちなパシられ陰キャにはなりたくないな......実は最強とかいう属性持ってないし。

そんなことを思いながら、俺は綾瀬さんが

いる教室へと向かう。

「こ、こんにちは水雫咲くん。少し話さない?」

「何故?俺と綾瀬さんは接点が無い.......あ」

そういえばこの人、オタクだったな。変な格好をしてグッズを爆買いしていた綾瀬さんを思い出す。

「あの時の....」

「そうそう!ってことで、2人きりで話がしたいからちょっと付いてきて欲しいな」

もう少し言い方に気をつけて欲しいね!

本人にそのつもりは無いと思うがあらぬ誤解を招きそうだ。現に周りからの視線がすごいことになっている。

俺はその場から逃げるようにして綾瀬さんに付いて行った。


綾瀬さんに連れられた場所は屋上だった。

意外なことに、屋上を利用している生徒は

居ないらしい。すると俺の疑問に気付いた

のか綾瀬さんが言う。

「あ、えっと、屋上は普段使用禁止だよ?」

「ならどうして君は当たり前のように屋上ここの合鍵を持っているんですかね?」

綾瀬さんは胸を張って言った。

「先生に、

『サインあげるので合鍵ください』って頼んだら快く渡してくれたからだよ」

「さいですか.........」

その先生Manaのファンだろ....

「そんなことより! 朝もちょこっと聞こえてたんだけど、やっぱり水雫咲くんも見たんだね!今日の新刊」

綾瀬さんが目をキラキラさせながら話すのを見て、やはり目の前にいる美少女はオタクだということを再認識する。

そして直哉、体調を疑ってごめんな。

心の中で謝罪している俺を構わずに、綾瀬さんは続けた。

「やっぱり今巻の見どころは最後の主人公の

告白だと思うんだけど、水雫咲くんはどう

思う?」

「そうだなぁ…。俺的にはもう1人のヒロインの失恋シーンがかなり好きなんだけど………っと、もうこんな時間か」

俺が問いに返していると、5時限目の予鈴が鳴った。

「まだまだこれからなんだけどな〜。あ、そうだ。水雫咲くんさえ良ければ連絡先を交換しない?」

「……いくら払えばいいんだ?」

「私の連絡先をなんだと思ってるの?!」

「いやきみ、アイドルじゃん」

「今は無期限休止中だから!それに好きな時に集まってオタク話が出来るようにしたいだけだから!」

「まぁ、そのくらいなら大丈夫か...?」

「何を心配しているの?!」

「そのうちお前のファンに刺されそうだし」

「そんなことは起こらない.......とは言いにくいかも」

この人のファン、熱狂的な人が多くてコワイんだよなぁ。

まぁ…こんな美人と連絡先を交換出来るわけだし、役得だと思えばいいか。

「...はい。俺のLINEね」

「!。ありがとう水雫咲くん」

連絡先を交換するとそこには『Manaka』と

シンプルな名前が画面に表示されていた。

おぉ.....ついに俺の携帯にも幼馴染と義妹以外に女子の連絡先が加わるとは。


_______________________________________


教室に戻るなり、すぐに直哉が興味津々に耳打ちしてきた。

「おかえり浅人。何の話してたんだ?」

「綾瀬さんとオタク話をしてた」

「お前疲れてんの?」

おい。

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