第4話
「すっ、すごい」
目の前に広がっているのは豪華絢爛で広い部屋。シャンデリアに花が入っている花瓶ですらお高く見える。
――元平民の自分がいかに場違いなのか嫌でも分からされてしまうほどだわ。
今はそうでなくとも、前世はごくごく普通の女子高生だった私にとってはどれこれも目の前に広がる世界はまるで別世界。
「……」
そんな大きな会場に煌びやかに着飾った貴族たちがたくさん来ていた。
――多分コレ。この国の貴族全員を呼んだんでしょうね。
しかも、私たちが来たのは他の参加者よりも少し遅かったらしく、殿下の前にはものすごく長い行列が出来ている。
――挨拶は絶対にしないといけないモノだって聞いたけれど。
ただ、私はあまり並ぶのが好きではない。それこそ、こんなに長い行列を見てしまうと……ものすごく気が滅入る。
「どうした?」
「ううん! あの、少し驚いてしまって」
私がそう言うと、父は不思議そうな表情をする。どうやらこうった光景はよく見るモノらしい。
「えと。こんなにたくさんの人がいるところに来るのは初めてですし、何より殿下にお会いするのも初めてで……」
そう言いつつ私は父の服の端をギュッと握りしめた。
――私自身は「なんて事ない」って言いたいところだけど。
やはり不安は拭えないのか、体が勝手に震えてしまう。私はそれを隠したかった。
――こんなの「子供っぽい」って言われるかも知れないけれど。
今の私はまだ「子供」な上に、ここで対応次第で自分の未来が決まってしまうと言っても過言ではない。
それこそ「緊張するな」という事の方が酷だ。
そんな私に対し、父は「ふっ」と小さく笑うと優しく「大丈夫だ、私がついている」と私の手を握りながら声をかける。
たったそれだけの事なのに、私の体の震えは止まった。
「列はまだ長いから。ゆっくりと待つとしよう」
そう言う父に対し、私は笑顔で「はい!」と答えた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
――それにしても。
「初めまして殿下!」
このくらいの年になれば、基本的なマナーは身についているらしく、前世で見た様な「落ち着きのない子」と言うのはあまり見当たらない。
――うーん「落ち着きがない」というよりは「怯えている」の方が正しいかも知れないわね。
そういったこの場の雰囲気に飲まれている子の大体が下級貴族で「初めて王宮に来た」という様子だった。
しかも、どうやら今回のお茶会には私と同じくらいの年の女子だけでなく、男子も呼ばれているらしい。
――という事は「婚約者探し」よりも「友達探し」という意味合いの方が強いのかしら?
それでもまだ安心は出来ない。それこそ、今回のお茶会の目的は『この両方』という可能性もある。
「よく来た。楽しんでくれ」
――ん?
並び始めはあまりにも王子との距離が遠かったためか話している内容までは聞こえなかったが、ある程度の距離になって聞こえる様になった。
「……」
しかし、その聞こえた話の内容に私は引っかかりを覚えた。
確かに、主催である王子に挨拶をするのは「当たり前」で、逆にしなければ不敬罪になりかねない。
ただ、全員が全員王子に挨拶に来るため、もはや流れ作業になってしまうのは仕方のない話だろう。
――むしろ怒り出さないだけマシね。
しかし、ゲーム上の『ゲーテ・アクア王子』は「基本的に冷静沈着。たまに見せる優しさがたまらない」と言う印象が強かった。
――だから、基本的に話し方は敬語でこんな言葉遣いはしなかったはず……。
「初めまして、殿下」
時たま聞こえてくる王子の言葉使いに疑問をしつつ、自分の順番になると、父からの紹介を受けて私はゲーテ王子に丁寧にお辞儀をし、何事もなく王子との挨拶を無事に終えた。
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