第4話


「確かに、今のお嬢様とは全然……それこそ、全くという表現を使っても良いほど、違いますからね」

「そもそも『私』という自我の様な存在が内にいて、それが表に出て来た……とかそういう感じじゃないから、過去のカナリアに戻れって言われても無理なんだけどね」


 カナリアはかなり傲慢で自分勝手な人間だ。


 王子に関しては、ゲームをプレイした十五歳の年しか知らないため、今の王子がどうなのか全く知らない。


 ――とりあえず、ゲームの中での二人の関係は初登場の時点でかなり悪かった。


 それに、ゲーム中の王子は「カナリア嬢との婚約は自分の意思ではない」といった様な事を言っていた。


 ――と言う事は、全てを王子の意思で決めるというワケでもないと言う事なのかなとも思えるけど。


 目の前にある招待状を見ながらその真意を考える。


 ――それに、確か王子には弟がいたのよね。


 そう、このゲームが始まった時点で王子には五歳年の離れた弟がいるという設定がある。つまり、その弟の立場としては「第二王子」に当たるのだが……その王子と王位継承権の争いが起きていた。


 ――五歳差……という事は、既に生まれていると考えるのが妥当かな。


 ひょっとしたら、この時点で王位継承権の話が出ていたのかも知れない。


 ――でも、王子同士の兄弟仲は良かったはず。


 そう、周囲の人たちの反応なんて気にする事なく、当の本人たちは普通の兄弟と同じように仲が良かった。


 そして、第二王子である『ヴェリア』は「兄さんを支えられるような立場になる」と言っていた。


 ――その様子があまりにも健気で……。


 私はついつい笑顔になっていた。


 ――でもまぁ、そもそも第二王子ルートなんてないのだけど。


「……」


 そして、ひょっとしたらこの王位継承権の問題を解消するためにカナリアは婚約者にされたのかも知れない……という結論に至った。


 それに、カナリアは王位継承権の話も相まって第二王子を毛嫌いした様な描写もあった。多分、普段の振る舞いに加えてそういったところも王子に嫌われている要因だったのだろうと。


 ──それに、カナリアが「王子と結婚したい!」みたいな事を言ったかも知れないわね。


 どちらにしても、今の私は「王子との婚約断固拒否!」なのだが。


「むっ、無理に嫌われる様な事をする必要もないとは思いますが」

「確かに、そうね」


 そう、要は関わらなければそれで良いのだ。


 ──でもなぁ。こういった場合。


 なぜか決まって「関わらないといけない」という状況に陥りやすい傾向になる場合が多いのはむしろ「お決まり」とすら感じる。

 もしくは、私自身は関わったつもりがないのに、どこかしらで関わってしまっている可能性も否定出来ない。


 ──そうした場合。興味を持たれる傾向が強いのよねぇ。


「でもまぁ」


 ――私は主人公ではなく、悪役令嬢の『カナリア・カーヴァンク』だし。


 それこそ、主人公の専売特許の様にも思えてしまうが、カナリアにその可能性が全くないという事もない。


 ──それに……。


「どのみち、王子に挨拶はすべきでしょうし」

「そうですね。お嬢様は騎士団長でもある旦那様の娘に当たりますし」


 王子と分からずに誰かがになりすます……なんて事も考えたが、それはさすがにないだろう。


「当日は旦那様も付き添われる予定です」

「あ、そうなの?」

「はい。お嬢様もまだ五歳ですので」


 ディーンにそう言われ、私は思い出した様に「そっ、そうね」と頷く。


「お嬢様……お嬢様はたまに忘れてしまいますが、あなたはまだ五歳の子供です。それをお忘れ無きように」


 そう釘を差される様に言われると、私は思わず「うっ」となってしまう。


「そっ、そうね。お父様が来られるのなら、あんまり派手な行動は出来ないわね」


 新たな事実を知り、私は「はぁ」と深いため息をつくしかなかったのだった。

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