第2話
「……」
この世界には『魔法』というモノが存在しており、ここ最近私はもっぱら魔法書を読み漁っている。
――ディーンは『結界』が張れるらしいけど。
ディーン曰く「この世界には『魔法』が存在しているからこそ、出来る事」らしく、元々存在していないところでは使う事も容易ではないらしい。
――だからこそ、前世でディーンが現れたのが死んだ後だった。
今でも私はディーンが『天使』という話は信じていない。
――それに、一応『結界』についての記述もあるし。
ただし『結界』は張る事自体難しくらしく、ディーンがした様な植物園全体や部屋一室分となると、かなりの使い手になる様だ。
――でも、それじゃあ『天使』というよりも『魔法使い』じゃない。
「どうかされましたか? 難しい顔をして」
「いーえ? 別に?」
何にせよ「ディーンが普通の使用人とは違う」という事はよく分かったし、そもそも分かっていた。
――それに、このゲームでの『魔法』はそこまで重きを置いていないし。
「魔法書、ですか」
お茶の準備をしつつディーンは問いかける。
「ええ。ちょっと気になる事があってね」
「気になる事……ですか」
「うん。カナリアって、魔法の才能はあったのにそこはあんまり強調されなかったなって思って」
「ああ、この世界での『魔法』は日常生活を豊かにするために使われる傾向が強いですから」
そう、実はこの世界。戦闘に『魔法』を使うほど窮地に陥っているワケではない。魔物がいるというワケでも、国同士が争っているワケでもないのだ。
――とりあえず『魔法学校』を舞台とした乙女ゲームを作りたかったから『魔法』が必要だったとしか思えない。
それを象徴するかのように、主人公の魔法は『光』である。
「この魔法書を見る限り『結界』が張れるのは『風』となっているから、あなたの魔法属性は『風』なのかしら?」
「……黙秘します」
「主でも?」
「そもそも、元々持っているとされている魔法属性に関係なく様々な魔法を使える人はいます」
ディーンの言葉を受け、カナリアは驚いた。
「え、てっきり一人一つの属性しか使えないと思っていたわ」
「たっ、確かに元々持って生まれた属性の魔法よりも練習や熟練度の差は出ますが、使う事は可能です」
そう言いつつ、ディーンは魔法書のある部分を指す。
そこには確かに、ディーンの言う通り「四大属性の魔法を使う事は魔法の才能があれば、差はあるものの可能」と書かれている。
「ちなみに、カナリア様の魔法は……」
「ゲームの設定通りっていうのであれば『氷』ね」
――まぁ、この『氷』も稀少な魔法なんだけどね。
実はこの世界での四大魔法とは「風・火・地・水」であり、ごくごく稀に『その他』の魔法が発現する事がある。
そして、私と主人公の魔法はその『その他』に分類される。
「つまり、お嬢様は誰にもマネの出来ない『稀少魔法』を使う事が出来るというワケですね」
「そう……なるわね」
――主人公と悪役令嬢とされる私が言ってしまえば同じ立ち位置って事なんだけど。
いくら『光』と『氷』とは言え、稀少価値という意味ではどちらも変わらないが、ディーンの言う通り「生活を豊かにする」という目的であれば、氷の方が使い勝手は良さそうには思う。
「カナリア様は五歳で魔法の元とも言えるモノを発現させました。そして、既に基本的なモノであれば、全ての属性を使えます。それを考えると、確かに魔法の才能はありますね」
ディーンはそう言って頷く。
「……」
「どうされました?」
「いや、あなたがそう言うのは意外だと思ってね」
「そうですか? 私は純粋に『すごい才能』だと思っただけですよ」
そう言いつつディーンは「そろそろ休憩しませんか」と言わんばかりにお茶の準備をしている。
「でも、その才能も使い方を間違えれば破滅一直線っていう事よね」
――まぁ、どちらかというとカナリアの自滅と言っても過言ではないでしょうけど。
この才能をもっと別の方向に……それこそ「自分の将来」または「この世界のため」に使えば、もっと違った未来があったかも知れない。
「それにしても、カナリアは全然勉強をしなかったのね」
高熱にうなされてからしばらく経ち、ここ最近ようやく本格的な勉強が始まった……のだが、その最初の授業で家庭教師に泣かれた。
「あ、はは……」
それに関してはもはや笑うしかないらしいのだが、その笑顔は何となく引きつっている様に見える。
――ひょっとしたら、家庭教師にも意地悪をしていた可能性があるわね。
あくまで推測ではあるが。
「でも、今の話を聞いた限り。今から魔法を学べば、元々使っていた魔法に加えて、四大魔法を使う事も出来るって事ね」
「そうなりますね」
「つまり、これからどうするか……が問題という事ね」
そう言うと、ディーンは「はい」と答え、私は休憩を取ることにした。
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