第二章 王宮からの手紙
第1話
「……」
夜遅く、騎士団長でカナリアの父親であるアリウス・カーヴァンクが帰宅し、カナリアのいる部屋の前にいた。
「おかえりなさいませ。旦那様」
「ディーンか」
ディーンはちょうど見回りの為に廊下にいた。
「どうかされましたか?」
「ああ……カナリアの様子が気になってな」
騎士団長であるアリウスは基本的に仕事場である王宮にいる事が多い。しかも、なかなか家に帰ってくる事も出来ない。
ただ、本当は仕事も放り出してカナリアの元に駆けつけたかったに違いなかったはずだ。
そして実は「娘が高熱を出して寝込んでいる」と言う事はアリウスのいる騎士団にも報告が上がっており、周囲の人たち。それこそ、アリウスの同期で副官である友人にすら「早く帰れ」と言った。
しかし、アリウスは「騎士団長である自分が私情で動いては周囲に示しがつかない」と言って譲らなかったのだ。
「カナリアは……」
ただ、周囲の人たちに対してはそう言ってもやはり心配だったのだろう。アリウスの表情は「娘を心配する父親」そのものだった。
「熱はすでに下がり、今はぐっすりと眠っています」
「……そうか」
ディーンの報告を受けたアリウスは「ホッ」と胸をなで下ろしている。多分、口には出していないが「良かった」という言葉が付くだろう。
なんてディーンはアリウスの様子を見ながらそう思ったが、当然そんな事を口に出すつもりはない。
「……」
それに、アリウスはカナリアを溺愛しているが、それは大切に思っているが故だという事はディーンもよく分かっている。
しかし、そこでディーンはふと疑問に思った。
――どうして忙しいアリウスが帰ってきたのだろうと。
「ディーン」
「はい」
ディーンの視線に気がつき、アリウスは気を取り戻すように「コホン」と咳払いをすると……。
「これを」
「コレは?」
アリウスからディーンに手渡されたのは封筒だった。
しかし、基本的に貴族に届く「手紙」というモノは直接相手に渡るモノではない。むしろ、一度使用人の手に渡り、安全性を確認した上でようやく届く。
つまり、差出人が「何かするかも知れない」という危険性が常に貴族につきまとうという事だ。
そして、その「危険性」は貴族の中でもある階級が上がれば上がるほど大きくなる。それこそ「王族」ともなれば……細心の注意が必要だ。
「――王子とカナリアが同じ年という事は知っているな?」
「はい」
そう、この国の第一王子はカナリアと同い年である。
「その王子が今度お茶会を王宮でするらしい」
「! では、コレは……」
アリウスの言葉でこの手紙が何なのか察したディーンは驚き、アリウスはそれに対して頷いた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
朝、目が覚めるとちょうど良いタイミングで扉をノックする音がし、その後カナリアの専属のメイドという『メイ』が現れた。
「おはようございます。お嬢様」
「あ、おはよう。メイ」
私は軽く伸びをしながらメイに声をかける。
「早速準備をしちゃいますね!」
「うん、よろしくね」
笑顔で言うと、たったそれだけでメイは「嬉しい!」と言わんばかりのリアクションを見せる。
「ふふ」
そのリアクションを見ているだけでとても嬉しくなるし、何より可愛い。むしろ自分よりもメイが令嬢であれば、その可愛さに引く手数多だったに違いないと思うほどだ。
――それなのに、私は……。
「……本当に、今までごめんね。メイ」
しかし、以前のカナリアはそんな可愛い彼女に対してもワガママや意地悪を繰り返した。
――本当に、バチが当たってもおかしくないわ。
ひょっとしたら、その「バチ」が今なのかも知れないと思うと、苦笑いをしたくなる。
「何を言っているんですか。全然気にしていませんよ」
笑顔で言うメイはいつもカナリアを許してくれる。多分コレはカナリアの記憶だろう。
――きっとカナリアも本当は……感謝していたのかも知れないわね。
そんな彼女に対し、前世の記憶を取り戻した私は彼女に初めて会った時にすぐに謝罪をした。
実はディーンに言われて医者を呼んできたのはメイだったのだ。
その時もメイは今の様に全然気にしていない様なリアクションだった。
正直、メイだけでなくこの家にいる使用人全員に謝罪行脚をしたいくらいだったが、
――みんなにかなり心配をかけちゃったし。
「体調も随分よくなられましたし、そろそろアルカ様もお許しになると思いますよ?」
「そう……だと良いけど」
「アルカ様も旦那様もお嬢様が心配なんですよ」
「……」
それは何となく分かっていた。ゲームの中ではその姿こそ出てこなかったが、カナリアの言動から名前だけは知っていた。
ちなみに、前世の記憶を取り戻してからその『アルカ・カーヴァンク』と会って少し話しているのだが、本当にその姿は父親のアリウスの若かりし頃にソックリだった。
でもまぁ、結局のところ。容姿がかなり整っているのは、言うまでもないのだが。
――イケメンじゃないといけないっていう決まりがあるのかしらね。
「そうだ! お嬢様。今日は天気も良さそうですし、外に出ませんか?」
「え、いいの?」
「はい! 体調も良くなられましたし、ディーンさんにも聞いてみますね!」
私が尋ねると、メイは笑顔でそう言い、私はそんなメイを見てまた小さく笑ったのだった――。
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