第4話
「はぁ……」
診断が終わった後、私は大きなため息と共に頭を抱えていた――。
「失礼致します、お嬢様」
「……」
ノックと共に入って来た執事に私はギロリと睨みつける。
「おお、盛大に頭を抱えていらっしゃる」
笑いながら……ではないものの、笑いそうになっているのが無性に腹が立つ。
「はぁ」
「そんなにため息をついていたら幸せが逃げていきますよ?」
「幸せ……ね」
そう言いながら私はまたも軽く息を吐く。
「どうされたのですか? せっかくこの国の騎士団長。ひいては上位貴族に生まれ変わったというのに」
「……そうね。普通に考えれば、そうよね」
私はそう言いつつも顔を下に向けた。
――確かに「普通」に考えれば、そうよね。
私はこの国の騎士団長の娘。そして、兄である『アルカ・カーヴァンク』は「公爵」という立場にいる。
――まさか、この国ではどうやら騎士団長は公爵と同じ扱いになるのね。
既に兄は「公爵」として立派に領を治めているが、実は結婚していない。
――年齢的に結婚していてもおかしくはないのだけど。
ただ、高熱にうなされている時に一度忙しい合間を縫ってお見舞いに来てくれたらしいのだが、残念ながら全く記憶にない。
「はぁ、でもまさか。よりにもよって『カナリア・カーヴァンク』に生まれ変わるとは思わなかったのよ」
「?」
小さく呟かれる言葉に青年は「それの何が問題か問題でしょうか?」と言わんばかりに首をかしげる。
端から見れば、確かに「羨ましい立場」に今の私はいるだろう。
――だけど……。
「大問題よ」
「……なぜ?」
青年は本当に分からないのか、そう言って考え込む様なリアクションを見せる。
「その反応を見るに、本当に分かっていないみたいね」
「?」
「私はね。この人が辿るであろう『結末』まで知っているから……どうしてもね」
「結末……ですか?」
そう、実はこの人物はカナリアが前世で唯一と言っていいほどプレイの乙女ゲームで出て来た『悪役令嬢』だったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「悪役令嬢……か」
「はぁ、ええ」
つい先程、診断してくれた医師に自分の名前を言われた。そして何よりついさっき、自分で顔を確認したのだから間違いようがない。
――本当に「美人」だとも思うけど。
それでも、やっぱりこれから先。彼女が辿るであろう『未来』を考えると、憂鬱になってしまう。
「うーん、君の記憶を辿って君が何となくでも知っているところが良いだろうと思ったんだけど」
「それは……ありがとう」
「それはさすがに予測が出来なかったなぁ。でもさ、そのゲームだっけ? 結局最後はどうなるの?」
「……良くて国外追放か、最悪の場合は死ぬ……かな」
私はそのゲームを前世で「唯一やり込んだ」という事もあり、、どのルートの結末も知っている。
――でも、どれも無傷で終わった試しがないのよね。
「それは……穏やかじゃないね」
そう言いつつ青年の顔は明らかに引いている。
「まぁ、私の条件に合わせてくれたというのであれば、この『カナリア』に行き着くのは……分かるけどね。確かに条件に合っているから」
そう、確かに私は『今まで体験した事のない事が体験出来る世界』を指定した。
――まぁ、確かにコレは体験した事のない世界だわ。
「まぁ、お金持ちとか普通は体験出来ないからね。でもそっか『悪役令嬢』か」
確かこのゲームの主人公の最初の立場は『平民』だった。
しかし、ある日ひょんな事から男爵の子供。つまり『貴族令嬢』だと言う事が分かり、そこから主人公の人生は大きく変わり始めるのだが……。
「まぁ、要するに最初は『平民』だから、私の条件には……合わないか」
「そうだね」
――この際「平民から逆転劇してハッピーエンドになる世界」って言えば良かったかな。
確かにこの世界の『カナリア・カーヴァンク』は私の条件に合っているが、このままではこの世界でも天寿を全う出来るか怪しい。
なんて事を考えたとそこで、私は「あ」と思い出した様に声を出す。
「そういえば、あなたどうしてここにいるの? それに、その格好は……」
「え? ああ、そうだった。あの時はメイドに遮られちゃったんだった」
青年もその時の事を思い出した様だ。
「僕はこの世界で『ディーン』という名前でこのカーヴァンク家で執事をしているんだよ」
そう言って『自称天使』の青年は笑顔で答え、私はその答えに「え」と言葉を零したのだった――。
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