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とそういうわけで、
七人掛けの椅子の一画に座ったぼくは、今やアンティークと言ってもいいCD専用のポータブルプレーヤーで音楽を聴きながら、心を鎮めたいときだいたいいつもそうするように、向かいの窓を流れる景色をぼんやりと眺めている。
アルバムは言うまでもない、近年再ブレイクを遂げたアイドルグループ、『月極ディーヴァーズ24』のヒットアルバム、『帰ってきた月極ディーヴァーズ24』だ。
監督には言いそびれてしまったけれど、何を隠そうこのぼくも、ディーヴァーズの結構なファンなのだ。
正確に言うとセンターを務めている
と気が付けばいつものように、花音さんのことをぼくは考え始めている。
一昨年に颯爽とデビューした初香花音。当時17歳。身長は163㎝、体重は45㎏。
初期のディーヴァーズ人気を支えていた
ぼくは花音さんが初めてトップに輝いた、2017年度のレギュラーメンバー選抜総選挙のときのことを思い出した。
ディーヴァーズ史上初、第二位に百万票以上の圧倒的な差を付けて、文字通り破格のトップ当選を果たしたあの夜の、あの、地面が揺れるほどの熱気と歓声を。
初登場時には社会現象まで巻き起こしたほどのディーヴァーズだから、監督のように刺青まで彫ってしまう熱狂的なファンがいても何らおかしいことじゃない。実際ネットで検索すれば、その手の輩はゴロゴロといる。ボディーいっぱいにメンバーの萌え絵が描かれている
と今さらながらだったけれど、監督に強い仲間意識を覚えてしまうぼくだった。
うん、あの人の下で働いてみるのも、悪くないのかもしれないな。
——でも、ぼくは知っていた。きっとぼくは、明日出社しないだろうということを。
やはり一番のネックは、母さんのことだった。
あの病的なまでに性的なことを嫌う母さんが、アダルト業界で働くことを、許してくれるはずもない。監督には申し訳ないけれど、落ち着いて考えてみて、はっきりとそれがわかった。
とそこでぼくは監督から教えてもらったURLを、スマホに入力するだけしてみたのだけど、案の定検索結果を表示することはできなかった。
そうして山手線を一周したあとで、ぼくは実家のある駒込駅で電車を降りた。
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