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監督がにかっと笑いながら、ぼくの肩をバシンと叩いた。
「ルパン君、私は君が気に入ったよ。今時あんな風に頭を下げられる真面目な人間なんて、そうそういたものじゃないからな。私だったら隙を見て逃げ帰るところだ」
「い、いえ。実を言うと、できるならそうしようと思っていたところですから——」
「そういう正直なところが気に入ったんだよ!」
「あ、ありがとうございます……」
力なく笑うぼくに監督が続ける。
「それに、亡くなられたお父さまのことと、お母さまのお身体のこと。そして厳格な教育の下で育てられたゆえに、AVをほとんど観たことがないという点も気に入った。よってぜひともここで働いてほしい。人手がどうしても必要なんだが、真面目でAD経験もある君なら文句の付けようがないからな。そうしてくれれば、ビッグな情報も知ることができるぞ?」
「と、言いますのは……?」
思わず尋ねると、監督は意外にも言葉に詰まった。
「っとと、それはまだ言えないんだ。部外者に教えるわけにはいかんからな。一回忘れてくれ」
「……わかりました」
少し気になってしまったけれど、きっとぼくには関係ないことに違いない。
「ではあらためてお願いしよう。ぜひとも我が社
監督がヤクザではないことは理解したし、好意をとても嬉しく思ったぼくだったものの、混乱が続いているのは事実だった。
「そんな風に言って頂きありがとうございます」ぼくは頭を下げた。「ですがあの、正直に申しまして、自分の気持ちがよくわからないんです。情けない話ですが、母親も説得しなければいけませんし……。ですので、一晩だけ時間をもらえないでしょうか?」
暑さと緊張で既にくたくたになっていたせいもあって、率直な気持ちをぼくは言っていた。そうして言い終えてから初めて、図々しいお願いだったのでは? と思って一瞬ひやりとしてしまったけれど、あっさりとOKしてくれる監督だった。
「よし分かった。今日の撮影は西と二人だけでもいけるからな。明日の朝一までに決めてくれれば問題はない。もしも働く気になったなら、明朝十時までにこのスタジオの、103号室まで来てくれないか。九時には私がいると思うから」
監督がスタジオの地図が載っているフライヤーを差し出して、ぼくはそれを受け取った。
「わかりました。なんだか、すみません」
「謝ることはない。むしろそうしなければならんのは、振り回しているこっちの方だ。そもそもの話、君に落ち度はひとつもないんだからな。妹尾がうちの会社のことをちゃんと教えなかったこともそうだし、やつのとこで受けた仕打ちも、本来なら訴え出てもいいくらいのものだろう」
監督は全部わかってくれてるんだ、とうるっときてしまいながらぼくは言った。
「そう言ってもらえると、助かります」
「いやいや、それはこっちの台詞だよ——っとそうだ、ちょっとそのチラシを一度返してくれ」
「はい……?」
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