6
ぼくは、目だけを動かして天井を見渡した。
形が電球に似せてあるものだから気付かなかったけれど、よく見ると、確かにそれと思われるものが中央に設置されている。つまり今この瞬間のぼくの顔もバッチリと撮影されているということだ。
とそうなると、一体どうなる?
たとえ履歴書を取り戻したとしても、ぼくの姿形は残るということか。
しかも最近のものだったら鮮明に映っているに違いない——いや、と言うかその前に、強引に逃げるなんてそんなこと、やっぱりぼくにはできそうもない……
ぼくは腰の力を抜くと、内心でがっくりとうな垂れた——直後、壊れてしまうんじゃないのか? という勢いで監督がガチャンと受話器を戻し、サングラス越しにぼくを睨んだ。
「すまんな。何とも情けないことに、ルパン君の前に雇ったADがこのザマでな」
「そ、そうでしたか」
「ったく、ADになれば、生AVをお気楽にただで観られるものと勘違いしている輩が多くてな。テレビ業界でもいるだろう? 生で芸能人を観られるからという安易な志望動機でADになろうとするやつが」
「た、確かに」
監督が頑丈そうな歯を見せた。「いやあ、しかしルパン君が現れて助かったよ。君ならADの大変さをちゃんと知ってるしな。知ってるんだよな?」
「は、はい、一応は……」
何だか評価してくれているようだったけれど、既にぼくがここで働くことが決定しているかのようなその言い回しは、ぼくからすると、脅されているも同然だった。
監督が毛の生えている太い指で太い膝をパシンと打った。
「ああっ、すまんすまん。答えをまだ聞いてなかったな」
そう言って、西さんの淹れた麦茶を一口飲んだ。
「それで、かまわないんだな? うちで働く件については——おい、どうした? ルパン君。具合でも悪いのか? ずい分顔色が悪いようだが?」
「あ、あの、監督……」
意を決したぼくは、ゆらりと立ち上がった。
こうなったら下手な策を講じることなく、正直に言うしかもう方法はないと思いながら——その拍子に、顎に溜まっていた汗が手の甲にポトリと落ちた。
「なんだ、暑すぎてめまいでもしたのか?」
「いえ、その……」
ぼくは驚いた顔でぼくを見上げる監督を漠と見つめ返しながら、一歩分脇に移動した。
そうして移動したあと、両膝上のジーンズ生地を両手でつまみながら、そっと床に正座した。それから目の前に両手をついて、深々と頭を下げる。
「監督、大変申し訳ありませんが、今回の話は、辞退させて頂けないでしょうか……?」
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