第11話 ずぶ濡れの悲劇①

 不穏な空気は気のせいではなく、もちろん梅雨の湿気のせいでもなかった。


「ちょっと、聞いてよ!」

「あ、墨田さん。何かありましたか?」


 ある日、買い物を終えて、帰宅した桜木さんが玄関に入ろうとしたその時、墨田さんに捕まった…いつも外を伺っている墨田さんだからなせる業。桜木さん、かわいそうに。


「見て、これ!」

 

 あれよあれよというまに、墨田さんちの駐車スペースに引っ張りこまれる、桜木さん。


「うちのカーポートにはめ込んだプレート、びしょ濡れなの!!」

「あ、ほんとですね。かなり、濡れてますね…でも、どうして?」


 おぉ、確かにきれいな水玉模様。飛び散った土もついている。間違いない。白沢さんが水やりしたんだ。さらに、水の勢いが強すぎて、境界のプレートに水。そして、庭の土も飛び散っている。これは、ひどい。


「な、なんて言ったらいいか・・・」


 桜木さんも言葉につまっている。そうさ、何も言えない、何も出来るはずもない。


「車にも水が散って、うちの主人は今、洗車しにいってる。もう、あり得ない!これって仕返しでしょ?信じられない!」

「し、仕返し!?」


 墨田さんの剣幕に、桜木さんも引いている。無理もない。桜木さんにとっては、今や、白沢さんも墨田さんも同じぐらい怖いだろう。


「一旦、落ち着きませんか。状況を…」

「落ち着いてられるわけないでしょ!」


 あれれ、とんだとばっちり。桜木さんが墨田さんに怒鳴られた。

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