第6話 春の嵐⑤

 翌週、桜木さんが緊張した面持ちで白沢さんちのインターホンを押すのが見えた。


「こ、こんにちは。桜木です。」

「あら、どうしたの?」

「先日は、本当にすいませんでした。主人とも話したのですが、白沢さんの娘さんにこれ以上甘えるわけにはいかないという結論になりまして。明日からは娘一人で登校させます。無理をいってお願いしたのに、申し訳ありませんでした。今までありがとうございました。」


 なるほど、あえて白沢さんの娘さんの実態には触れず、引き下がる。桜木さん、賢い選択だ。白沢さんの場合、娘の非を指摘されれば、逆切れ必至。余計にこじれることは明らかだ。


 桜木さんが白沢さんちを後にするところに、突然、墨田さんが現れた。


「ねぇ、もしかして今、白沢さんちに行ってた?」


 興味津々の墨田さんだ。彼女は専業主婦で、日中はずっと自宅にいる。時々、リビングのカーテンが不自然に揺れるのは、車の音や人の声がすると外をうかがっているからなんだ。


「あ、墨田さん。実は…」


 精神的に参ってる時は、誰かに話を聞いて欲しい。さらに、タイミングよく、自分を気にかけている素振りを見せられれば誰だって、口も軽くなるってもんだ。でも、桜木さん、ちょっと思いとどまってくれ。それこそ、墨田さんがどんな人かもよく分からないだろ。また、悪い予感がする。

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