第167話 年初から始めたこと
正月早々から二泊三日の紀伊半島一周の旅に出かけた様子を、これまでに7編に分けてご紹介しました。宿泊地から送った簡易なエッセイから、自宅に帰ってからまとめた紀行文と、まとまりのない文面でした。出発してからほぼ一週間が経過したわけですが、今でも当時のスーパーカブでの旅行を思い返しています。感傷に耽っているのではなく、この小さな旅行記を題材にして、一本の小説を書き上げようと決めたからです。
昨年、「サピエンス全史」に影響を受けたことを紹介しましたが、その余韻から様々な本を購入しています。ジャレド・ダイアモンド著作の「銃・病原菌・鉄」と「文明崩壊」。それに青山和夫著作の「古代アメリカ文明」等です。これらは古代文明の変遷に関した文献になります。パソコンの前に積み上げているのに、小説を書き始めたせいで、これらの本を読むことはしばしお預けになりそうです。
これまでに5本の長編小説と大量のエッセイを書いてきました。それらは書き上げると直ぐにネット上に投稿していました。でも、今回の小説はネット上では公開はしません。3ケ月から4ケ月くらい、しっかりと時間を掛けて作り込んで、新人賞に応募します。プロの目から見て僕の作品がどのように評価されるのか、試してみたい。
ただ、賞レースで注意しなければならないのは、文体や内容が素晴らしいから受賞するわけではないことです。このような言い方だと少し誤解を受けそうですが、賞レースで必要とされるポイントは「時代性を伴なった新しさ」になります。何かの二番煎じのような作品は、どんなに素晴らしい内容であっても相手にはされません。重要なことは、新しい「価値」の創出なのです。ここを理解して取り組まないといけない。
「サピエンス全史」を読んで感じたことの一つに、新しい価値が次の時代を作ってきたという歴史のダイナミズムがありました。それらの価値とは、宗教であり、啓蒙思想であり、資本主義、国家主義、社会主義等になります。
古代においてそれらの価値は、人間が団結して組織を作り上げることに貢献してきました。国家が生まれ、人間社会に封建的な階層が生まれます。そうした時代が何千年も続いたのですが、今から200年前くらいからその流れが変わりました。それまでの社会では真理とは神の事です。この世界の成り立ちは、神によって説明されてきました。ところが啓蒙思想から始まる科学的な思考は、研究と実験の繰り返しから真理を掬い取ろうとします。その成果は、核兵器を生み出し、人間を月に送り込み、人間よりも賢いAIをも生み出しました。それだけではありません。もっと大きな変化は、人間が一人でも生きていくことが出来るインフラの整備になります。
封建社会の役割とは、多くの人々が力を合わせて生きていくためのシステムです。農業にせよ、工業にせよ、皆で力を合わせるから多くの生産物が生まれ、国家として存続することができました。ところが、現代では、基本的人権が生まれ、社会福祉が整備され、24時間いつでも買い物することが出来ます。様々なサービスを受けるためには、お金さえあれば多くの問題を解決することが出来ます。つまり、何かしらのコミュニティーに所属しなくても、一人で生きていくことが出来る土壌が整ってきたのです。これは、過去にない大きな変化になります。
世間的に、PTAや自治会といったそれまで地域を支えてきたコミュニティーが消滅している事例があります。また、昨年は多くの巨大組織が問題を起こして謝罪に追い込まれました。つまり、人間社会で必要とされていた組織が、段々と人々から倦厭されているのです。人間社会を安定に向けて発展させればさせるほど、社会を担っていた組織から人々が離れていっているように感じます。
それは、家庭においても同じことが言えます。古代から家族のつながりというのは非常に大きな力でした。家族の形態は「家父長制」がスタンダードです。ところが現代においては、父親の地位というのは地に落ちてしまいました。どちらかというと母親の方がアテにされます。父親の力のなさを風刺した描写は多く見られます。
僕は、「父親を認めろ!」みたいな話をしたいわけではありません。これからの時代の新しい価値について、僕は小説を通して考えてみたいのです。まだ、答えは見つかっていません。というよりも、答えはないでしょう。僕たちにとってより効果的な「なにか」を模索してみたい。将来的に完成した作品によって、誰かが「良かった」と言ってもらえる作品であれば……最高です。
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