第159話 サピエンス全史
2023年も、あと僅かですね。この一年を振り返ると、巨大組織の不祥事が次々と明るみになったことが印象的でした。その様子はギリシャ神話のパンドラの箱のようにも見えて、コロナから始まった災害がまだまだ終わりを見せていない様にも感じます。歴史を俯瞰すると、地球的規模の災害は、その後の歴史に大きな影響を与えてきました。人類が構築してきた政治的・文化的・宗教的システムが機能不全に陥り、新しいシステムが求められたからです。間違いなく、足元から新しいスタンダードが育ち始めていると思うのですが、今はまだ分かりません。パンドラの箱の逸話には、最後に希望が残っていたとされています。その希望が、人類にとっての希望であれば良いのですが。
僕にとっての2023年は、世界史を勉強した一年でした。学生の頃の僕は、世界史どころか日本史にも関心がありません。聖徳太子を勉強するにしても僕に歴史観が無かったので、根本的なところからの勉強が必要でした。特に役立ったのが、ポッドキャストの「コテンラジオ」です。その後「食べものラジオ」も拝聴しているのですが、食べものに関する歴史も大いに為になりました。そうした人類の歴史に関する基礎知識を仕入れたうえで読み始めたのが「サピエンス全史」です。刊行されてから10年以上が経っていますが、その価値はまだまだ損なわれない。目から鱗の本でした。
コテンラジオで世界史の予習が出来ていなかったら、「サピエンス全史」の読了は、多分、挫折していたと思います。歴史の勉強が経糸だとしたら、サピエンス全史は緯糸です。歴史を動かした原因について究明し、そこから生まれた様々な文化について解説していきます。宗教の誕生、農業改革、封建社会、律令制度、貨幣制度、啓蒙思想、産業革命、科学の発展、資本主義、社会主義、時間の概念、市場経済、コミュニティーの変遷。そうした文化に通底している概念のことを、著者のハラリは「虚構」と呼びました。この虚構に対する認識を理解し始めると、現在の世界の見え方がガラリと変わります。
この虚構を例えるなら、パソコンのOSを想像して欲しい。OSが誕生する前のパソコンは、例えるなら高機能電卓でした。複雑な計算が出来ますが、一つのタスクしか処理できない。OSがあるパソコンは、複数のプログラムを同時に処理することが出来ます。OSはパソコンにとって、法律であり、政府であり、交通整理係になります。OSが管理する社会の中で、プレイヤーである様々なプログラムは同時に活躍することが出来ます。音楽を流しながらエクセルを扱ったり、ゲームをしながらゲーム実況を配信することが出来るのです。
人間社会の始まりは、宗教というOSを誕生させます。全能の神を創造し、創造された神によって、十万人・百万人という人々が秩序を持って生活することが出来ました。時代が下り現代においてのOSは、法律、通貨、時間、市場経済、科学文明と多岐に渡ります。複雑に絡み合ったそれらの虚構を僕たちが信じているから、社会は秩序だって機能することが出来ているのです。
――どうして人を殺してはいけないのですか?
有名な命題です。ドストエフスキーの「罪と罰」を含め、多くの作家や思想家がこの命題に取り組んできました。ハラリ的には、「人間がそのように決めた」ということになります。沢山ある虚構の中の一つに過ぎない。この命題に何かしらの答えを求めても、ルールに従えとしか言えないのです。ただ、僕は宗教者なので、ここで考えてしまいます。本当にそうなのかと……。
サピエンス全史を読みながら、その咀嚼に時間が掛かっています。対話するように読んでいます。この本に出合えて、本当に良かった。読了するまでに、あと少し残っていますが、今回は僕なりの感想を述べさせていただきました。小説のようにスラスラと読むような本ではありませんが、お薦めです。サピエンス全史。
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