第63話 あけおめ

 新年明けましておめでとうございます。一年の計は元旦にありと言います。自分の将来をどのように彩るのか、そんな事を考えるのに元旦ほど適した日はありません。とは言いつつ、毎年、正月になればお酒を飲んで崩れてしまいます……。


 今朝は、いつも通り目が覚めました。中央卸売市場の仲卸で仕事をしているので、朝が早い。仕事がある朝は、あと10分、もう10分となかなか布団から出ようとはしません。ところが、今日は元旦です。スクッと布団から抜け出しました。やりたかったことがあるのです。それは、掃除です。


 普段の僕は、掃除が出来ない人間です。やらなくて良いのならずっとしません。でも、汚いのは嫌です。重い腰をあげて渋々やります。今回、大晦日の19時から、嫁さんに年越しそばの段取りをお願いして、やっと掃除を始めました。始めてしまうと夢中になります。我が家の掃除で一番重要なことは、捨てることです。子供を含めた家族五人の要らない物が大変多い。ところが、22時になっても終わりません。年内の大掃除は諦めました。今朝は、その続きです。


 家族が寝静まった中、好きな音楽を流して、掃除をします。なかなか掃除をしない僕ですが、始めると気持ちが良いものです。心が洗われていくようで清々しい。良い朝を迎えました。


 良い朝と言えば、先程、ネットの将棋で勝つことが出来ました。これも嬉しい。一年前、将棋で初段になる目標を掲げましたが、現在のところ4級です。自分が強くなっていることは感じますが、級を上げるのは難しい。最近、初段の方に勝ち始めたのですが、安定して勝たないとレーティングはなかなか上がりません。勝ったり負けたりを繰り返しています。


 将棋の面白さって、人によってそれぞれだと思うのですが、面白さの要素の一つとして、その歴史の長さがあります。大陸から渡ってきた将棋は、日本で独自進化を遂げたようでが、正確なことは分かっていません。早ければ平安時代、遅ければ鎌倉時代には遊ばれていたようです。囲碁もそうですが、長い歴史の中で、将棋の勝ち方について、多くの方が模索してきました。戦型や囲い、手筋や定石として残され、今もグレードアップしています。


 20代の羽生さんが七冠を達成した頃、インタビューに答えていました。――間違っていたらごめんなさい。記憶違いかも――


「現在の将棋は、まだ黎明期に差し掛かったところです」


 千年以上の歴史がある将棋なのに、まだ黎明なんですね。七冠を取ってなお、将棋の深淵に思いを馳せる羽生さん。格好良過ぎます。


 初段を目標にしている僕にとっては、そんな深淵は感じる以前の問題です。それよりも、その千年の歴史から生み出された情報量の多さこそが、将棋の面白さだと感じるのです。将棋には、様々な戦い方があり、それぞれが体系化されています。ジャンケンのように戦型には得手不得手があり、絶対に勝てる方法はありません。


 現在は、そうした情報が簡単に手に入る。行き詰っても、勉強することで強くなれるのです。勉強にしても、昔は本だけだった。ところが、今はインターネットで情報が手に入るし、AIが将棋を診断してくれる。良い時代になったと思います。


 また、ネットによって対戦相手を探す事にも困りません。昔は、強い相手を探そうと思えば、将棋会館なり将棋教室なり足を運ぶ必要があったと思います。今は、ネットを介して戦うことが出来る。便利な時代になりました。


 この一月から、藤井聡太君に羽生さんが挑戦します。注目の王将戦です。勝敗の行方も気になりますが、その意義を確認したい。羽生さんは、現在の将棋は黎明期だと言いました――たぶん――であるなら、二人の戦いは、将棋の新しい歴史を作る戦いです。フロンティアです。勝ち負けよりも、深いアビスに足を踏み入れる冒険を、二人は楽しんでいる。そんな風に思うんだな~。

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