木彫りの猫(四)
急に視界が
「うまく合わせたみたいだな。動いてみろよ」
「簡単に言ってくれるわ!」
木彫りの猫に入った直後、猫又は声を出せずにいた。暗闇で焦っていたところ、シバの声が聞こえ、言われたとおり木彫りの猫に体を合わせていった。合わせていくうちに木彫りの猫と同化して目が見えるようになり、いつの間にか口が動くようになっている。
猫又は話せることに驚き、思わず立ち上がると足が動いた。
「動ける……。動けるぞ!!」
「よかったな」
あっけらかんとシバは言う。木彫りの猫が動くこと自体、奇妙なことなのに平然としている男を見て猫又は不思議に思う。
(こんなに簡単に
猫又が凝視していても気にする様子もなくシバが言ってきた。
「木彫りから本来の姿で出ろ」
「え?」
「だから、霊体を出せ」
「お、おまえの説明はよくわからないぞ」
「面倒くさい……」
猫又はシバの意図が読めずに困惑する。シバはため息をつくと腕を組み、片手を
「おまえら
「ああ、それは可能だ」
「同じ要領だよ。体の軸は木彫りの猫にあることを意識して、体を大きくして戦う感じで霊体を出せ」
言われたとおり体を大きくすることをイメージすると、木彫りの猫から霊体が出て、いつもの姿になった。霊体の心臓部に木彫りの猫があることがわかる。
「よし、戻れ」
木彫りの猫の形にぴったり収まるイメージで猫又は戻った。
「ニ゛ャア゛アァァア!?」
しっぽに激痛を感じたので見てみると、うまく木彫りの猫に入ったつもりが、尾が大きなサイズのままはみ出していてシバが踏んでいる。
「何をするっ!!」
急所である尾を踏まれた猫又は怒りで飛び出した。木彫りの猫のことはすっかり忘れていて、霊体から外れた木彫りの猫はころんと畳に転がった。木彫りの猫が離れたことで、猫又は妖力が落ちたことに気づく。
「ほ、本当だ。物と一体だと妖力が上がる」
「固定できる物があると安定するんだよ。逆を言えば離れると妖力は落ちる。コントロールしてちゃんと『
「さっ、先に口で言えばわかる! 尾を踏むことはないだろう!」
「踏みたくなった」
「――――ッ!!」
「しばらく特訓だな」
ひょうひょうとしたシバに腹立たしく感じながらも、猫又は以前より妖力が増したことをうれしく思う。
これまで霊体を維持するだけでかなりの妖力を使っていた。蓄えることもできなくてだいぶ弱っていたけど、物をよりどころにすると妖力の流出が少ない。しかもシバがつくった木彫りの猫は入ると妖力の回復が早い。
(ずいぶんとすばらしい依代をくれたものだ)
これなら早く妖力を上げることができると猫又は喜んだ。
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