春月の河川敷(二)
月夜の河川敷は緊迫した空気に包まれている。
ドブネズミの襲撃にあっていたネコは妖力をもち、人から「猫又」と呼ばれている
闘争心をむき出しにした
「何をしている! たかがネコ一匹だ! ワシらのほうが数が多い!!」
怒鳴り声が響いてネズミたちはびくりとなる。声のした方向へ一斉に向くと異形のものがいた。
ブタくらいの図体をしたネズミがあぐらをかいており、
ヒトの顔をもつネズミの
「ぼうっとするな!
ネズミたちは再び操られ、闘志を宿して猫又へ向き直ると走り出した。猫又は二つの尾をゆらりと振って身がまえた。
猫又は襲ってくるネズミを爪で引き裂く。鋭い爪で次々と裂いていくが、倒れた仲間を見てもネズミたちはひるまない。数で
激しく動いていたネズミの群れと猫又の動きが止まった。一定の距離を保ってにらみ合う。
ネズミたちは一斉に飛びかかって猫又を仕留めるつもりだ。逃げ場を奪ったことに勝利を確信して、ばかにするようにキィキィと鳴き始めた。
囲まれた猫又はことのほか冷静だ。ネズミたちを見据えていたが、四つ足から体を起こして後ろ足で立った。曲げた前足をゆっくりと胸の前に上げ、地面にいるネズミの大群を見やる。
ネズミたちは敵が戦闘態勢を変えたことに驚いて攻撃に備えた。いつでも飛びかかれる体勢をとって待ちかまえるが、猫又は二本足で立ったまま動く気配がない。
攻撃を仕掛けてこないことから、ネズミたちは怖じ気づいて戦意を喪失したと解釈した。一匹が「キィ――ッ!!」と発した声を合図に
襲ってきたネズミに反応して、猫又の体がゆらりと動いた。
下から飛びかかってきたネズミに対し、猫又はすくい上げるように前足を斜めに振ると、抵抗なくネズミは切れた。そのまま反動を生かして体を回し、宙を飛んでいたネズミをまとめて引き裂くと、
猫又は動きを止めない。攻撃をかわすと後ろ足で跳躍し、持ち前の柔軟さを発揮して体のバランスを取ると、上空でネズミを切り裂いた。
河川敷では裂ける音が響き、やわらかい物が地に落ちる音が続いている。飛び散る赤の量が増えて面積が徐々に広がっていく。風に乗る血のニオイが濃くなってきた。
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