木彫りの猫(二)
シュッシュッと木を彫る音が響いている。
畳に座る男は作業着を着ており、肩部分に「玄」という
大型機械を持たない玄は、主に人の手が要る作業を担い、橋梁・トンネル・地下・家屋・ビルとさまざまな現場で活躍し、
また玄が手がけた案件は、作業中も完成後も事件や事故が少ないと評判で、仕事の依頼は多い。
「玄」の一人がさっきから彫刻している男だ。力仕事の現場で働く手は大きくて硬い。そんな手が器用に彫刻刀を操り、手に収まる小さな物を彫っている。
「
目覚めた猫又は、さっきから工房の出入り口を探している。猫又を見ずに男は落ちついた口調で話す。
「守りたいものがあることはわかっている。でも焦るな。妖力がほとんどない今のおまえだと、役に立たないぞ」
「なぜ私に守りたいものがあるとわかるんだ!? 意識がない間に私の記憶を読んだのか!?」
猫又は不快感をもち、牙をむいて男から距離をとったが、彼のほうは全然気にしていない。
(こいつ、まったく思考が読めない。異能者で私を祓う気なら、とっくにそうしているはずだが……。消す気がなくても油断はできない)
猫又は早く守りたい者がいる所へ行きたくて方法を探す。
(この建物は変だ。まるで箱だ。外の情報が一切入らず、作り物の空間に居るようだ。異能者が使う『結界』というやつか?)
猫又は畳から降りて歩きながら観察する。男に用心してちらちら見るが、気にする様子もなく彫刻を続けている。
「なあ、玄」
「『玄』は多いから、『シバ』でいい」
「たしかに屋号なら働く者は多いな。『シバ』だな? シバ、23区はどうなっている?」
「23区?」
「東京23区のことだ。私は早く23区に入りたい」
「なんで?」
「23区に守りたい人がいる……」
「ここは23区外だ。なんで23区から離れたんだ?」
「いつも近くにいたんだが、火球が流れた日に爆風で離れてしまった。飛ばされた山でカラスと鼻の長い
猫又は
早朝、火球が流れ東京で地震が発生した。揺れは大きく、日本全土へ波及していった。この地震で
「あちこちで
これまで
かつて人間は
欲の感情が強い
来たる世界に備えるため、
(早くあの人のもとへ行きたい。あの人は
出口を探している猫又にシバが声をかけてきた。
「おまえの『
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