第7話

「また死んだの、れーいち」

 神城かみじょうは白い空間に居た。空間——と言うよりは、世界、と言った方が正しいのかもしれない。目の前には、死屍ししかばね亡骸なきがらが立っている。否、地面があるかも怪しい。ただ、姿勢としては、直立しているように見える。直立したまま、白い世界に浮いている。

 ゴシックロリータ趣味の服装だった。が、この趣味は死屍自身のものではなく、一號いちごうの趣味だ。神城は、体勢としては仰向けになっていて、首だけが起き上がり、辛うじて死屍の姿を見ていた。ガーターベルトに視線が合う。本当に、人形のような体型だ。顔も人形のよう。彼女は人形なのかもしれない。

「おい、起きろ」

「ん……ああ、起きた。ん? 起きた? 俺は寝てるんじゃないのか、厳密に言えば」

「厳密に言えば死んでる」

「ああ、そうだった」

「撃たれてたみたいだけど」

「見てなかったのかよ」

「私はお前らのせいでバッグに詰められてたんだが?」

「そうだったな。悪い。でも聞いてはいたんだろ」

「大きな音がして、みんなが騒ぎ出したよ。特に一號が。斑闇まだらやみは割と落ち着いてたね。ん? そうか、一號と足枷あしかせが来てから、お前が死ぬの、初めてか。そりゃあわてるか」

「そう言えば初めてだな。斑闇は一度経験があるから……お前を連れてきたのは斑闇ってことか。まあ、いい機会になったかもな」

「斑闇は割と落ち着いてたけど、それでも多少は焦ってるふうだったよ。私のバッグ引っつかんで、乱暴に開けるもんだからさ。顔に傷付いたらどうすんだよって感じだ」

「叱っておくよ」

「私が直接言うよ。とりあえず、起きな。ここで話しててもらちが明かない。みんなも心配してるから。私も一號と足枷に色々言いたいこともあるし、まずは起きて、それから」

「もう起きて大丈夫なのか?」

「何の心配?」

「死んだから……起きても平気?」

「もう生き返った」

「流石、仕事が早い」

「適当言ってんじゃないよ本当。こっちの身にもなれっての。あんたのためにストックしてるんだから。活動もせずに。それなのにバンバン死なれたらねえ、いつか残機ざんき尽きるってのホント」

「今回は完全に不可抗力だって。心当たりがないんだ」

「まあ、そうみたいね? 一撃で綺麗にやられたみたいだし。恨み買ってんじゃないの、れーいち。多方面からさ」

「どうだかな……ただ、こんなに腕の良い狙撃手がいるとは知らなかった。いや、のか。誰かがどこぞで、発現したのかもしれないな。全く……迷惑な話だ」

「楽しそうな顔しないでよ。あんたねえ、私がいるからって調子乗ってると、本当に死ぬからね。最後の最後の、終わりの死に方するからね。そうしたら私も死ぬんだから」

「無茶はしないし、気に入らないやつなら誘わないよ」

「あーもう、いいから早く起きなさいって。ほら、いつまで寝てんの」

「寝てるっていうか、死んでるんだろ」

「じゃあ、早く生きて」

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