第5話
警備室で所属を名乗り、政府からの依頼である旨を告げ、五人は二手に分かれ、過激派集団が来るまで待機することとなった。
司空塔は城ではないので、敵に攻め込まれないための複雑な構造をしていない。西側の夜間口からそのまま直進すれば、司空塔の入り口へと到達する。正門は東側にあるため、こちらは言わば裏門に当たる。だが、厳重な警備が
ゲートから裏門までの距離は直線距離でおよそ三十メートル。施設のメイン部ではないため、ほとんど障害物はない。戦場としては十分な広さがあった。逆に言えば、自分たちを守る盾もないということになる。そのため、本日の戦闘担当は肉弾戦を得意とする
神城たちは一行を
「
「ただの雑魚だろう、相手は。今回の仕事は、敵が強いから警備が厚いわけじゃない。標的が強いから——百パーセントに近い対策を練ってるだけだ。もし狙われてるのがそこらの一般人だったら、こんなに警備は手厚くならない。が、敵の強さは変わらない。つい本質を見失いがちになるが、万全を期した方が良いと思う時ってのは、大抵、何かを見誤ってる。本来、万全なんてのは常に期すべきもんだ」
「仰る通りですね。失礼致しました」
「注意してるわけじゃない。俺自身への
「しかしそれでも——やはり、不安はあります。あえて確認すべきことでもありませんが……
「俺だって銃は持ってる」
「一般人相手であれば多少は有効かもしれませんが……」
「どうせ一般人しかいないだろう。滅多なことは起きないよ。もし起きたとしたら——それは俺たちにとって、有益なことだ。手錠も、一號も、斑闇も……そうやって出会ってきた。出会いに感謝すべきだな」
「私は自分の身内が危険に
「
「そうかもしれません。
「女性的だな」
「そういう言い方は、反感を買いそうですが」
「そういう風に出来てるんだから仕方ない。受け入れた方が楽だろ。俺だって、男性的な人間だしな」
「まあ、過敏なのもどうかとは思いますが」
悠長に無駄話を繰り広げているのは、単に、予定時刻まで暇があったからだ。彼らは今回の仕事を、特に重要視していない。もし重要だと思っていることがあるとするなら、それは成功報酬だけだろう。今の政府は圧政を敷かず、地上民間人に飴を与えて
「時間は」
一號はポケットから懐中時計を取り出し、一瞬だけ確認する。
「予定時刻の五分前です。意外と時間が経つのは早いですね」
「そして大人は意外と時間を守らない」
神城が言って数秒後、ゲートの外から話し声——というよりは怒声のぶつかり合いが聞こえてきた。恐らくは数名、先陣を切ってやってきたのだろう。警備員に止められ、それに対して不平不満を口にしているようだ。先行部隊か、少数と思わせて油断させるつもりか——ともあれ、全員でぶつかりに来るような馬鹿ではないということが分かり、神城は少しだけほっとした。この世でもっとも恐ろしい敵は、全知全能の神か、あるいは何も考えていない馬鹿だからだ。
「来ましたね」
「ああ。政府も警備員も俺たちも、当然奴らの情報を握っているが——あっちがどこまでこちらの手の内を知っているのか、その辺が
「しかしそれなりに
「
「我々はリーダーのためであれば常に全力投入の覚悟ですが」
「俺としては出来るだけ言うことを聞いて欲しいんだがな」
神城と一號が会話をしているうちに、組合員たちは第一ポイントの障害を突破したようだった。六名の武装した人間が、ゲートから敷地内へと侵入してくる。銃火器の携帯も認められるため、多少の被害を受ける可能性はあった。しかし、
「敵を
「俺も見てる」
「報告よりも少ないですね。他は待機中でしょうか?」
「だろうな。全員敷地内に入ってくれれば楽だったんだが……まあ、流石にそこまで馬鹿じゃないらしい。だが、逆に言えば手錠の負担が分散される。六人を蹴散らして、不審に思った残りの連中がやってくる。多く見積もっても残りは十五人程度だろうが、囲まれるわけでもないし、全員出てくれば俺たちが参加して挟み撃ちも出来る。作戦としてはそんな感じだな」
「フォーメーションBですね」
「そんな作戦を立てた覚えはない」
ゲート付近の警戒は
「来たー!」
集団が裏門へ近付いたところで——ようやく、待ってましたとばかりに、大声を上げながら足枷が姿を現した。恐らくは、斑闇から登場の許可が下りたのだろう、と神城は考える。ここまで耐えただけでも、大したものだ。昔の足枷を思えば、随分と人間らしく——社会人らしくなったものだ、と感じる。
「なんだ、拘束されたガキがいる」組合員の一人が呟く。体格差から、相手に危険はないと判断したのか、
「違うよ。僕はリーダーの会社の社員」
「は?」
「お話は私が」
暗闇から、真っ黒な
「な、なんだこいつ」六人の動きが止まる。「バケモノが出てきやがった」
「バケモノではありません。私は斑闇
「すみません、桐谷さん? 想像以上にやべえやつがいます」と、組合員の一人が無線機に向かって話しかける。親玉に連絡を取っているようだ。「馬鹿にでけえ。二メートルはある。海外のバスケ選手みたいだ」
「斑闇、まだ?」
「まだですよ。無駄な殺生及び戦闘は避け、話し合いで解決するというのが我が社のモットーですから。どうせ無駄だと分かっていても、一応は話し合いをする姿勢を見せなければなりません。我々は社会人なのですから」
「じゃあ、もうちょっと待つね」
「いい子ですね、手錠」
戦場は
「誰が相手だろうと、関係ねえとさ」無線機を持った男が、他の組合員たちに告げる。「どんな厄介な敵が出てこようと、作戦は変わらねえと。まあ、確かにそうだが……どうする?」
「どうするって、やるしかねえだろう。今更帰るわけにも行かないし」
「だけどこいつ……バケモノだぞ? 隣のガキの二倍はある」
「二倍もありませんよ」斑闇が訂正した。「二メートル二十です」
「でっけえ」
「馬鹿じゃねえのか。何食ったらそうなるんだ」
「俺より六十センチもたけえ……」
組合員たちは次々に、思い思いの感想を口にしている。一般的な交渉——つまり、企業や政府、あるいは一般人相手と話し合いをする際は一號を隣に置いた方が事がスムーズだが、こうした場面においては、斑闇という存在は別格だった。物理的な大きさ、背の高さ、見た目の
「だがこっちは六人だ。応援もある。やるしかねえ」
「だな。やるしかねえ。行けるか? たっつぁん」
「ああ……そうだな、やるしかねえ。前澤さん、やるぞ」
「おう。俺たちは、太陽を取り戻すんだ。足止めされてる場合じゃねえ!」
組合員たちは互いに声を掛け合いながら、互いで互いを
「いかにも雑魚、という感じですね」一號がつまらなそうに呟く。
「あんまり可哀想なことを言ってやるなよ」
「私、利用されてると分かっていても、命を賭けて戦うなら、リーダーのような人に
「そりゃどうも。褒められてんのか?」
「愛してます」
神城と一號が無駄口を叩いている間に、六人が一斉に、斑闇に対して襲いかかった。襲いかかる、と言っても、両者の距離は三メートル以上。金属バットのリーチを
「もういい?」足枷が尋ねる。
「いいですよ。交渉決裂です」
その
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