第3話
『
地上民間人である
だがその空間は、地上三百メートルで分断されることとなった。正式名称を『自動式光源管理制御装置』と言い、三百六十五日、変わらない天気と変わらない気温を保証し、毎日決まった時間に朝を作り、毎日決まった時間に夜を生み出すことを目的とした機械だった。これがあることで、地上の生活は常に快適であり、雨風に困ることも、大雪や落雷などの災害に
が、それがただの方便であることは、みんなよく知っている。要するに、選ばれた人間——つまり権力者や富裕層はその施設の上で暮らし、通常の人類である下民は、施設の下で暮らしている。彼らのことを俗に『
無論、その施設はただ光源を管理するためだけに存在しているわけではない。権力者の
「そうした下民たちの
「
「そうでしょうがリーダー、政府への報告書には有識者の
「
「私も菅原さん嫌いです。リーダーに色目を使ってくるので」
「それはお前の気のせいだけどな、
「今回の『
「あいつはなんでも知ってるな」
「気に食わないですね。特に理由はありませんが」
「菅原は一號のこと気に入ってるらしいぞ」
「興味ありません」
「会議を続けますが……『
「まあ気持ちは分かるけどな。人工光ばっか浴びてると、たまにはお
「私は肌が弱いので、なりませんが」斑闇がすぐに言う。
「だろうな」
「さて、正確な人員までは把握出来ておりませんが、恐らくは二十名弱の集団が行動を起こすものと思われます。この情報は当然政府も握っており、司空塔は万全の体制が敷かれておりますが——面倒な仕事は末端の人間にやらせておけ、という政府の方針のもと、我々地上民間会社
「失敗する可能性はあるのか?」
「いえ、失敗はしません」斑闇がすぐに答えた。
「ならいい」
「以上のように、政府の
「言われなくてもそのつもりです」
「わかった!」
「では、当初の予定通り、午前一時には
「えー……暴れても許されるんでしょ?」
「許されますが、無益な
「そういうことだ、足枷。暴れ回る仕事は、また今度な」
「でも戦っていいんでしょ! じゃあ大丈夫! やったね!」
「私は手錠のサポート、一號はリーダーと
「言われなくてもそのつもりです」
「リーダーをよろしくお願い致します。ところで、今からでも配置変更可能ですが、一號、手錠のサポートにつきませんか? 私、近距離戦は苦手ですから」
「リーダーも男に守られるより女に守られた方が嬉しいはずです」
「俺はそんなことは一言も言ってないぞ」
「言われなくてもそのつもりです」
「意味が違ってないか」
「まあ、交代制ですからね、今回は仕方なく一號にお任せするとします。無論、リーダー及び亡骸ちゃんの身に危険が及ぶ場合には、拘束具の解除は許可します。何よりも優先すべきは、リーダー及び第二の心臓である亡骸ちゃんです。我々は死んでも死ぬだけですが、リーダーが死んだらこの世の終わりですから、各位、それだけは
「わかった!」
「言われなくてもそのつもりです」
「まあ概要は分かったし、以前聞いた情報から更新はないようだが——再三の確認で悪いが、いないんだよな、魔法使い——あるいは、魔族」
神城の発言に、三人が一瞬だけ妙な間を見せる。が、実際には一秒にも満たない緊張だった。すぐに斑闇が「現状、そのような情報は入ってきておりません」と答える。確実である、と言えないのは、斑闇の性格上の問題でもない。魔法使いなどという存在は、どこにでもいるのだから、確実性を論じることなど出来ない。あるいは——いつそうであると自覚するのか、誰にも分からない。
「分かった。少なくとも、現状はそうであると認識しておこう。情報収集ご苦労」
「もったいないお言葉です、リーダー」
「私も手伝いました」控えめに、一號が言う。「二割ほど私の手柄です」
「一號もご苦労。いつも助かってるよ」
「えへへ……」
「僕は今回もなーんにもしませんでした!」と、足枷が両手を挙げてけらけらと笑う。
「だろうな。お前は現場班だからそれでいいんだ」
「それでは各位、午前零時半には会社を出ます。七遠峠までは社用車での移動となりますので、それまでに準備を済ませておくようにお願いします。最後にリーダー、何かございますか?」
「いやあ、特にないが……まあ、そうだな、くれぐれも、無茶はするな。特に斑闇、お前、今回は足枷のサポートなんだから、俺のことは気にせず、足枷を守ってやれ。俺は一號にちゃんと守られることにする」
「かしこまりました。可能かどうかは分かりませんが」
「分かれ」
「分かりました。足枷、私に周りを見る余裕をくださいね」
「わかった!」
「……まあいいか。それじゃ、会議は終わりにしよう。出発するまでにまだ時間があるから……どうするか、少し腹が減ってるんだよな。ちょっとなんか食って行くか。みんなでファミレスでも行くか? それとも、なんかあれば、ここで食べるか」
「軽食でしたらすぐにご用意出来ますが」一號がすぐに応じる。
「そうか、なら頼む。紅茶もまだ飲みきってないしな」
「少々お待ちください。十分ほどでご用意します」
一號が立ち上がると、斑闇はディスプレイの電源を落とし、足枷はうーん、とソファに対して斜めに立て掛かるように体を伸ばし始め、自然な流れで会議は終了となった。神城はと言えば、特にすることもなく、大きなあくびを一つついて、窓の外を眺めている。
「どうかしましたか、リーダー」
「ん……いやあ、外灯も建物の明かりもあるはずなのに、小さい頃の景色とはやっぱり違うもんだと思ってな」
夜間とは言え、『
だが、どこか違うと感じる。
人工物だと認識しているからだろうか。
あるいは、逆に
「リーダーの小さい頃見ていた夜空とは、何が違うのですか?」
問い詰めるでもなく、斑闇は純粋な疑問を投げ掛ける。それに対し、神城はすぐには答えなかった。そもそも、答えられなかった。自分の中に、正しい答えがあるわけではなかった。ただ、なんとなく、違うな、と思っていた。その、なんとなく、という違和感だけが、恐らくこの世で一番正しい判別方法だった。
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