第2話
地上民間会社
「お帰りなさいリーダー、ずっとお待ち申し上げておりました。ジャケットをお預かりします。お預かりして保管しておきます。クリーニングに出しておきましょうか? 最近私、クリーニングの勉強をしているんです。リーダーの身につけているものを、全て私の手で清掃、管理するためです」
「このまま着ていくから預からなくていい。おはよう
「おはようございます。紅茶を淹れますね」
本社には申し訳程度のキッチンがあり、そこは一號が管理していた。というか、一號は本社に住んでいるので、全てが一號の管理下と言っても過言ではない。一號は
メイド服——と言うと語弊があるだろう。給仕衣装、あるいはクラシカルなメイド服とでも形容すべきか。黒いロングスカートと、黒いシャツに、白いエプロンを装着している。足下も黒いソックスに黒のローファーを履いていて、肌の露出は全くない。両手には真紅の手袋を
神城はそのまま会社の中へ向かい、社長席——とは名ばかりの、一人用ソファに腰掛ける。続いて、その対面にある三人掛けのソファに斑闇が座る。玄関を入って
「よく寝るな」視線の先で眠りこける少年——
神城は視線を左に向ける。すぐに目に入るのは斑闇の縦長の図体だったが、神城の視線はソファの中心にあるバッグに向いていた。パッと見では少し大きめのスクールバッグだが、実際はマネキン運搬用のバッグだ。
「そっちもよく寝てるみたいだな」
「そうですね。何時間寝ているのかは数えていませんが、二年以上は寝ている計算になりますね」
「だろうな」
「今日も
「ああ」
神城が言うと、斑闇は
「我が社の姫君は今日も美しいな」
「一號が最高のコンディションを
「流石は一號だ」
「今私のこと褒めましたかリーダー!」
キッチンから一號の声が聞こえてきたが、神城も斑闇もそれには応答しない。
バッグの中に収められている人形は、
「もういい。満足した」
斑闇はファスナーを閉める。「いつ見ても亡骸ちゃんは可愛いですね。
「変態じゃなくても変な気になるくらいには可愛い」
「そうですねリーダー。でもダメですよ、社員に手を出すのは。いくら旧知の仲とは言え」
「私には手を出して下さっても構いませんよ、リーダー」
ティーセットの乗ったトレーを持った一號がやってきて、割り込むように言う。もちろん、神城も斑闇もそれに対して何も言わない。神城は面倒くさいから、斑闇は何か言えば百倍になって返ってくるので、無言を貫く姿勢だった。一號もその反応には慣れた様子で、何も言わずに乱雑なローテーブルの上に器用にティーカップを配置していく。配膳を終えると、死屍の隣に腰を下ろした。斑闇とで死屍を挟む形になる。
「それじゃ会議を始めるか。一號、
「かしこまりました。手錠、起きなさい。会議の時間よ」
一號が体育座り状態の足枷を揺らす。と、唸り声を上げながら、足枷が目を覚ます。
囚人服を着た足枷もまた、ほとんどモノトーンで、肌の露出がなかった。足と手と顔だけ肌の色が見えるが、それ以外は囚人服で隠れている。両手には真紅の手錠がついていて——両足にも真紅の足枷がついている。両手、両足とも、多少の
「んあ……おはよう、リーダー。おはよう! うわあ、久しぶりだね。三日ぶり? 会いたかったよリーダー。おはよう……」
「ああ。実は
「そうなんだ! そうかぁ……会いたかったなあ。でも会えて嬉しいよ!」
「手錠、うるさい。会議の時間なの」
「そうなんだ! じゃあ静かにするね」足枷は両手両足を大きく伸ばし、んーっ、と声にならない声を上げる。「そうだ! 今日は仕事の日だったね。あっ、静かにするね」
「そうしてくれ。これから一度、軽く仕事のおさらいをする。まあ、さらうほど大した仕事じゃないんだが、珍しいことに政府からの仕事だからな。念には念を入れて——という、フリをしておく必要があるし、仕事も全社員総出で行っている——という風に見せる必要がある。だからお前らも、そういう体で——仕事をして欲しい。頑張ってるアピールをするってことだ。我々のような下民だって、
「心得ております」斑闇が言う。「進行は私が担当致します」
「ああ、頼む」
斑闇はローテーブルに置かれたリモコンを操作する。三人掛けのソファの正面にある大型ディスプレイが活性化し、デスクトップ画面が映し出される。ローテーブルの上に置かれた
「お待たせ致しました。皆様、
斑闇が言うと、死屍以外の社員の視線がディスプレイを向く。最初から見ていれば良さそうなものだが、一號も足枷も、暇さえあれば神城の
「これより、『
「お願いします」
「よろしくお願いします!」
「それじゃあ斑闇、概要説明から頼む」
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