第34話 先んずれば人を制す

さて、筆記試験の勉強まで見ることはなったのはいいが……

その難易度は俺の想像を超えていた。


昨日の夜、

俺は『S』クラス寮の俺の部屋に、アルマとルイを呼び3人で勉強会をする運びになった。

そこで気づいたのだ。

コイツら……想像以上に勉強ができない。


筆記試験といえど、試験範囲のほとんどは魔術の基礎である。

だからこそあまり心配はないと思っていたのだが……


これは、ヤバい。


解けて当たり前みたいな問題なのに、10問に1問くらい平気で外してくる。

まあ俺も実際、全部主観なのでどれぐらい解ければいいのか……とか正確に把握していないのだが、それにしてもこれは……うん、不味い。


とりあえず昨日の勉強会は、今まで授業でやったと言っていた範囲を軽く一通り教えた後、

しっかり授業を聞けよ!

としっかり念押しして終了した。



う~ん。けどどうしようかな~。

どうすれば効率良く、彼女たちの点数を上げることができるだろうか……

そんなことを考えながら、今日は朝から授業を受けている。


何で俺がアイツらのためにここまで頑張らなきゃいけないんだ……と思う反面、俺が教えなきゃガチで赤点とるんじゃないか……という緊迫感。

はぁ……やっぱりどうにかしないとダメだよな。

筆記試験まであまり時間もないし。


けど勉強って結局、本人の意思だからな。

本人が赤点取りたくない!って本気で危機感を自覚しないと、伸びるものも伸びない。けどそれは彼女たちの自由。俺が何らできることは無いな。


俺がすべきことは、彼女たちが本気で勉強すると決意したときに、サポートしてあげることだよな。

じゃあ俺が今すべきことは……何だ?


学生生活をしていたときの、自分を思い出せ!

俺はどうしてた?試験のとき、どうやって勉強してた?そこにはきっとヒントがある!


確か前日に一夜漬けして……って、これはダメだな。

あとはとにかく過去問を見て……


そうだ!


過去問だ!





俺は昼時、シャウラと二人で食堂に来ていた。

そう最初に来たとき以来、来るのを渋っていた食堂である。


相変わらずごった返すような人の量。

そして豪華な弁当を食べようとする俺らに向けられる、有名人でも見るかのようなキラキラとした視線。


うん、やっぱり気持ちが良くない。

けど考え無しに来たわけじゃないのだ!

わざわざ屋上でなく食堂で食べるのは、しっかりと理由がある。


「え?過去問をもらう?」


「そうだ。この食堂には、いっぱい俺らの上の代の先輩たちがいるだろ?ソイツらからこの豪華なご飯を餌に、過去問を交換してもらうんだよ」


「何故私が、そんなみすぼらしいことをしなければならないのかしら?過去問などなくても、点数くらい取れるでしょ。みっともない」


「みっともなくはないだろ。王道だ。何ら恥ずかしいことじゃない」


「いえ、邪道ね。はぁ……過去問をせびるなんてみすぼらしいこと、ムリフェン家に泥を塗る様なものよ。汚らしい」


「そんなことない!試験の点数をとるためには全力で必死になる。それはむしろ賞賛すべきことだろ!」


そう訴えるも、シャウラには響いていない様子だった。

なんですぐに、一族に泥塗っちゃうんだよ!


ちなみにミアは論文が終わらないとのことで、今日は一緒に来てない。


そう言えば論文提出もうすぐだったな。

俺はもう書き上げといたけど……と言うか書かないで、貯めてるのが悪い。

俺なんか来月提出の論文までもう、書き上げてる。


ホントは1ヶ月の成果を見せるための論文提出だから、ダメなんだけどね……そんなの知るか!

俺は試験に集中したいんだ!姑息な手段だろうが使わせてもらうぜ!


「とにかくシャウラがどれだけ嫌だと言おうが、やってもらうからな。お前の人生は俺の物。俺の人生は俺の物。デューユーアンダスタンっ?」


「きも……」


「そう言うなよ。この話は俺だけじゃなくて、お前にも利のある話なんだぜ?確かに過去問がなくても、お前はいいだろうな。けどお前のチームメンバーはどうだ?どうせ俺と同じように『E』クラスのメンバーなんだろ。そいつらのために『S』クラスのリーダーである俺らが、過去問をプレゼントしてサポートして……悪いことあるか?利点しかないだろ」


「はぁ……分かったわよ。どうせ私に拒否権なんてないんだもの。それで、作戦を言いなさい」


「いいか。狙い目はあまり豪華なご飯を食べていない先輩たちだ。できるだけ多くの情報をもらいたいから、2年生、3年生、4年生満遍なく声をかけて過去問を集める。ご飯を交渉に使うのが一番だとは思うが、別に過去問を貰えるならどんな交渉をしたっていい。それはシャウラに任せる。とにかく過去問と、これまでの中間考査の試験について情報を集めて欲しい」


「そう、分かったわ」


「じゃあ俺はここら辺の先輩たちに声かけてみるから、シャウラは出入り口付近を頼む。いけるか?」


「ったく。私の貴重なお昼の時間を使わせるんだから、さっさと終わらせるわよ」


シャウラと俺は運ばれてきた豪華なご飯に手を付けずに、その場を立った。

わざわざ手を付けないにも、理由があって言っちゃえば『S』クラスアピールである。

ここまで注目を集めるなら、いっそ利用しちゃおうってわけ。


さ~て過去問集めと行きますか!

シャウラが移動したのを機に、俺も豪華な弁当に釘付けの生徒連中を見渡す。


おっ、発見。あれは2年生。

長い前髪にメガネの男子。

俺のインキャメーターが、ガッツリ反応している。


さらにご飯が超絶質素。

おかずが沢庵(たくわん)だけ。


いける!


俺が近づいてくるのを見ると、パッと目を逸らしたのが見えた。

だが、残念。逃さんぞ。


「こんにちは、先輩。俺の弁当じろ~って見て、どうかしたんですか?」


「え、い、いや」


「何すか?あ、俺一年生で『S』クラスのベータって言います。先輩の名前は?」


「え、えと、イオタ・グルイス…です」


「へぇ、イオタ先輩。よろしくお願いしますね」


にっこりと笑顔を浮かべて詰め寄る。

やはり俺のメーターに狂いはなかった。

見るからに陰キャ。これは交渉しやすそうだ。


ちなみに平気そうにしているが、俺の心臓はバックバクだ。

人見知りの俺が、そう簡単に知らない人に話しかけられるわけないだろ!

だが絶対に、表に出してはいけない。


俺は陰キャだ。

だが陰キャだからこそ、どう陰キャが迫られるのが苦手か……

その全てを把握している。


だからこそ俺が、一番嫌なタイプの人間に成り切ることで交渉をうまく運ぶ。

これぞ、俺の作戦。

陰キャキラー作戦!


「イオタ先輩、昼ごはんそれだけで足りますか?ちょっと貧相すぎません?」


そう言いながら、横に座ってさらに距離を詰める。

よし、動揺してる動揺してる。

分かってるよ~、俺も陰キャだから。

こうされると、ホントどうしようもなくなるってこと。


「い、いや、しょ、しょうがないよ。だって僕…Eクラスだし……」


「へぇ、そうなんですか。あっ、じゃあ先輩。俺が飯奢りますよ」


「え?」


「いきなり話しかけたのに、こうして対応してくれてるお礼です。遠慮しなくていいですよ?」


「べ、別にいいよ。そ、その…悪いし……」


「いえいえ、別にお金はかからないんで、大丈夫ですよ」


「ほ、本当?」


「はい。あ、ただ……もうすぐ中間考査ありますよね。その一年生の時の過去問貰えるなら……奢ってもいいですよ?」


「え?も、もしかしてそれが目的で?」


「いや~何のことですかねぇ。で、過去問、くれるんですか?」


「わ、分かった。あげるよ。ご、ご飯奢ってくれるんだよね?」


よし!成功!

過去問ゲットだぜ。


「もちろんですよ。じゃあ放課後、部屋まで取りに行きますね。おばちゃん、この人に『S』クラス定食お願いします!」


ふぅ、これで一人目クリア……と。

はぁ……無理するもんじゃないな。

さっきから汗が止まらない。気づかれてないといいけど。


そう言えば、シャウラは……

あっ……


俺の目線の先には、男の先輩の胸ぐらを掴んでいるシャウラの姿が見えた。


「ちっ、テメェ俺は四年生だぞ!何しやがる!」


「学年が高いから偉いの?違うわよね。私の方が偉いわ。そんなことより早く過去問を持ってきなさい」


「んだと!テメェ!」


「あ゛?」


「ひぃ」


「早く持ってきなさい。じゃなきゃ殺すわよ?これが冗談に聞こえる?」


「は、はい、すいません。すぐに持ってきます!」


走って食堂を出ていく先輩の姿が見えた。

うわぁ……もうやり方がアッチの人じゃん。

シャウラに任せるとは言ったが、まさかあんな手段を取るとは……


おかげで周りの生徒たち、ドン引きだよ。

怖すぎるよ。なのにあの平然とした、澄まし顔。

悪魔か!


けど……うん。

文句は言わないです。



結局シャウラのおかげもあって、今回のだけでなく今年の過去問3年分集まったとさ。

めでたしめでたし。

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