第33話 楽は苦の種、苦は楽の種
既に一週間ほどが経過し、実技試験への動揺も徐々に収まりつつあった。
俺は大きな欠伸をしながら、目の前で魔術練習しているアルマとルイを眺める。
場所は魔術棟C棟一階にある、魔術練習場だ。
寮の魔術練習場で練習しても良いのだが、前みたいに絡まれても面倒だしな。
ただこの場所は学園の施設であるため、もちろん多くの生徒が利用しているのだ。
今日もほぼ満員。かなり狭いスペースでの練習を強いられている。
それでも練習スペースを確実にゲットできているのは、俺が『S』クラスの生徒だから。
『S』クラス以外の生徒は朝から夜までガッチリ授業があるのに対し、俺ら『S』クラスの授業は午後から研究時間。
言っちゃえば自習時間ってわけ。
つまり早く研究を切り上げても、もちろん言い訳で……
皆が授業を終えるよりも早く、この魔術棟C棟に来ることができるのである。
あとはアルマとルイが来るまで、場所とって待機しとくだけ!
これぞ俺の生み出した、練習場所死守作戦!
日本で毎年、家族の花見行事のために、ブルーシートに何時間も居座っていた経験のある俺に抜かりは無い!
……と言うわけで、今日も無事場所確保に成功し、魔法の練習、練習、練習である。
「行くで!雨ばけ!……どうや?」
「魔法陣に均一に魔力が流動してないぞ」
「何やて!?こ、こうか?」
「いや、ほらこっち。ちょっと流動量が増え過ぎ」
「おぉ、せやな。よし!じゃあもう一回行くで、雨ばけ!」
アルマの魔法陣から放たれた多数の弾丸のような魔力の塊は、壁に立てていた藁人形に降り注がれた。
砂埃が舞い上がり、魔弾が着弾して爆発する音が当たり一体に響き渡る。
ただその音は周りの話声や騒音で、容易に掻き消された。
砂埃が晴れると、ボコボコと蜂の巣状に穴の空いた藁人形が転がっている。
うん。
威力は申し分ないし、命中率も上がってる。
最初にルイと決闘したときに比べ、かなり改善されているのは明らかだ。
「ホントや……ちょっと魔力の流動を意識しただけで、こんなに威力が違うもんなんか?感動し過ぎて、手震えんのやけど……。もしかしてベータって、魔法教える天才?」
「これぐらい基礎だろ。大袈裟に捉えすぎだ。ほら、次は防御魔法の練習するぞ」
「貴様、待つがよい。神の子である我の、魔法をとくと見よ!この防御魔法、完璧であろう?」
「お!ちゃんと魔力が均一になってるな!さすが神の子!成長が早いじゃねぇか!」
「ふふっ、はは!当然であろう!この防御魔法であれば。ドラゴンの炎ですら容易に防げるであろう!がーはっはっは!」
「それは盛り過ぎだ。次は魔法陣の組み合わせを意識しないとな」
「心得た!我は成長の止まることのない女!本来Eクラスにいるような存在ではないのだ!すぐにアルマなど突き放し、この世界の王たる器へと進化してやろうぞ!」
「す、好き勝手言ってくれるやん。最初はうちと決闘した時は、負けて泣きべそかいとったんに……」
「な!?その話はするでない!だ、大体我は泣いてなどない!」
「いやいや、泣いてたで!赤ちゃんかと思ったわ〜、バブバブ〜」
「ぐぅ……死ね!え、えっと死ね!あと…死ね!空降る闇の導きに轟き、天深き光に囚われると良い!」
相変わらずこの二人は仲がいいんだか、悪いんだか。
ただ二人の魔法は見違えるほど成長している。
アレほど穴しかなかったルイの防御魔法も、今や鉄壁の盾レベルになっている。先ほど見た通り、アルマの魔弾魔法もかなり高レベルへと成長。
防御魔法はまだまだだけど……。
最初はEクラスの魔術師が、実技試験までにどれだけ成長できるか心配していた節もあったのだが……
想像以上の成長具合だ。さすが難関試験を突破してきただけはある。
才能の塊。
そこらの魔術師とは訳が違うってことか。
実技試験は役職によって魔法を扱えるのに制限があるんだから、特定の魔法だけ練習したらいいじゃん!
って考えもあると思うが、俺はまだ誰をどの役職にするか決めていない。
二人にも事前に言ったのだが、俺は提出ギリギリまで役職を決めるのは保留すると決めたのだ。
理由はいくつかあるが、まぁ焦ってすぐに決める必要がないでしょ!ってのが一番大きいかな。
アルマとルイがどの魔法を専門として、何を得意にしているのか。
それを知ってからでも、役職を決めるのは遅くない。
防御魔法が特に向上すれば、『ディフェンダー』にする……とかね。
ただ、ちょっと懸念点があるとすれば……
「お前ら、筆記試験大丈夫?」
その言葉を口にした瞬間、二人の顔が少々青ざめた気がした。
「筆記試験……そ、そう言えばそんなん、あったな〜」
「ふっ神の子である我に、筆記試験の勉強など必要ないのだ!」
ルイは片手を顔に近づけて決めポーズをしているが……
やっぱ駄目かぁ。
そんな感じしてた。
二人のどちらかが『コマンダー』になる可能性だってあるんだぞ。
筆記試験を疎かにされると困るんだが……
「筆記試験の勉強できるように、午後7時には魔法の練習切り上げてるはずなんだけど。お前ら部屋に帰ってから、何してるんだ?」
脅すつもりはなかったのだが、自然と声色が低くなっていたらしい。
彼女たちの顔色が更に悪くなった。
「べ、勉強してるで!け、けどその……ネイルとか…疲れて寝ちゃったり……」
「わ、我も、暗黒の儀式があって……」
「暗黒の儀式だぁ?」
「ひっ、す、すいません……半身浴にはまってて……」
半身浴がどうなったら、暗黒の儀式になるんだよ……。
黒くねぇよ!コーラ風呂かよ!
ベトベトしそうだな!
もしかして
これ勉強までも俺が面倒、見た方がいいのか?
嫌だ!めんどくさい!
けど……
はぁ……
「分かった。俺が二人の勉強も見る」
「……え?」「ほんま?」
「あぁ。けど毎日はしないからな!しっかり家で勉強しろ!とりあえず今日は七時まで魔法の練習!夕飯食べた後、俺の部屋集合!分かったか?」
「た、助かるわぁ。このまま一人で勉強してたら、どうなっていたことか……」
「我も崩れ落ちく、古城になっていたかも知れぬ。承諾しようではないか!」
『コマンダー』かどうか関わらず、筆記試験で赤点取ったら退学である。
せっかく一緒に実技試験突破したってのに、気づいたら学園いないとか後味悪すぎるだろ!
つうわけで面倒だが、頑張るしかない。
ホントに……面倒だけど。
俺だって『S』クラス1位とは言え、勉強する時間必要なんだぞ!
論文も書かなきゃいけないし……
そんなに暇な訳じゃない!
くそっ!
頑張ろ……。
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