第32話 馬の耳に念仏
「カペラ先生は、今回の実技試験についてどう思います?」
「こういうとかだけ真面目そうな顔するの、意地汚いって自覚してるかい?」
シャウラとミアとの昼食を終えた後、俺は研究室に来ていた。
昼食が終われば、午後は研究の時間。
実技試験があろうと論文提出は否応なくあるので、逃げられないのだ。
くそっ……実技試験前くらいサボらせろよ!
おかげで4月から研究している『エッチな風』をさらに発展させ、魔術制御理論として論文を書き上げ中。
だるすぎ。
まぁ……研究内容がアレだけにちょっと楽しいんだけど。
そういえば前提出した論文、魔術の高名な論文雑誌に取り上げられるんだって。
すごいの?って聞いたら、カペラは魔術師になったばかりにしては出来過ぎだぜって言われた。
ただ……そんな雑誌に、スカートを捲るための魔法載っけていいの?
って感じなんだが。
もしかして魔術師って変態の集まりなのだろうか?
昨日が特別だっただけで、Sクラス以外の生徒も皆変わらず授業を受けているんだってさ。
よって実技試験のグループ練習は、授業が終わってからの午後5時半開始。
あと一ヶ月あると言っても時間は限られており、さらに筆記試験の勉強もしないといけないとなると……
忙しすぎないか?
「大体…試験に関する質問は、一切禁止されてるはずだぜ?」
「いや、カペラ。これは質問じゃなくて、独り言だ」
「じゃあ僕にも答える義務はないね……ひゃうっ!?がーーーー君!都合よくなくなったら、エッチな風打ってくんのやめてくれないかい!リアルガチでセクハラだぜ!」
「あっ、今日は黒色のパンツ。さらにレース付き」
「おっと、ふっふっふ……気付いたかい?僕だってこんなパンツを履く大人…何だぜ?思い知ったか!」
「なんで、自慢げ何だよ。あっ、俺がスカートめくるのに前もって準備してましたな」
「な、何言ってるんだい!僕はいっつもこう言う色っぽいパンツ着てるんだぜ!」
「嘘を言うな、嘘を……。で、実技試験についてどう思うんですか?」
「恐ろしいほどの切り替えの速さだね……僕のパンツを見たって言うのに。ちょっとは動揺してくれないと、少し傷つくんだけど」
「いや、動揺してますよ。表に出してないだけです。心では思ってます……黒のレースのパンツ履いてるカペラ先生、超大人びてて色っぽいって」
「そうかい!?やっぱり色っぽいかい!?あはは、やっぱり僕は大人の色気ってのが隠せていないようだぜ。も〜そう言うことは心に思わないで、言ってくれないと!」
カペラはまるでお酒でも飲んだかのように、上機嫌になっている。
そんなに大人として見られたかったのか?
だが、このチャンス!活かさない手は無い!
「で、実技試験についてどう思うんですか?」
「えへへ〜僕はね〜……って危ない!気分良くなって話すところだったぜ!だ、か、ら!僕はその質問に答えられないんだって!」
ちっ、作戦失敗。
妹はこうやって、父親からお金もらってたんだけどな……
ん、アレ。ちょっと待てよ。
「確か質問って、教員にしちゃいけないって話でしたよね」
「そうだぜ」
「カペラって授業持ってないし、教員じゃなくないですか?」
「そ、そんなことないぜ……」
「いや、前に自分で教員じゃないって言ってたような……」
「げっ……覚えていたのかい」
「俺の記憶をなめてもらっては困りますよ。今まで見たカペラのパンツの柄全てを覚えてるくらいには、記憶力があるのだ!」
俺の記憶によれば、最初の日はイチゴの柄のパンツ。
その次の日は可愛らしい熊の顔が描かれた、熊さんパンツ。
その次の日は真っ白の純白パンツ……と、こんな感じ。
別に俺が変態だから覚えてるんじゃなくて、俺は記憶力がめちゃくちゃ良いのだ!
元々良かったんじゃなくて、転生してから得た恩恵。
神様、ありがとう!
「何て無駄なことに才能を消費してるんだ……。ま、まあ覚えていたならしょうがない。そうさ、僕はこの学園の正式な教員ではないのだ!実際、試験に関すること一切聞かされてないぜ!」
「野球部のコーチ……みたいなもんですね」
「野球部?コーチ?」
「いや、気にしないでください。それで……もう一回質問するけど実技試験についてどう思うんですか?教員じゃないなら、答えていいんですよね?」
「う、うん。けど……う〜ん。情報を与えてしまったが故に他の生徒と差が生まれてしまうのは、本末転倒な気がする……。よしっ、じゃあ一つだけ、実技試験に対してアドバイスをしてあげるぜ!」
気付くとカペラはいつにも増して真剣な目で、俺のことを見てきていた。
ここまで真っ直ぐ見られると、なんか緊張するな。
ただ……ここで目を逸らしたら負けな気がする!
負けられない!
「何でそんなに僕にガン飛ばしてくるんだい?」
「い、いや。すいません。でアドバイスってのは?」
「それはね……実技試験の内容ってのは、書かれているプリントに書かれてる内容でしかないってことだよ!」
「……は?」
何言ってんだ、コイツ?
試験内容がプリントに書かれてるんだから、当然だろ。
「そ、そんな失望したような目で僕を見ないでくれよ!いや、確かに特別なことは言ってないかもしれないけど……これはかなり重要なことなんだぜ!僕は4年間この学園で生活したけど、これほど重要なことはないって断言できるほどだよ!」
う〜ん
ふざけたボケでも言ったのかと思ったが、そうじゃないらしい。
この『アインヌ』の称号を持ったロリエルフが断言しちゃってるのだ。
これほど意志のこもった発言も中々ない。
「つまりどう言うことですか?」
「そうだね。端的に言えば、実技試験のルールは、プリントの記述内容に書かれていることしか存在しないってことさ。つまりそれ以上でもそれ以下でもない。ルールは配布されたプリントにしか存在しない」
「なるほ…ど?」
そう言葉にするものの、理解はしていなかった。
どう言う意味か分からなかった。
ただ……俺は後に理解したのだ。
この言葉の意味を、重みを。
カペラが…カペラ先生が……
学園生活で一番大事だと言った言葉の真実を……
そしてこの実技試験の真の恐ろしさを……
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