第31話 三人寄れば文殊の知恵

結局、盗む食いお嬢様ことターニャに絡まれた後は……

何事もなくドラゴンの高級ステーキを3人で食べ、そのまま解散となった。


ステーキを食べ終わる頃には、ルイの調子も戻ってくれたようで

「ドラゴンを食す姿こそ、我に相応しい!」

などと意味不明な供述を行っていた。

アルマに負けたときはテンションが低すぎて別人かを疑うほどであったが、元気になってくれたなら良かった。


解散した後はそのまま部屋に直帰、そのまま朝までぐっすり寝て登校である。

今日は朝起きるのが遅くて、温泉に行けなかった……

残念。


学園はいつも通り始まり、授業も通常運転。

中間考査の説明の時こそ、皆ヨイ先生の言葉に耳を傾けていたが、今や誰も聞いていない。

ターニャも俺と会ったことなど忘れたかのようにいつも通りで、教科書を立てて弁当を食べていた。

こうして意識すると、斜め前だから嫌でも目に入ってくるんだよな〜。


ただターニャは弁当を食べながら数分に一度くらいのタイミングで、俺の方を気にしてるそぶりをする。

やっぱり見られてると意識すると、ちょっと食べにくいのかも。そのときは決まって、窓の外を覗くことにした。

だって怖いんだもん。目線鋭いし。


そのまま時間は過ぎて、昼食。

いつも通りシャウラとミアと共に、屋上のベンチに腰掛ける。

いや、ミアとは毎日昼食を共にするって決まってるわけじゃないんだけど……

いつの間にかこうなってた。

こうして3人で話す話題と言えば……

やはり実技試験のグループについてである。


「へぇ、俺ら3人誰もブロック被りは無しか」


「そのようね。ベータは『ε』ブロック。私は『δ』ブロック。ミアさんは『η』ブロックだものね。敵対関係にないと言うことは、情報交換の点ではアドだわ」


「は、はい。良かった〜二人と一緒のブロックじゃなくて。友達同士で殺し合うなんて、やっぱり嫌だもん」


「あら私はミアさんと友達になったつもりはないのだけれど」


「ひ、酷いです!では今日から、お友達ってことで!」


「考えさせてもらうわ」


「何でぇ……」


ミアはガクッと項垂れる。

シャウラはホントいつも通りだな。

相変わらずのカミソリのような切れ具合。

見てて安心するぜ。新年にテレビで見る、謹賀新年の日の出コマーシャルくらいの安心感。


「それでグループはどんな感じなんだ?上手いこといけそうか?」


「私は問題なさそうね。メンバーの2人は、私の言いなりになるって言ってたもの。駒として使い潰すつもり」


「いや、怖すぎ。ミアはどう?」


「私も大丈夫そう……。メンバーの人たちすっごくいい人たちで、助かった。ベータは大丈夫そう?」


「俺も……うーん、まぁ大丈夫かな」


「そう……ってそんなことよりも話すべきことがあるでしょ?HRの配られたプリント、忘れてないわよね?」


「そりゃな。むしろそれが本題だ」


「配布されるアイテムのことですよね」


学園に登校してすぐさま配られたのは、1枚のプリント。

そこには実技試験で配布されるアイテムについて、事細かに説明がなされていた。ヨイ先生はその後説明一つすることなく授業を初めてしまったため、詳しい内容まで読み込めていない。

再度確認のため、ポケットから取り出し目を通す。


『実技試験にて、配布されるアイテムについて


実技試験にて、『コマンダー』に配属された生徒に配布されるアイテムは以下のとおりである。

アイテムは『コマンダー』に配属された生徒の筆記試験による点数が、配属されたブロックにおいて上から何番目かにより異なる。試験での配布されたアイテム以外の道具の使用は一切禁止とする。


順位に関わらず全グループに配布されるアイテム


・魔力回復薬 ×5

このアイテムを使用することで、消費した魔力を徐々に回復させることができる。

・飲料水1L ×3

水分補給用の飲料水。

・非常食用クッキー ×12

何らかの非常事態が発生した際に、食用として利用するための物。

・マップ ×1

ダンジョン内の地図。


順位1位のグループに配布されるアイテム


・火の魔石 ×5

火の魔力の籠った石。

・水の魔石 ×5

水の魔力の籠った石。

・風の魔石 ×5

風の魔力の籠った石。

・土の魔石 ×5

土の魔力の籠った石。

・位置確認レーダー ×1

この道具を使用することで、一分毎に全グループの位置を確認できる。

・特急回復薬 ×10

この道具を使用すると、使用した当本人のHPが徐々に回復し、満タンの状態にする。

HP満タンの状態の際に服用しても、一切の効果を発揮しない。


以下記述されている四つのアイテムの内、二つのアイテムを使用可能。

実技試験一時間前までに、どのアイテムをもらうかを指定し報告すること。


・魔法制限解除薬 ×1

このアイテムを使用した人物は服用から五分の間、一切の試験における魔法の制約が無くなる。

例:コマンダーが服用した場合、当本人は全ての魔法を五分間使用可能。


・魔法強制発動禁止空間発生装置 ×1

このアイテムを使用した場合、当アイテムから半径5メートル内の空間にいる生物は、魔力操作の一切ができなくなり、魔法が使えなくなる。

ただしこの効果は、使用した当人が属するグループメンバー三名には適応されない。

発動時間は五分間。


・一級指定魔剣 『飛雨(ひう)』 ×1

あらゆる属性の魔石が埋め込まれた魔剣。

魔力を込めると剣内に刻まれている魔法陣が発動し、込めた魔力の属性によって異なる効果を発生させる。

詳しくは、時計塔二階南東、時計塔図書室にて『魔剣資料32』より閲覧可能。


・召喚魔石結晶 『火狐』

このアイテムを使用すると、精霊である『火狐』を召喚することができる。

自立して一人でに行動させることも、命令してその通り動いてもらうことも可能。

『火狐』が得た実技試験のポイントは、そのままグループのポイントに加算される。



順位2位のグループに配布されるアイテム


・・・』

と続いている。


うーん、くっそ豪華なアイテムばっかだな。

一位の人有利すぎない?

『コマンダー』の筆記試験の点数、想像以上に大事すぎる……


特に四つの内、二つ選べって書いてあるアイテムたち。

何それ?ルール崩壊してるじゃん。

魔法制限無くなるとか……は?って感じなんだが。

魔法使えなくなるヤバいアイテムあるし……


極め付けは魔剣『飛雨』!

一級魔剣とか数億とかくだらない値段するよ!試験に本気出しすぎだろ!


あと、精霊召喚されたら、生徒たちボッコボコ!

チートアイテムすぎるだろうが!

こんなの使われたら、なすすべなく何グループか崩壊させられそう。

一位のチームに遭遇したら、もう運の尽き。

赤点まっしぐらだよ!


ちなみに順位2位には『四つのアイテムのうち、一つのアイテムを使用可能』

って書いてある。

つまりこのチートアイテムを持つグループが、二つ生まれるってこと。

ヤバすぎ……。


おいおいどうすんだこれ……

作戦の幅広がりすぎ!

これやっぱり俺がコマンダーになって、1位なり2位を死守した方いいのでは?

けど……う〜ん悩ましい。


「ベータ君、あなたならこの四つのアイテムの内、どの二つをもらうのかしら?」


悩む俺の脳に横槍を入れるように、シャウラの発言が唐突に飛んできた。

どれって言われても、絶賛悩み中だよ!

分からないよ!


「そう。分からないって顔してるわね」


そうやら表情だけで伝わったらしい。


「ミアさんはどう?」


「わ、私!?私はですね……とりあえず魔法制限解除薬…ですかね?五分間とはいえ、何でもありですし……丁度魔石も配られてるので、魔石魔法で遠隔からバーって魔法打ったら楽に勝てそうかな〜何て。位置確認レーダーで全部のグループの場所わかりますし」


「そう。馬鹿みたいに単純な発想ね」


「ば、馬鹿!?」


「けれど単純ではあるものの、効果は絶大かもしれないわ」


「そ、そうですよ!単純でも勝てればいいんです!じゃあシャウラさんは、どのアイテムもらうんですか?」


「私は二つ目はまだまとまってないのだけれど、一つ目は間違いなく魔剣かしら。この魔剣があれば、コマンダーが魔法を使えないって言う一番のデメリットをなくすことができるわ。守りにも攻撃にも使えて、一切の時間の制限もない道具。安定して実技試験を突破するのに、これほど有用性の高いアイテムはないわ」


「た、確かに……」


「けどそれを言ったら、召喚魔石結晶も同じくらい高い有用性を持つと思わないか?」


「精霊何て所詮、倒されたら終わりよ。どっかの誰かさんみたいに超強力な魔法を使われたら、即成仏」


「それは魔剣あっても変わらないだろ……」



昼食の時間が終わっても、アイテムに関する話し合いが終わることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る