第30話 故きを温ねて新しきを知る

「勝者、アルマ・エルダ!」


俺の声が魔法闘技場に響き渡り、空間魔法が崩壊する。

HPバーがスッと消え、アルマとルイの魔法は全て強制的に解除された。

決闘の争いによって生まれた物理的なダメージは一切ないのだが、二人とも本気で戦っていた分、魔力を消費した疲労感は相当なものだろう。

魔法に関するアドバイスをしようと考えていたが、休憩をとるべきだな。


「はぁ〜何やったんや、さっきの魔法。勝ったのに釈然とせぇへんわ……」


「あぁ、俺も驚かされた。ルイ、あの魔法は……ってあれ」


アルマとルイは俺の側に集まってきたのだが、ルイの足取りが重い。

顔を俯いたまま、一向に上げようとしない。

見れば地面にポタポタと水滴が落ちているのが見える。


「え!?もしかして自分、泣いとるんか?」


「な、泣いてなどないわ!」


「いや、号泣じゃねぇか」


ルイは俺に眼帯を取られた時と同じように、たらふくの涙をこぼしていた。

自身では泣いてないと言い張っているが、肩を揺らして泣くほどの号泣である。

へぇ、意外と負けず嫌いなんだな。

けど、えっと……どうしよう。


一度俺とアルマは、顔を見合った。

そしてアイコンタクトだけで……

とりあえず泣き止ませよう!

その意思が一致した。


「え、えっとルイ……確かに負けはしたが、良い戦いだったぞ。あの魔眼の魔法なんて、マジで驚かされた。なんだよ、あの魔法!お前本当に神の子かよ!……なんてな」


「せやせや!せやで〜ルイ。ウチが勝てたのは、ほんま奇跡みたいなもんや。たまたま自分の魔法、運よく避けれただけやで!また戦ったら絶対勝てるなんて、これっぽっちも思ってへん!」


「……」


「そんなに落ち込むな。これは本番じゃないんだし、俺だって今日から全力でサポートする。神の子として恥じない魔術師になろうぜ!」


「そうや!ウチらはチームなんや。一緒に成長していこ!それに……あれやで。勝者は夕飯奢ってもらうことになっとるけど、ウチ勝てたなんて思ってへんし……夕飯半分分けるで?どうや?」


「……うん。……ぐすっ…ありが…とう」


「お、おう。そ、そこまで素直にお礼されると、普段との差が凄すぎて……ホントにルイなのか心配になるんやけど」


「そこまでお前に負けたのがショックだったってことだな」


「何かその言い方、ウチが負けるのが当然みたいに聞こえるんやけど」


「いやいや、あはは〜……そんなことないぞ」


「うっすい笑顔やな」


とりあえずルイは泣き止んでくれたようだ。

あ〜良かった。

学園きてからシャウラと言い、ミアといい目の前で泣かれてばかりだが……

今だに慣れん。

泣かれたら、そりゃ動揺するじゃん。人間だもの。みつを。



「ちょっとあなたたち、そこ退けてくれるかしら?」


ん?唐突に背後から声が消えた。

透き通った女性の声。誰だ?

俺はパッと振り返りその声の張本人を見た。

アルマやルイも「何や?」「……誰?」

と同じように振り返る。


そこには俺らと同じような、3人組のグループが立っていた。

俺らと同じ、中間考査の特訓のために来たのだろうか?

特にそのグループの先頭に立っている少女は、高く止まっているような印象を受ける。


「魔術実験場は、『ε-3』であるワタクシたちが使わせていただきますわ。邪魔なので退けてくれます?」


ツンとした表情に、整った顔立ち。

輝いているのかと錯覚するほど、美しい長く伸びた金色の髪。

制服には一切の皺が見られず、見ただけで高貴な印象すら感じる。

そんな少女のクリッとした一際大きな青色の瞳が、睨むようにこちらを見ていた。


何だコイツ……。

つかとんだ美少女だな。ルックスは間違いなく異次元レベル。

あれ?何か、見覚えあるぞ…確かSクラスに居た……

あ!そうだ!

俺の斜め前の席の奴……

授業中、教科書立ててご飯食べてた奴だ!


真正面から見たことなかったから、パッと見気づかなかったぞ。

こんな何処かのお嬢さんみたいな奴だったのか。

いや……なんでこの出立ちで授業中、飯食ってんだよ。

印象違いすぎるわ!ギャップ萌えかよ。


「聞いてるのかしら?退けと言ってのよ?」


「えっと、俺らこの魔術闘技場の隅のスペースしか使わないから。他のスペースなら使っていいぞ」


「あなた何を言っているのかしら?ワタクシがこの場所を使うと言っているのです。誰かと共有するだなんて……ぷっ、冗談にも程がありますわよ。ワタクシが使うと言うならば、それは貸し切りするということ。それ意外ありませんことよ。逆に他に意味があると思って?」


「とんでもない、自己中発言……アルマ、言ってやれ」


「え!?何でウチ!?」


「俺こういう争いごと苦手なんだ。頼む」


「しゃーないなぁ。おい、そこの金髪女!ココはウチらチームが先に占領してるんや!後から入ってきて、譲れや何て傲慢が過ぎるやろ!」


「ワタクシは実力行使は辞しませんことよ」


「おい!話聞けやぁ!」


金髪少女、アルマ完全無視。

耳にすら入ってないといった様子。

なるほど自分より下のクラスの生徒とは、会話するつもりもない……と。俺が『S』クラスの魔術師だから、辛うじて会話してるって訳ね。

これまた、クセの強い魔術師だこと……。


「まあまあ落ち着けよ、盗み食いお嬢様」


「なんですの、その呼び方。もしかしてワタクシのことを言っているのかしら?」


「そうだよ。授業中弁当いつも食べてるからさ」


「……!?嘘!?まさかあなた、ワタクシが授業中に弁当を食べていることを!?いや、まさか……教科書で隠しながら食べているし、バレてなどいないはず……」


「いやバレバレだろ。背後からの防御力皆無だぞ」


「た、確かに……!?」


もしかしてコイツ馬鹿なのかもしれない。


「い、いえ、ワタクシは結界魔法で、視線が向かないようにしてますのよ!バレるはずありませんわ!」


コイツそんなことしてたのかよ。

わざわざ授業中に弁当食べたいがために、魔法使ってんのか。

いやけど……魔法使ってる何て全然気づかなかったけどな。

普通に見えたし。


「俺はお前の斜め後ろだぞ。見えるに決まってんだろ」


「い、いえ……近くでも見えないようにしていますわ……それなのに見えたというならば……あ、なるほど分かりましたわ。あなた、ワタクシ、ターニャ・アウストラに恋してますのね」


「は?」


何で?どういうこと?

つかコイツの名前ターニャ・アウストラって言うんだな。

どうせこのアウストラって家も名家何だろ。

知らんけど。


「ワタクシの結界魔法は、ワタクシのことを見たいと思う強い意志がある方に限り、時たまではありますが結界を突破してしまうことがあるのですわ。あなたがワタクシのことを見れたということは、まさに強い意志があったということ。となれば思いつく原因は……恋、以外有り得ませんわ」


「いや、ちょっと待て勝手に話進めんな」


「いえいえ構いませんことよ。ワタクシは誰よりも美しい淑女。あなたがワタクシに恋心を抱いてしまうことは、何らおかしいことではありませんわ」


「ベータ……そうなんか?」


「いやお前も信じるなよ。俺がこんなお高く止まってるような女に、恋心抱くわけないだろ」


「いや明らか美少女やし、性格度外視して人目惚れの可能性もありえるやろ?」


「疑うな!お前は俺の味方であれ!」


クソっ、何で味方のチームにも疑われなければならないんだ!

確かに美少女、それは認める。

地球にいれば国際的に活躍するトップモデルになれたかもしれないほど、完璧なルックスにスタイル。

けど、それで恋に発展するか?


高嶺の花過ぎる存在って言うか、住む世界が違いすぎて何の感情も抱かねぇわ。


「ふふっ、ワタクシに一方的な恋心を抱くことは構いませんことよ。けれどそれならば尚更、場所を譲るべきではなくて?ここで素直に譲ってくださるのなら、名前くらい覚えないこともないですわよ」


「ふざけんな。一層譲れなくなったわ」


「あら、恋心が逆に意固地にさせてしまっているのかしら」


「どう解釈してもらおうが構わねぇが、俺らが先にこの場所を使ってたんだ。俺らが使ってる場所以外でも十分なスペースあるんだから、使っていいって譲歩してやってるだけありがたいと思えよ」


「はぁ、何度言ったら分かりますの。このアウストラ家の次期当主であるワタクシが、どこぞの知らない魔術師チームと場所を共有して練習などありえないことですわよ。家の名に泥を塗るに等しい行為ですわ」


コイツガチで引く気ないじゃん。

そんなに一族のプライドってのが大事なのかよ、魔術師共が……。大体、俺らと場所を共有しただけで一族に泥を塗るってどういうことだよ。意味分からねぇよ。



ちっ


はぁ……クソ、


ココはしょうがないけど引いた方がいいか。


アルマとルイの魔法にアドバイスしたり、俺の魔法がどのくらいの実力なのか、これからのために見てもらおうかなぁ……何て思ってたが、しゃーない。


このまま言い合いした結果、虎の尾を踏んでシャウラの時みたいに決闘とかになったら面倒だし……。

俺は学ぶ男。温故知新の心意気だ。


けどここで譲ったら、ホントに俺がコイツのこと好きみたいじゃねぇか。何か癪に触るな……。

いやっ、落ち着け俺。

その場の情に流されるな。


シャウラとの言い合いが決闘に発展したのも、農家のことをバカにされて感情に流されたのが原因だ。

ここは深く深呼吸して、冷静さを取り戻そう。


すーはー

よし、帰ろう。

これが争いを生まない、賢き選択。


「……分かった。このまま言い合っても時間の無駄だ。俺が引くよ。アルマ、ルイ、ちょっと早いけど夕飯食いに行くぞ」


「え!?もしかしてホンマに…好きなん?」


「ちゃうわ!ほら、ルイも行くぞ。決闘関係なく、俺が夕飯奢ってやるよ。」


「……うん」


「お、太っ腹やな。さすが『S』クラス魔術師!」


どうせ無料だから、太っ腹もクソも無い。

俺らは素直に通称盗み食いお嬢様の横を通り過ぎ、魔術闘技場から出ようとする。

さーて切り替え切り替え、今日は何食べようかな〜。


「ちょっとお待ち下さる?」


ん?

何故か呼び止められ、出口寸前で後ろを振り向く。


「名前、教えて頂けます?」


「俺?」


「そうですわ。名前を覚えることも無いと、言ったではありませんの」


「お、おう。ベータ・フォルキーナスだ。気軽にベータって呼んでくれていいぞ」


「ふっ、気が向いたら覚えておきますわ」


気が向いたら覚えるってどういうことだよ?

日本語間違ってない?

ま、細かいことはいっか。

やっぱり今日もステーキ食おうかな〜。


俺は二人を連れたまま、魔術闘技場を後にした。

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