第29話 万事休す

アルマとルイと共に訪れたのは、『S』クラス学生寮である。

この学生寮には、魔法を安全に打ち放題できる魔法闘技場が完備されている。


別に他クラスの生徒を寮内に入れてはいけない何てルールないし、いいよね。

この場所で彼女達の実力を見るとしよう。


そう思って寮内に入れたのだが、2人はそんな様子では無かった。

あんぐりと開いた口が塞がっていない。



「これが『S』クラス寮かいな……『E』クラスと飛んだ違いやな。羨ましい……」


「ふ、がーはっはこの寮!この寮こそ我が城に相応しい!欲しい!住みたい!」


「『E』クラス寮ってどんな感じなんだ?」


「招待してあげよか?まあ人を入れるようなスペース何てあらへんけどな。木造でボロッボロの人一人ギリギリ寝れる程度のワンルームやで」


「そ、そこまで違うのか……」


「せや。こんな立派な寮住んでたら、そりゃ想像出来んわな。かー羨ましいわ!」


「我もこの寮に住めるよう、ベータよ。手配してくれぬか?」


「そんな権限ねぇよ。けど今回も中間テスト上手く行けば、少なくとも木造からは脱出できるんじゃねぇか?」


「ふ、ふふっ、左様。神の子である我が力を解放し、木造の朽ちた要塞から抜け出そうぞ!」


「せやな。俄然やる気出てきたわ」


意外と2人ともやる気になってくれたらしい。

アルマとルイも思ったより仲が悪い訳でも無さそうだし、これは期待できそうだ。

さっそく魔術闘技場に招待し、軽くストレッチさせる。


「2人にはとりあえず擬似決闘してもらいたい。実技試験を考慮して魔弾魔法と防御魔法のみ使用可能ってルール。いいか?」


「かまへんで。さーて神の子とやら名乗る厨二病娘に、現実ってやつを叩きつけてやろぉかのぉ」


「ふっ、がーはっはっは!分からせられるのはどちだろうな。貴様の敗北して落ち込む姿が目に浮かぶわ!ベータよ、折角の決闘なのだ!何か賭けて決闘を行わせろ!」


「賭け?えっとそうだな……じゃあ勝者は今日の夕飯俺が奢るよ」


「何やて!?」「ほう」


「『S』クラスの高級飯、食べたいだろ?」


「良いでは無いかぁ!神の子である我が戦うに相応しい賭けだ!」


「飯程度で、神の子が戦うのが相応しくてええんか?まあ、ウチも異論あらへんわ!夕飯パーティーしたる!」


2人がフィールドに並んで向かい合う。

つかいつの間にか俺がこのチーム仕切ってるけど、いいのだろうか?まぁ異論の声が上がらないってことはいいんだろうな。

やっぱSクラスってのは偉大だな。


「じゃあ勝者は俺が飯奢るってことで、アルマ・エリダとルイ・イロンの擬似決闘を行います。空間魔法展開!」


俺は2人を包むように、空間魔法を展開させた。

この空間は俺とシャウラが決闘を行ったときと、全く仕様は変わらない。

ただ試験を鑑みて互いのHPバーが見えるように設定しておいた。


こんなこと簡単に出来る何て、俺って天才なのかも。

擬似決闘ってのは、決闘と違って正式な手続きで決闘を行ってないってこと。


つまりこの決闘での約束事は、保証されてはいない。俺が飯奢らなくても良いってわけ。

そんなつもりはないけど。コッチはお金かからないしな。

何なら負けた方にも奢ってもいいくらいだ。


「じゃあこの魔弾が地面に着弾すると同時にスタートってことで。決闘開始!」


俺は天井に向けて魔弾を放った。

魔弾は頭上3mほど上がった後、進路を逆に急降下を始める。

さーてEクラス魔術師と言えど、あの難関試験を突破した学生。お手並み拝見といこうか。


魔弾がドンっと言う音と共に着弾。

砂埃が舞い上がり、擬似決闘がスタートする。

最初に動いたのは、薄緑髪ツインテール少女のアルマだった。


「先手はいただくでぇ!ウチの魔弾のスペシャルコースぶち込んだるわぁ!


アルマの手のひらから魔法陣が展開され、そこから20発ほどの魔弾が出現する。


「行くでぇ!雨ばけ!」


彼女の言霊に呼応するように、魔弾は光を一斉に発すると……

一つ一つ様々な軌道を描き乱れながらも、ルイへと飛んで行った。


しっかり言霊と共鳴し、複合魔法となって威力も申し分無い。

何だ、けっこう魔法使えるじゃねぇか。ただ魔弾の軌道が荒く、ルイに到達しない魔弾も数発。

魔法陣の構成に、多少の雑さを感じる。


「ふっこの程度我の前では風の前の塵に同じ!」


ルイは防御魔法を展開し、見事魔弾を防ぐ。

ただ防御魔法が脆いのか、攻撃を防ぎきったもののヒビが入ってしまっている。全然風の前の塵と同じじゃないじゃねぇか。アルマの魔弾の命中精度が高ければ、貫通していたかもしれない。命中率の低さに救われたな。


ただ……そこからルイは予想だにしない行動に出る。


「では我の本気を見せるとしよう!開眼!」


何とルイは左目の眼帯を、取ったのだ。

それと共に魔眼に大量の魔力が篭もり、魔眼を中心として縦に長い魔法陣が一瞬にして作り出される。


「な、何やそれ!?」


アルマはその様子に驚いて声を上げていた。

明らかに高度な魔法陣。それが魔眼を核として、大量の魔力を流動させながら構築されいく。


その様子はアルマだけでなく、俺までも驚愕させた。



え!?いや、何だ……この魔法!?

俺はある程度の魔法であれば、見るだけでコピーすることが出来る能力を持っている。

シャウラとの決闘や、ナハト先生と戦ったときのように


ただこの魔法……

理解できない。コピーなどもってのほか。

展開されている魔法陣が、一切もって構築理論を把握できない。魔術理論が根本から違う。

これが……魔眼による魔法なのか!?


「闇桜!」


ルイの魔法陣に闇属性の魔力が灯り、放たれたのは無数の魔弾。

それが雨のようにアルマに降り注ぐ。


「ちっ、十六夜(いざよい)や!」


アルマは咄嗟に防御魔法を展開。

……だがその魔弾は防御魔法を容易に、貫通した。

魔弾がアルマ周辺に降り注ぎ、砂埃が舞い上がる。


彼女のHPバーは瞬く間に減少し、赤ラインへと突入した。


しかし……アルマは倒れることなく立っていた。

残りHPは1ミリ以下。微量の中の微量。

それでも彼女は確かに、ルイの攻撃を受け切ってみせた。


何故彼女が生き残れたのか。

それはステップだった。彼女は軽快なステップを踏むことで魔弾を避け、ギリギリ留まって見せたのだ。

なんという運動神経、そして反射神経。

ホントに驚かされてばっかりだ……


「はぁはぁ……やるなぁルイ!だがウチはまだ負けてへんで!って、あれ!?」


ボロボロになりながら仁王立ちしているアルマは、間の抜けた声を出す。


まぁそりゃそうだよね……



だってルイが地面に無防備な状態で倒れてるんだから……。


「え!?何で倒れてんねん!ウチまだなんもしてへんで!?」


「ふっ、ふふっ、魔眼を解放したのだ。その反動で我は動けぬ」


「何でや!?」


模擬決闘は意外な形で終わりを迎えた。

動けなくなったルイに、アルマは動揺しながらも攻撃。

結果ルイのHPが無くなる。


「勝者、アルマ・エルダ!」


模擬決闘はアルマの勝利で終わったのであった……。

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