第二章
第24話 鳩に豆鉄砲
月日は過ぎ、季節は梅雨時。
いつも通りの朝、いつも通りの空、いつも通りの学園、いつも通りの教室、そして……いつも通りの授業風景。
うん、いつも通りだ。
いつも通り……誰も授業を聞いていない。
なのにその状態であることが、逆に平穏を感じる自分もいる。まだ6月初旬だってのに、どうやら俺は完全にこの風景にも順応してしまったらしい。シャウラは天井見上げならぼーっとしてるし、ミアは魔石を磨いきながらニヤニヤしている。俺の隣の席の奴なんか、砥石で剣を磨いてるしな。
うん、これぞ日常。『S』クラスの日常だ。
コイツら何のために、学園に来てんだろうな。
学費とか全部かからないとは言え、勿体無いとか思わないのかよ。
せっかくヨイ先生が授業してくれてんだからさ、聞いてあげてもいいじゃねぇか。
ヨイ先生、けっこう教えるの上手いんだぜ。
な……先生
って!?え!?
先生はジロリと教室を見渡していた。
そして突然、持っていた魔術書を教壇に叩きつける。
授業中に唐突に鳴る、バゴンっと言う音。
一切授業に興味のない生徒たちも、流石にその音に驚き先生の方を一斉に見た。
「貴様らが私の授業を聞かないのは結構だが、これから言う話は聞いておくべきだろう。今から7月上旬に行われる中間考査の説明を行う。入学初日にも言ったがこの学園のテストは特殊だ。耳の穴かっぽじってでも聞くといい。そうでなければ七月が終わる頃には、学園にいないだろうからな」
ヨイ先生はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべた。
いつもと違う雰囲気を感じ取り、皆手元での作業を止める。
しーんと静まり返っている教室の空間に、謎の緊張感が生まれた。
この緊張感……これを感じるのは、入学以来だな。
「今回の中間考査は筆記試験と実技試験の二つを行い、その合計点にて実力を問うものとする。筆記試験の範囲は最初の授業から、試験前日までに取り扱った内容となる。満点は500点、赤点は40点だ。これは、まぁ異論はないだろう。重要なのは実技試験についてだ。今回の実技試験は、学園側が選んだ同学年他2人の生徒と3人のチームを組んで、チーム戦で行うものとする」
チーム戦!?
何の色も見せない無感情な教室に、珍しく動揺が走った。
チーム戦!?チーム戦ってなんだ?
よくわからないけど入学する際に行われた実技試験とは、全く持って本質が異なるってことか……。
「試験について詳しく述べる前に、何故チームで行うかについて説明する。この実技試験にて問う能力は、魔術の基本的知識や実践能力はもちろんだが、一番は協調性。この協調性と言う能力について、魔術師として必要なのかと疑問を思うものも多いだろう。何故なら君たちは、1人の才能と努力でここまで来たのだから。だがな、これから貴様らは人生を賭して魔術研究の道を歩んでいくことになる。そこで間違いなく、躓く時期が訪れるだろう。その時立ち直り、前へと進めるかどうか……それは周りに人がいるかどうかで決まる」
ヨイ先生はいつにも増して真面目な顔で、言葉を続ける。
「そこで重要なのが、協調性と言う能力。協調性の無い者の周りに人は集まらず、共同研究などを誘われることもない。はっきり言おう。協調性の能力の無い魔術師は、どれだけ才能があろうが、『S』クラスの生徒だろうが、二十年後には死んでるぞ!魔術師としてな。今は分からぬだろう、それでいい。だがきっと将来、この能力を持っているか否かで後悔するぞ。故に実技試験にて、この能力を問う。ちなみに筆記試験がどれだけ良かろうと、実技試験で赤点と判断された場合、強制退学となる。逆も然りだがな。協調性を持たず、持とうと努力もしない魔術師はこの学園にはいらない。さっさと去れ」
その言葉には、覇気がこもっているように感じた。
赤点は即退学かぁ、そういえば入学初日にも言ってたな。
厳しいねぇ。
「さて…実技試験の内容についてだが、先ずそれぞれに一枚の紙を渡す」
ヨイ先生は教壇の中からA4サイズのプリントを取り出すと、一人一人丁寧に確認しながら机の上に置いていく。
そしてもちろん俺の机の上にも、一枚のプリントが置かれた。
そこには『魔術実験B棟Cー15教室』とプリントの大きさに対して、小さな文字で書いてある。
何だこれ?場所?
どっかの教室か?
「貴様らは本日午後1時、今配布したプリントに指定された教室に向かってもらう。そこで実技試験を共に挑むこととなるチームメンバーとも会合することになるだろう。実技試験の内容は公平を期すため、教員からの口頭ではなく指定された教室に置かれている3枚のA4用紙によって行うものとする。試験内容の全てはその掲示に全て書かれているため、質問など教員は一切受けない。チームメンバーとよく話し合いながら、試験内容を理解するように」
今、試験内容言えよ!
中々くどいことするなぁ。
とりあえず午後1時にこの教室行けばいいのね。
いや魔術実験B棟ってどこだよ。行ったことねぇよ。
「試験は現一学年、全共通である。今学年の生徒は、今のところ全員で210名。1チーム3人のため、70チームできることになるだろう。全70チーム、魔法の実力が均等になるよう調整して作られている。つまり……言いたいことは分かるな?貴様らは一番上のクラスである『S』クラスの生徒だ。となればチームの実力を均等にするため、同じチームとなる生徒の実力は……予想がつくだろうな。つまり貴様らがチームのリーダーとして舵を取り、試験に挑まなければならないこととなるだろう。しっかりとチームをまとめ上げ、協力して試験に挑むように。では以上、礼」
ヨイ先生は無表情のまま、早足で教室を出て行く。
一気に静かになり、気温が下がったのかと錯覚すほど冷たい雰囲気の教室。
いつもなら皆早々に席を立つのだが、誰1人席を立つ者はいなかった。
中間考査の内容を聞いての俺の感想だが……めんどくせぇ。
マジでその感情が一番大きい。
まだ実技試験の内容が明確になっていないので何とも言えないのだが……
リーダーとしてチームをまとめる?
それが何よりも面倒くさい。
俺はなぁ、できるだけ人の前に立ちたくない人間なのだ。
学校とかで学級委員長が決まらない!誰か手あげて!って時に、周りに急かされても絶対に上げない。
俺はそんなタイプ。
こちとら生粋の陰キャやぞ。チームを率いるとか嫌だわ!
参謀とか……そう言うポジションが好きなんだわ!
はぁ……けど先生が言ったように、チームは実力を均等にするように作られてんだろ?
つまりさぁ……俺が1位ってこと考えると、同じメンバーの順位相当低いんじゃないか?
そうなったら赤点コース直行が濃厚。
ここは腹括らないとな。
生憎今は15歳の少年であるものの、前世では社会人として社会の歯車を担っていた身。
数年で辞めてニートになったとは言え、協調性はある程度あると自負している。
だから……大丈夫、だよな?うん、大丈夫。
それよりちょっと気になるのが、シャウラとミアなんだよな……。
シャウラに協調性?ある分けないじゃん!大草原不可避って感じなんだよな。
アイツ初対面から、あんな感じだしな……。温泉でばったり会ったの今だに鮮明に覚えてる。
高飛車だし、常に他人のこと見下してるし、今は強制的に友達になってもらってるからまだいいけど、そんな今でさえあのカミソリのような切れ味。上手くチームまとめられんのかよ……。
ミアに至っては、この頃一緒に過ごす時間が多いので分かったのだが……くっそ人見知りなのだ。
なんで俺は初対面の時に、あんなにちゃんと会話ができたんだろ?ってめっちゃ思う。
それくらい人見知り。
知らない人と話すと声小さいし、ゴニョゴニョ喋るし聞き取れたものではない。
売店で弁当買う時なんか、俺がサポートしないとろくに注文もできない。
俺がいない時どうしてたんだって聞いたら、必死にジェスチャーでボディーランゲージしてたって言ってた。
外国かよ。
まぁ今は他人の心配より、自分の心配だよな。
メンバーが誰なのか?どんな人なのか?
くそ、緊張してきた。
とりあえず昼飯食いに行こう!昼飯!
俺は誰か一人が席を立ったのを確認してから、その席を立った。
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