第23話 団栗の背比べ
鉱石採掘の騒動から、実に数週間が経とうとしている。
月日ってのは面白いもので、あれほど刺激的な経験も今や、ただの思い出の一つとなっていた。
あの騒動の顛末について、少し…話させてもらおうと思う。
ミアの怪我についてだが、一切の後遺症なく五体満足で無事回復した。
俺がわざわざ回復魔法で回復させたのだ。完全回復してくれなきゃ困る。
天魔石を奪い返したおかげで、論文も無事完成。
顧問となる先生も変更され、鉱石探索における全ての目的は果たされたと言える。
誘拐され魔法陣に利用されそうになっていた女性も、無事家まで帰すことに成功。
何でも冒険者だったらしく、帰り道ではミアを治療しながらも冒険談を色々と聞かせてもらった。
割と仲良くなれたかな……くらいには思ってる。
深く感謝もしてくれたらしく、わざわざ学園までお礼として冒険者御用達の短剣をプレゼントしに来てくれたほど。
ただ……プレゼントをもらって何なのだが、俺は元々助ける気はなかったし、何なら見捨てようとすらしていた。ちょっと感謝の品をもらうのは忍びない気分だ。
あぁ、そうだ…スキンヘッドジジイことナハト先生についてなのだが……
なんと彼は自らしでかした全ての行為を告白し、騎士団に自首したのだ。
そのため魔術協会から脱退させられ、称号も全て剥奪。
今は騎士団の牢の中にいるらしい。
証人として騎士団の施設に俺も何度か行ったので騎士たちから話は聞いたのだが、彼は本当に洗いざらい事細かに全てのことを話したんだとか。そんな奴にも見えなかったが、悪逆非道な魔術師でも良心ってものは持っていたらしい。
……とこんな感じで、一切の憂いなく鉱石採掘騒動は終わりを迎えた。
だがこれをきっかけに、引き起こしてしまった面倒ごともある。
それは……ミアのことだった。
「べ、ベータ。は、はい、あーんして、あーん!」
「いや、そんなことしなくても食べれるから……」
「だ、ダメだよ!友達はあーんって…するんだよ!そうやって互いに食べさせ合うんだよ!」
「いや、それカップルがするやつだから!つかカップルでも中々しないから!」
「そ、そういう細かいことは…気にしない気にしない!はい、あーん!してくれないと、無理矢理口に突っ込むよ」
「い、いやそれは止めて……」
「あーんっ!えへへ、美味しい?」
「はぁ……前から気になっていたのだけれど、あなたたちあの鉱石探索で何があったのよ?ミアのあまりの態度の変化に私、ついていけないのだけれど……」
「それは俺もだっ!」
俺は口に放り込まれた唐揚げを咀嚼しながら、そう叫んでいた。
食べながら喋らないでっと、シャウラが冷たい目で訴えてくる。
すいません……。
ミアのあまりの変化。
それが俺どころか、シャウラまでも動揺させるほどの愕然とするものであった。
俺も原因が分からないが、あの鉱石採掘から帰ってきて以降、ミアがめちゃくちゃかまってくるのだ。
朝起きて学園に向かおうと思ったら、一緒に行こうって寮の玄関で待ってるし……
講義が終わったら、俺の席まで毎度来るし……
移動教室があれば、一緒に行こうって誘ってくるし……
研究の時間なんか暇あれば、俺の研究室に遊びに来るし……
ことあるごとに何か手助けすることない?って聞いてくるし……
寮に帰った後のプライベートの時間にまで干渉しようとしに来ないだけ、まだマシなのだが……
今だっていつも通りシャウラと昼飯を屋上で食べようかと思ったら、一緒に食べたいってついて来たし……
あんなに大人しい印象だったのに、マジで何があったんだよ……
あれか?初めて友達ができたもんだから、距離感がバグってんのか?
正直言って面倒くさい。
ウザい。
だが……このミアの満面の笑み。
言えねぇ……。せめてちょっと距離感を咎めるのがやっとか……
「えっとミア、ちょっと近くねぇか?」
「い、いや、そんなことないと思う…よ?」
ミアは俺のことを、上目遣いで見てくる。
前髪の間から水色のクリッとした瞳が、真っ直ぐ俺のことを捉えていた。
陰キャってのは人見知りなんだから、基本的に視線が合わないはずなんだがな……
何でこんなにもばっちり合うんだよ!
なんか物理的に距離もクソ近いし……
胸元のボタン何故か開いてるし……
可愛いっていうか、あざといって言うか、
何なんだろうな、このあざと可愛さは……。
言葉が見つからない。
とにかく目線のやり場に困る…
うん、こう言う時はシャウラだな!シャウラを見よう!
「ベータ君、なぜそんなじっと私のこと見てくるのかしら?……気持ち悪いのだけれど」
うん、この語気の強さ。
凛とした冷たい目線に、目のやり場に困らない絶壁のような胸元。
これほど安心するものはない。
「はぁ……きも。ミアさん、ベータ君が困ってるでしょ?離れなさい」
「え!?こ……困ってなんかない…もん!」
「何故あなたが判断基準になってるのよ。あと仕切りに私のことを睨んでるようだけれど、なんのつもりかしら?何か不満があるなら、態度ではなく言葉にして表しなさい」
「そ、そんなつもりは……」
「なに、あなたベータ君のこと好きなの?」
「へ⁉︎」
「それなら、何の心配もいらないわよ。どうぞ付き合ってくれて構わないわ。私は彼とは友達であって、それ以上でもそれ以下でもない。大体こんなボケっとした奴、私から願い下げだし、それに……」
「ちょ、ちょっと待って下さい!勝手に話を進めないでと言いますか……」
「なに?違うの?」
「え、い、いや、好きっていうか……つ、付き合うだなんて…ベータさんに申し訳ないですよ!魔術師としての格が違いすぎます!だ、だってベータさんは『S』クラス1位の魔術師なんですから!」
「は?」「え?」
奇跡的に俺と、シャウラの言葉が全く同じタイミングで重なった。
シャウラがジロっと俺のことを見てくる。
「何で、あなたが驚いてるのよ?」
「い、いや、あれ?俺、順位なんてミアに言ったか?」
「えっとその……ナハト先生にそう言ってる声が…聞こえたから……す、すいません!盗み聞きみたいになってしまって!そ、その……あまり言わない方がいいの…かな?」
「あ、ああ、そうだな。これからは他言無用で頼む。友達として、約束な」
「う、うん!分かった!」
コイツあの時、意識あったのか……。
てっきりもう意識はないものかと思ってた……。
ついカッコつけて口走っちゃった。
「あなた、私にも他言無用と言っておきながら、簡単に口を滑らせるのね」
「う、うるせぇな。別にいいだろ」
「ええ、文句はないわよ。けれどあまり知ってる人間を増やすのは得策ではないわね」
「分かってるよ」
「あぁ……シャウラさんも知ってたんですね、よかった……。てっきりやらかしたかと……」
「ええ、知っていたわよ。まあ、やらかしであることに変わりはないのだけれど。言っておくと、あなたより何日も前から知ってたわよ」
「むっ……い、いつから知ってたかなんて聞いていません!」
「そう?てっきり気にしてるかと思ったわ。ごめんなさいね」
「むぅ……いつからじゃなくて、知ってることが大事なんです!」
「お前ら、何でいつから知ってるかのマウントで言い争ってるの?」
「言い争ってない!」「言い争ってないわよ」
「お、おう」
もしかして2人ってそんな仲良くないのか?
昔からの知り合いじゃなかったっけ?
ま、いっか。
俺は買ってきた高級弁当を食べることに集中することにした。
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