第22話 月の前のともし火
俺はミアを抱き抱えたまま、地面に着地する。
ヤベェな、かなりの重症だ。左腕はめちゃくちゃに折り曲がってるし、肋骨が折れまくってる。
臓器に刺さってることまで考えると、出血量は尋常じゃない。
意識があることが、既に奇跡みたいなもんだ。
「べー…タ、ごめん私、1人で十分とか…何かあったら守るとか言ったのに…負けちゃった……」
「別にそんなこと気にしてねぇよ。ったく、それより無理しないで頼れって言ったはずだよな。それとも俺じゃ頼りなかったか?」
「いや……違うの…ごめん」
「次からはちゃんと頼ってくれよ。じゃないと傷付く友達を見るのは、俺の方だって辛い」
「……うん」
ミアの顔にほんのりと笑顔が戻る。
はぁ……助けるのが遅かったとも思ったけど、とりあえず生きてて良かった。
せっかく2人目の友達ができたってのに、失ってたまるか。
だけど今すぐ治療しねぇと、危ない状態であることに変わりはない。
そのためには……とりあえずこの男を倒さねぇとな。
俺は遠くで佇んでいるスキンヘッドの男に視線を移す。
彼は俺に魔法が止められたのがあまりにも予想外だったのか、その場で棒立ちしていた。
「き、貴様、な、何をした?私のOrion(オリオン)の一撃を止めた…だと?」
「何をしたって、そりゃ防御魔法で止めただけだろ」
「ざ、戯言だ!Orion(オリオン)の矢を止められる訳がない!殺れ、Orion(オリオン)!」
巨人が動き出し、矢を俺に向けて構える。
そして放たれた矢は轟くような轟音を響かせながら、俺へと直進して来た。
ったく、理解する能力の低いスキンヘッドだな。
確かにお前の魔法はすごい。それは認める。
俺はこんな巨人を生み出すような魔法は使えないし、さっき見せた蹴りなんか圧巻だった。
けどさ、ものたりねぇんだよ、お前の魔法。
全然魔法陣を上手く行かせてない。
その矢の攻撃だって、もっと魔力を緻密に練り上げてもっと威力出せるようにできんだろ。
そのレベルじゃ……
シャウラの魔法の方が、何倍もすごかったぞ。
俺は魔力で盾を作り出し、矢を受け止めた。
魔力がぶつかり、激しい火花が散る。
雷が落ちたかのような稲光が視界を遮り、ドーム状の空間は光に包まれた。
だが……俺の生み出した盾は無傷で矢を弾いていた。
傷くらい付くと思ったが、やっぱこんなもんか。
ただミアをお姫様抱っこしてるから両手が塞がれ、ちょっと魔法が使い辛ぇ……。
けどどっかに置いて、狙われるのも面倒だしな……。
しゃあない、このまま戦おう。
「な、何だと!?その魔法、何なのだ!?ありえん…ありえんのだ……」
「理解が遅いんだよ。スキンヘッドジジイ」
「す、スキンヘッドジジイ!?」
「その目に刻みつけとけ、この巨人が崩壊する瞬間をよっ!」
Orion(オリオン)の矢だっけ?ならまたあのときみたいに、真似するか。
俺は目の前の巨人が使っている魔法と、全く同じ魔法陣を頭上に展開した。
「な!?」
スキンヘッドジジイの驚くような声が聞こえる。
だが、もちろん全く一緒じゃない。
それじゃ面白く無いだろ?
魔法陣に刻まれている図形や、魔法文字を変更。
そして矢の魔法陣をさらに囲むような巨大な魔法陣をさらに展開。
さらにその魔法陣を中心として回る魔法陣を追加。
あとはこの魔法陣を圧縮してコンパクトに……
よし、出来た。
これは目の前の巨人、Orion(オリオン)を倒す魔法。
「あ、ありえぬ……そんなことはありえぬ!」
巨人は、再び矢を構えた。
連射性能だけは、とんでもなく高ぇな。
ただ威力が伴わないなら、何の恐怖にもならない。
再び巨人から矢が放たれる。
ただ俺は防御の盾を生成してたために、その矢は再び防がれる。
矢を放てば、矢を構えるまで隙が生じるのは必然。
そこを……狙いうちだ!
「名付けて、scorpion(スコーピオン)の矢!」
俺の展開していた魔法陣から、一本の矢が放たれる。
それは……一瞬だった。
空間を歪ませ、時空を切り裂き、そして……巨人の喉元を貫通する。
遅れて……バゴぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!と言う信じられないような爆音が響き渡った。
うるさっ……自分で魔法を使っといて言うのも何だがクソうるさい。
同時に砂埃が一瞬にして晴れる突風が、吹き荒れる。
気付けば巨人の姿は雲散霧消していた。
どうやら無事、倒せたらしい。ちょっと物足りないけど……。
残っていたのは……突風に煽られ、尻餅をついているスキンヘッドの男だけだった。体をプルプルと震わせ、大きく口を開けたまま動けなくなっている。
スキンヘッドの強面おじさんだったと言うのに、今や可愛らしい子鹿のようだ。
もしかしたらこれが俗に言うギャップというやつなのかもしれない。可愛くはどうしても見えないけど……。
「おーい、大丈夫か?意識ある?」
「ぁ…ぁ……」
体をプルプルと震わせ、口をまごまごとしたまま動こうともしない。こりゃ腰抜けてるな。
「いや〜俺もここまでやる気はなかったんだけどな……。別にお前がどんな魔法の研究してようが、どんな極悪非道なことしようが、どうだって良い。勝手にやってろ……そんな感じだしな」
「な……何故?そうならば……な…ぜ…邪魔を…した?」
「お前が、俺の友達を傷つけた……からかな。さすがに友達がここまで全力の姿を見て、はい、じゃあ帰ります…とはならねぇだろ」
俺はゆっくりと、ナハト先生の側まで歩み寄った。
そして彼が手に持っていた、天魔石を奪い取る。
「とりあえず、これはもらう。そしてそこの女性も助けさせてもらう。じゃあ俺はこれで。目的は達成したし。じゃあな」
俺は岩に縛られていた女性を解放して、担ぎ上げると洞窟の外へと向かうことにした。
歩きながら抱っこしているミアに回復魔法をかけておく。
あとは帰りの馬車ででも、本格的に魔法を使えば問題ないな。
ただ……
意外にも、後から声がかかった。
振り向くと、ボロボロの姿になったナハト先生がふらついた足で立ちながら俺を見ている。
「お前は……お前は…何者なのだ?てっきり最初はミア君の彼氏として、付き添いに来ただけの低級魔導師だと思っていた。だが……私の最強の魔法をいとも簡単に打ち砕く…そんな魔術師、普通であるに違いない。間違いなく実力は『S』クラス、いやその器にすら収まってすらいない。お前は……何者なのだ?」
「何者って、ベータ・フォルナーキスだけど?」
「ベータ・フォルナーキス?聞いたことのない名前だ。偽名か?これほどの魔術師が、無名の魔術師であるはずがない」
「うっせぇな!何で俺は毎回、偽名を疑われなきゃならねぇんだよ!無名の一族ですいませんでしたねっ!」
「な、何!?冗談かと思ったが……本当なのか?」
「そうだよ!じゃあ、しゃあねぇなぁ。名乗り方を変えてやる!俺こそは無名の魔術師にして、『S』クラス1位の魔術師!ベータ・フォルナーキスだ!その足らねぇ脳に刻みこんどけ!」
「『S』クラス1位!?君がっ…!?いや、ははっ…あれほどの実力ならば、当然か……どうやら私は挑む相手を間違えたらしいな。はっ、ははっ…ははははは……は」
うわぁ、なんかこのオッサンいきなり笑い出したんだけど……
気持ち悪っ、さっさと帰ろ。
俺は笑い出したスキンヘッドのおじさんを置いていったまま、
小走りで帰路に就くのであった。
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