第16話 藪をつついて蛇を出す

入学してから1ヶ月。ついに2人目の友達ができた。

その友達の名前はミア・アスピディ。

アスピディ家と言うのは、これまた名門らしくシャウラの一族であるムリフェン家とも交流のある魔術師の家系らしい。


今朝シャウラに聞いたところ、小さいときから何度かパーティーなどで会ったことのある関係なんだとか。

思い出してみれば、シャウラと初めて会った時『S』クラスの20位が誰であるか知っていると言っていた。それがミアだったことを考慮すると、学園に来てからも会話するぐらいの仲ではあるらしい。


そんな交流の広いミアと共に、俺は馬車に乗って鉱物を取りに向かっていた。時刻は既に昼過ぎ。

午後からの研究時間を使っての遠出である。


「そ、その、この度は手伝ってくれて……本当にありがとうございます!」


「いやいや、もう俺たち友達じゃねぇか。友達ってのは困ってたら助け合うもんだろ?なら手助けするのは当たり前だよ」


「べ、ベータさん……。私、本当にベータさんに頼んで良かった。今まで友達何てできたことなくて……友達になったらイイだなんて私、何の損もしてないですよ!……っ…ベータさん……本当に…ありがとうございます!」


あれ、コイツちょっと泣いてないか?

こんなんで泣けるって、どんだけ人の優しさに触れてこなかったんだよ。それとも友達出来て嬉しいとかか?

確かに学校に通ってた時、友達出来てたら俺でも泣いてるな。

陰キャは優しさに弱いのよ!


「もう友達なんだから、敬語使うのも止めようぜ!俺のこともベータさん、じゃなくてベータでいいよ」


「え!?えぇぇ、いやいや、私20位ですし……全然ベータさんの方が準位高いわけで……偉い訳で……」


「偉いとか関係ないだろ。友達ってのはさ、地位とか関係なく対等だろ?」


「べ、ベータさん!じゃ、じゃあ……え、えっと、ベータ……よろしくね、えへへ」


は!?

何だこの天使のような優しい笑みは……。

シャウラの氷のように冷たい表情とは、似ても似つかないな。

百戦錬磨の陰キャである俺じゃなきゃ、一発で惚れてる自信がある。


「もしかして、ミアってめっちゃモテる?」


「え!?いやいやそ、そんなことない……よ。人と話すの苦手だし……こうして話せてることと不思議って言うか、私語で話すのは家族以外、ベータが初めて…かな」


「そっか」


「ベータはモテる……でしょ?こんな私と友達になってくれたし、シャウラさんとも仲良いし……。鉱石採取だって言っちゃえばなんの利益もなく、受けてくれて……さ。優しいから」


「はぁ……ミア、1つ教えてやろう」


「え!?何?」


「優しくても、イケメンじゃなかったらモテないんだぞ」


俺、魂の叫び。

優しくてモテてたら、この世界大半の陰キャはモテてる。

結局は顔。ソースは俺。

優しくてイケメン。これはモテる。

優しくなくてイケメン。これもモテる。

だが優しくてブサイク。これはモテないのだ!

これぞ世界の真理。


「そ、そんなこと私はないと思うんだけどなぁ」


「残念ながらそうなんだよ。俺がモテたら、世界がおわる」


「そ、そんなに!?じゃ、じゃあ……その、ベータに彼女とかいないの?」


「今はいない」


未来にできる希望を添えて、『今』という言葉を強調して答える。過去に居たかのように聞こえるが、もちろん出来たことなどない。悲しくて、涙出そう。


「そ、そうなんだ。えへへ……そうなんだ」


何故かミアは……はにかんだような笑みを浮かべていた。





馬車に乗って1時間ちょっと。ついに目的地に到着した。

目の前に真っ暗な洞窟。どうやらここで鉱石採取するらしい。


「こ、これ、ランタン。洞窟の中……暗いから」


「お、ありがとう」


流石鉱石魔術に精通してるだけはある。

洞窟探索の準備はバッチリって感じか。手馴れてるって感じだし、絶対俺いらないよな。


「そう言えばどんな鉱石を探してるのか聞いてなかったんだけど……どんなの」


「そ、そうだった。えっと、天魔石って言ってね。薄い藍色の鉱石」


天魔石?知らん。


「もし、見逃してたら教えてね」


「おう!」


適当に返事しておいた。


ミアを先頭に洞窟の中へと足を踏み入れる。

入口付近は明るいものの、やはり中に入れば真っ暗。目の前のミアを捉えるのがやっとなくらい。


「ミアはこの洞窟に来たことあるの?」


「いや、ない…よ。けど天魔石が採掘できる洞窟として有名なの。危険な魔物も少ないし、迷子になるなんてことも無いと思うんだけど……」


「そっか。なら安心だ」


「うん。それに何かあったら、その……私が守るから」


少女の瞳には決意のような、熱い意気込みを感じた。

私が守るから……ってあの有名なセリフかよ。

カッコよすぎんだろ。


それから二人は、洞窟の中を歩き続けた。

洞窟の中は度々分かれ道があるものの、ミアは迷うこと無く進んでいく。俺はただただ彼女の後を追った。


視界はランタンでどうにか保ててるものの悪く、つまずくこともしばしば。なのにミアは一切つまずかない。


何でだよ。

これが経験の差なのかよ。


ただミアはつまずく度、俺のことを心配してくれた。後ろに目があるのかと思うほどだ。

怖ぇよ。


歩いてる最中は存在確認の意味も込めて、常に会話を心がける。おかげでミアのことも、ちょっとずつ分かるようになってきた。


「鉱石魔術って面白いの?」


「う、うん。とっても!もしかしてベータも興味ある……の?」


「まぁ……そうだな。鉱石魔術って分野には一切触れたことがないからな。気になりはする」


「ほ、本当!?鉱石魔術ってね、専門としてる魔術師は少ないんだけど、とっても奥が深いの!例えばね……あ、これ!」


唐突にミアはしゃがんで、壁脇にある小さな石を指さす。

赤褐色に彩られた石。微々たるものではあるものの、その石からは魔力を感じた。


「これは魔導石P16.7赤型って言うんだけど、闇属性と火属性の魔力が1:2.5の割合で混ざってできる魔石なの!」


「お、おう」


「ここに魔法陣を組み合わせるだけでね、黒みがかった炎を作り出すことができてね!この魔石を利用することで、ランタンとか照明のインテリアに利用できるのはもちろんのこと、魔弾とかにできて……それでね、流す魔力量を変えることで他の魔石に変化させたりできる特徴も持ってて、例えば……」


分かった…コイツ魔導石オタクだ……。

めっちゃ早口。

何だよP16.7って、サイズ?種類名?割合も細かいし、言ってることが全然頭に入って来ねぇ……。


ただミアの顔はそれまで以上に笑顔が眩しく、とても楽しそうに見える。この笑顔を壊してはならない!

内容は一切頭に入ってこなかったが、俺は笑みを浮かべながら相槌と、それなりの返答をすることを心がけた。


「すっごい、すっごい楽しい!こんなに鉱石採掘が楽しいの初めて!」


「そっか」


「あの……ベータも、その……楽しい?」


「ああ、楽しいよ」


嘘である。

意味のわからない話に、相槌を打つしんどさつったらそりゃすごい疲労感。既に疲れたんだけど。

オタクに気を使う優しい女子の苦労を今になって、深く理解出来た気がする。


「良かった!私だけ楽しんでたら、どうかと思って……。鉱石魔術について、こんな話聞いてくれる人初めてで……私、嬉しくて……」


「え!?おいおい、泣くなよ。まだ天魔石見つけてないだろ?」


「……う、うん。んぐっ……そうだよね。えへへ、ごめんね。もうすぐ天魔石がある場所に着くと思うから」


ミアは再び、泣きそうになっていた。

コイツめっちゃ泣き虫だな。怖いからとか、嫌だからとかじゃなくて、感極まって泣くタイプ。

卒業式とか、周りが引くぐらい号泣してるタイプだ。


何か学園に入ってからシャウラと言いアイと言い、友達の涙ばっか見てんだけど。


ただその時……にこやかだった状況が一変する。

洞窟の奥から微かに音が聞こえたのだ。


「……す…て!」


それは普段であれば、気にならない程の雑音。

ただ洞窟の中で反響しているのか…その音、いや声は確かに聞こえた。声色からして、女性の声だろうか?

その声は小さかったけれど……その迫力は明確なものを感じた


「ベータ!」


「ああ、走るか」


聞こえた声。

それは『助けて!』……と

そう助けを求める声に聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る