第15話 得手に帆を揚げる
『わ、私と一緒に鉱石を取りに行きませんか?』
少女の謎の誘いは俺を困惑させるには十分な内容だった。
つかあの話の流れで、了承できるやつおる?
意味分からないのだろ。辻褄があってるとも思えないし。
「す、すいません!そ、そのやっぱり厳しいですか?」
ただ少女は不安そうな面持ちで、俺の顔を見上げてくる。
その表情は何とも庇護欲をそそられると言うか、可愛さを言わずもがな感じてしまうと言うか……
なんてな。
面倒なこと、わざわざ受ける俺だと思うなよ。
「いや厳しい以前に、勝手に1人で行けよ。俺を誘う意味あるのか?」
「そ、そうですよね。その……私もそのつもりだったのですが、学園に掛け合ったところ一人で行くのは安全などの面から承諾しかねると、言われまして……」
「えぇ……どういうことだよ、カペラ」
「それ僕に聞く?」
「だって学園の仕組み分かってんの、顧問であり教員であるカペラくらいっだろ?」
「言っとくけど僕は顧問であるものの、教員では無いからね。授業受け持ってるわけじゃないし」
「え!?そうなの!?た、確かに言われてみれば…なんでコイツずっと俺の研究室にいるんだ……仕事してないのか?とは思ってたけど」
「仕事していないは余計だぜ!僕は立派な顧問と言う仕事をしてるじゃないか!ま、その、だからつまり、僕はこの学園の仕組みについて深く理解してるわけでは無いんだ」
「うわ、使えな」
「君、本当に一々失礼な奴だね。ただ過去にこの学園の生徒だった頃の記憶を振り返るなら……確か生徒は許可なく学園の敷地外に出ることは禁止されてるよね?」
「ああ、そうだな」
「さらにそれが敷地外の王都では無く、さらに遠い王都外となれば許可が簡単には降りないのは当然さ。だが今回は論文完成のために、特別措置として1人での外出は認めなくても、2人以上での外出なら認めると……そういうことだよね?ミア君?」
「は、はい!そういうことです……」
カペラの質問に、ミアは小さく頷いた。
ふーん、なるほど。突発的な話だったものの、やっと真相が見えてきた。
「外出を認めてくれてるだけ、学園側もかなり譲歩してくれてると考えた方がいいぜ」
「けどなんで1人じゃダメ何だよ?『S』クラス魔術師なら、実力は分かってるんだし危険じゃないことくらい学園側も理解してるだろ?」
「そ、それは……私が原因だと思います」
ミアは少し気まずそうに俯きながら、確かにそう口にした。
原因?どういうこと?
俺とカペラの視線が、目の前の少女に注目する。
「わ、私はその……『S』クラスではあるものの、20位なんです!だ、だから『S』クラスの中では最底辺な訳で……その、つまり信頼されていないのかと」
は?
「え、それ関係ある?」
「え!?ええ、関係ないですか?」
「ないだろ。え、だって20位だろうと『S』クラスに所属してるってのは、伊達な称号ではないと思うんだが。違う?」
「ははは、ベータ君の言う通りだぜ!単純に学園側は、君を気にしてるだけだと思うよ」
「そ、そうですか?」
「うん。だって学園外で何かトラブルがあったら、それは何があろうと外出許可を出した学園側の責任が問われるだろ?だからもしものために最低二人行動を課してるだけだと思うぜ。1人と2人じゃ話が違うからね」
「な、なるほど。はぁ……なら、良かった。もしかしたら私だから、1人での外出許可出てないのかと思って……。ちょっと安心しました」
ミアにほんのりと笑顔が戻ってくる。
良かった。緊張は解けたらしい。
ただそれとコレとは話が違う。
「あ〜、えっと、俺と行きたい理由は分かった。けどそれ俺じゃなきゃダメなの?もう一人いればいんだろ?ならさもっと親しい人の方がいいと思うよ。だってほら、俺ら初対面じゃん。鉱石取りに行くってことはそれなりの場所に行くってことだし、信頼できる人とが、お前もいいだろ?」
「そ、それはその通りなのですが……わ、私はベータさんのこと、既に信頼してますよ!」
「え?あ、うん。えっと……ありがとう」
そんな可愛らしい笑みで、信頼してるとか言われたらときめいちゃうじゃん!卑怯じゃん!
惑わされるな〜、俺!
「その……最初はシャウラさんを頼ろうと考えたんですけど、論文が忙しく暇が取れないようでして……そしたらシャウラさんが、私の信頼してる友達紹介するからって言ってくれまして……それでここに来た次第なんです」
信頼してる友達……?
アイツ俺のことそんな風に思ってくれてたのか。
ちょっと、嬉しい。
確かに論文は今日中に終わるだろうし、俺には暇が生まれるので手助けはできる。シャウラより手伝い易いのは確かだろう。
「その……シャウラさんが、あんなにも自信の篭った目でベータさんのこと紹介してくれたので……だからベータさんはすっごい良い人だと思うんです!だから信頼できます!」
「めちゃくちゃな理由だな。いや、けど……そうだ。先ず頼るとしたら顧問じゃないのか、普通?」
「うっ……た、確かにそれはそうなんですけど……そ、その、私の顧問、初日以外一切研究室に顔を出してくれなくてですね……。頼ろうとにも頼れないというか……」
「え!?マジかよ」
「はい、マジです」
「えぇ……カペラ、それって許されるの?」
俺はバっと横を向き、カペラの顔を見る。
「……うーん、許されるとは言えないかな。顧問は、生徒の監督が務めだからね。職務放棄に等しいことと言えるね。君の顧問の名前、教えてくれるかい?」
「サリル・バナト先生……です」
「あーなるほど」
「知ってるのか?」
「そりゃね。サリル君はね、昔から『アインヌ』になる魔術師だって言われてたんだよ。けどなんて言うか時期が悪かったって言うか……上手く出世できなくてね、未だに『ドライ』で燻ってる」
「……ドライ?」
「はぁ……君の無知ぶりには僕もため息がつくぜ」
いや知らないんだから、しょうがねぇだろ
「ど、ドライってのは魔術師の称号のことです!」
「そうなの?」
「魔術師の階級は基本的に上から、『アインヌ』『ツバイ』『ドライ』『フィーア』『フュンフ』……ってありましてですね、つまり『ドライ』は上から3番目の称号と言う訳です」
「そうそう、このバカに説明ありがとうだぜ」
「馬鹿だとぉ!?」
「まあまあ落ち着きたまえ。アイ君が言ってくれた通り、サリル君は『アインヌ』になれる魔術師と言われながら、まだ『ツバイ』にすらなれてないのさ。そして近日『ツバイ』になるための論文発表会が行われる。だからサリル君は、そっちに集中してて顔を出せていないんじゃないかな」
「そんな事情が……」
「けどそうだとしても職務怠慢であることは変わりなくね?」
「あはは、その通り。顧問として賞賛されるべき行動じゃないぜ。けどそれが理由で論文出せませんでしたとは行かない。それほどココは甘くないぜ」
アイには頼るべき顧問がおらず、シャウラに頼ろうとした結果ココに来た。さらに多分、コイツは陰キャ。
頼れるような友達が居ないのだろう。
なら……うーん、俺が手助けしないと『S』クラス降格って感じかぁ。俺のせいで……とか後々言われたら後味悪いからなぁ。
しょうがない。このメカクレ少女の頼み、受けるかぁ。
シャウラから託されたみたいなのもあるわけだしなぁ。
友達から託されたお願い、聞き届けるのも友達の役目……だよな。
「……分かった。アイ、その頼み受けるよ」
「ほ、ホントですか!?」
「ああ。ただし1つ条件がある。それを飲んでくれるなら一緒に鉱石探索に行ってもいい」
「ぐ……そ、その条件…とは?」
しかーし
ノーリターンで、お願いを聞くほど俺は聖人ではない。
どうせなのだから、俺の目的に利用しない手はないだろう。
「それはな……」
俺はゆっくりと頭を下げた。
「俺と友達になってください!」
「へ?」
「何言ってるんだい、君?」
その瞬間、謎の沈黙は数十秒……
この空間を支配することとなった……。
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