第14話 情けは人の為ならず

「あんたたち、何やってるのよ?そしてあなたにパンツを見せてたそこの変態は誰かしら?見た感じ……妹?」


シャウラはカペラがパンツを露わにしていても、一切同様なくそこに立っていた。つか何で勝手に俺の研究室入って来てんだ、コイツ……。


「僕を変態扱いするな!見せてたのでは無く、見せさせられていたのさ!」


「あら、そうなの。ベータ君、友達としてこう言うのは良くないと忠告しておくわよ。例え家族であってもね」


「違うわ!これだよ、これ!この実験!ほら」


俺は書きかけの論文を押し付けるように、シャウラに渡した。シャウラは興味無さそうに受け取り適当に目を通したかと思いきや、魔法陣について書かれた項目に注目する。


「あら、面白そうな魔法陣ね。スカートをめくるための魔法陣かと思うと、嫌気がさすけれど。気持ち悪い」


「そ、そこまでストレートに言われると、さすがの俺も傷つくんだが」


「あら、ごめんなさい。悪気はあるのよ」


「あるんかい!」


「それで、そこの彼女は本当に妹で合ってるの?冗談で言ったつもりだったのだけれど」


「お前の冗談、分かりづらいんけど。この方は俺の顧問だよ。カペラって名前、聞いたことあるか?」


「カペラ……!?もしかして、あなたが?」


「そうだぜ!僕がカペラさ」


「も、申し訳ございません。飛んだご無礼を……」


シャウラは高く止まった様子から、一変カペラに対して頭を下げていた。シャウラに頭を下げさせるとは、やっぱりカペラって偉いんだな。


「いや、大丈夫だぜ。かぁー久しぶりにこの学園に来て、正当な対応をされた気分だよ。ベータ君もこの姿を見習うべきだね」


「えい」


「ひゃう!都合が悪くなったら、すぐスカートをめくるのはやめろ!」


「ベータ君、あなたは魔術協会の仕組みに疎すぎるようね。カペラさんってこの魔術協会でも三本の指に入るレベルで偉い魔術師なのよ。そのような無礼な行為は慎むべきだわ」


「うわ、やっぱりそうなの?」


「そうよ。ただ……ぷっ、いえ、なんでもないわ」


「あ!君、僕のパンツを見て笑っただろ!そうだろ!」


「いえいえ、そんなことないわ、いえ…ないです。それよりベータ君、あなたに頼みがあるのよ」


「頼み?」


「そう。入ってきなさい!」


シャウラは唐突にドアの方に振り返ると、そう大声を出した。

するとゆっくりとドアノブが回り、ドアが開く。

そこには……1人の少女が立っていた。


誰?

けど見覚えあるな……。そうだ!

『S』クラスにいたヤツだ!


ピンク色の髪が肩辺りまで伸びており、少々体格が小柄の少女。制服の上にはカーディガンのような羽織ものを着ており、萌え袖のようにしている。

ただ何よりも特徴的なのが、鼻辺りまで伸びきった前髪。

言わゆるメカクレってやつ。髪の間から水色の瞳が、チラリと見えた。


「し、失礼します」


少女は緊張気味の震えた声でそう言うと、覚束無い足取りで俺らの傍まで歩いてきた。

俺には分かる。コイツは陽キャじゃない!

陰キャだ!


「それで、この方は誰?」


「そうね、強いて言えば私のクラスメイトよ」


「んなこと、俺も分かってるよ!お前の友達か?」


「いいえ。ただ……彼女の一族とは何かと、縁があるのよ。あなたへのお願いは、この子のお願いを聞いてあげてってこと。きっと私より、ベータ君の方が役にたてるわ。それじゃ」


「ちょ、お、おい!」


そう声をかけるも、シャウラは外に出ていってしまった。

アイツ……どんだけ自由な奴なんだよ。

それとも丸投げするくらい俺のこと友達として信頼してるってことか!?ふっ、悪くない。


じゃなくて……気まず!

勝手に連れてきた人、置いてくなよ!


これはあれだ。

友達の友達が数名いる空間に、唐突に友達が帰って取り残される……みたいな、そんなやつだ。

気まずい。気まずすぎる。気まずすぎる空間の極みだ。


ここは俺から、話しかけるべきだろう。

知らない人に話しかけるのは俺も苦手だが、いきなり知らない空間に飛び込んだこの少女の方が気まずいに違いない。


そしてこの子は間違いなく陰キャ!

俺から話しかけないと、共倒れで死ぬ!


「えっと、と、とりあえずどうぞ。座って下さい」


「あ、ありがとうございます」


「紅茶あるぜ。飲むかい?」


「あ、い、いえ、そこまでして頂かなくても……」


「いやいや気にすることないぜ。な、ベータ君」


「あぁ、ここは俺の研究室だからな。客人を持て成すのは当然のことだ」


「す、すいません。ありがとうございます」


少女を椅子に座らせて、机を用意。

素早くカップを並べ、紅茶を注ぐ。

これぞ神対応。


ちなみに紅茶は、カペラがあまりにも欲しいと駄々をこねるので、研究費で買ったものである。一級品のブランドで、とんでもない金額のする紅茶。アイツ俺の研究費何だと思ってんだ……。確かにまだ余るほど残ってるけど……。


俺は少女の向かい側に椅子を持ってきて、座ることにした。

カペラも椅子を持ってきて俺のそばに座る。


「それで…えっと、お願いってのは?つか誰?」


「あ、す、すいません!私ミア・アスピディって言います」


「アスピディ!?」


「え、先生知ってるの?」


「もちろん。名家中の名家だよ。何でもアスピディ家の当主って言えば、鉱石魔術の巨匠として有名さ。知らないのかい?」


「知らないですよ。と言うか先生のこと知らなかったのに、知ってるって思いますか、普通」


「た、確かに……」


やっぱ『S』クラスって有名人しかいないんだな。

名家だとか名家だとか名家だとか、それしか聞かん!

分かってない俺が悪いみたいなの、辞めて欲しい。

こちとら農家なんだぞ!

知るわけないだろ!


「あの……すいません。あなたの名前は……?確かあなたも同じ『S』クラスでした…よね?」


「そうそう。俺の名前はベータ・フォルナーキス。よろしく」


「よ、よろしくお願いします!」


「それで僕がカペラって…流石に知ってるか」


「は、はい!まさかこの学園に来ていただなんて知りませんでした」


「あはは〜、そうだよね。僕も顧問をするだなんて、思ってなかったよ。ま、僕はいないものだと思って、ほら話進めて進めて!」


「わ、分かりました。」


ミアと名乗る少女は小さく頷くと、俺のことを真っ直ぐ見てきた。水色の瞳がキラリと光る。

謎の緊張感。覚悟のような覇気を彼女から感じた。


「その……お願いと言うのはですね。私、先ほどちらりと話題にも上がりましたが、鉱石魔術を専門としてまして……1週間後に迫る論文でもその鉱石魔術について、書こうかと思ってまして……」


「ほうほう」


「それで……ある鉱石を取り寄せるように頼んでいたんですね。ですが配送のトラブルか何かで突如、届かなくなりまして……。このままでは論文が書けなくて……私どうしたらいいか分からなくて……」


ミアの声はみるみると小さくなっていく。

よく見れば彼女の綺麗な瞳に、うっすらと涙が溜まっているのが見えた。


ただそんな少女のか細い声で紡がれた言葉は、全くもって予想外の文言であった。


「なので、ベータさん!わ、私と一緒に鉱石を取りに行きませんか?」


「は?」


俺は少女が何を言ってるのか分からず、気付けばそう一言口に出していた。

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