第13話 大賢は愚なるが如し

青春魔法とは、青春により彩りを与えるような魔法。

漫画やアニメの青春は実際にはありえない。しかしそれっぽい状況や環境を作り出すことは可能である。

そのそれっぽい環境を作り出し、青春をより豊かに、刺激的なものにするための魔法。

それが……それこそが……青春魔法である!

そう俺が定義した!定義することにした!





月日は恐ろしいほどに早く過ぎ、既に1ヶ月が経とうとしていた。見慣れない校舎も、豪華な寮生活も、いつの間に気付かぬうちに順応し、慣れてくる。全く会話のない教室も、今や心の拠り所ってくらい当たり前になりつつあった。


だだ……残念ながら友達は未だにシャウラ1人。

おかしい。おかしいだろ。


だって教室誰も喋らないし!昼飯、シャウラと二人で食べるだけだし!研究1人でした後、寮に帰るだけだし!寮広すぎて人に会わないし!会っても話さないし!


ってことで陰キャライフを満喫している。

ヤバい……これじゃ昔と変わらない。ま、いじめられていない上に、友達1人いるのはかなりの進歩ではある。

シャウラとも結構仲良くなれた気がするし。


昨日なんか


「お前さ、トイレしてるとき水かけられたことある?」


「何故そんな質問が飛んできたのか、理解に苦しむのだけれど」


「いや、お前高飛車だし、他人から嫌われそうだろ?」


「酷い偏見ね。否定はしないけれど」


「やっぱり。じゃあよ、靴に画鋲入れられたり、物無くなったろしたことないのか?」


「そうね……高等学校に通っているときなのだけれど、知らない男子に放課後呼び出されたことならあったわね」


「ええ!?」


「決闘でも申し込まれると思って、面倒だから帰ったわ」


「いやいやいや、それ男子泣いてるよ!号泣だよ!?」


「なんでよ?」


「何でって、そりゃ告白だろ!」


「告白?何の?」


「はぁ?愛の告白だろ?付き合って下さいってやつだよ!」


「いや、違うわね。先ず身分は私の方上だったし、何かと肩をぶつけて来たり、背中を唐突に押してきたりって迷惑な奴だったわ。何度ぶん殴ろうと思ったか……。こんなこと私のこと嫌いじゃないとしないでしょ?」


「それは愛の裏返しって言うか、子供心ってやつだろ!好きな人に何かとちょっかいを出したくなるって言うさ、そう言うやつ!」


「何よ、それ。気持ち悪い。好きなら好かれるような行動をしなさい。好きなのに嫌われるような行動をするなんて、合理的じゃないわよ。ホント気色悪いわね。行かなくて正解だったわ」


「あぁ…男子不憫すぎる……」


って言うなんの実りもない会話をした。

こんなくだらない会話が出来るくらいには、仲が深まったと考えてもいいはずだろう。


しっかしアイツ、ちゃっかりモテるんだな。

確かにルックス良し、スタイル良しと、性格以外に文句のつけ所がないからな。性格以外に……な!

なのに告白されるとか……くそっ!許せねぇ!

羨ましい!

俺も告白イベントを通過できるような、青春を送りたい!


希望と現実の狭間に悶々としながら、俺は研究室の扉を開ける。

1ヶ月も経つと、あれほど異界のように感じられた研究室にも愛着がつくもので、今や第二のマイホームと言えるほど心安らぐ空間となった。


これが慣れ…らしい。慣れってすごい!

そしてその慣れの対象は、部屋に対してだけでなくそこにいる少女まで侵食してしまった。


「あーやっと来た!遅いぜ!1週間後に、論文提出日だぜ?大丈夫なのかい!?」


「大丈夫ですよ。今日には終わります。そんなにカッカしなくてもいいじゃないですか」


「頭を撫でるなぁ!僕を子供扱いするなぁ!僕は君より何倍も生きてるんだぞ!」


「はいはい」


「よしよしするなぁ!」


俺はカペラの頭を一頻り撫でた後、座り慣れた椅子に腰を降ろす。最初は超偉い人なんだなぁとか、優秀な魔術師なんだなぁとか色々とカペラに対して感じてたことは多くあったが、今や親戚の子供くらいにしか見えていない。

協会長って言ってたの嘘なんじゃね?くらい思ってる。


引き出しからペンを取り出し、机の上に散らばっている書きかけの論文に文字をすらすらと連ねる。

あんなにも綺麗で閑散としてた部屋は、今や論文紙と魔術書に埋め尽くされ、足の踏み場もないほどに散らかっていた。


だってさ!この学園、魔術書いっぱいあんだぜ!

さらに莫大な資金で、学園にない魔導書も買い放題!

そりゃ買うよね。今まで3冊しか読めなかったのに、今はいくらでも読めるんだぜ?この環境を、利用しない手はない。


「にしても……最初は『青春魔法』だなんて意味の分からないふざけたことを言い出したのかと思ったけど、かなり形になってきたんじゃないかい?」


「ふざけたことって……俺は最初から真面目だ。ほら見てくださいよ、この魔法陣……その名も『エッチな風』魔法を!」


『エッチな風』魔法はその名の通り、『エッチな風』を起こすための魔法。俺が定義した青春魔法に加えられた、初めての魔法である。


では『エッチな風』とは何なのか?

それは強風でも人を傷つけるような風ではなく、まるで隙間風のように優しく、それでいてスカートをめくる……そんな風のこと。相手がスカートの下にどんな秘密を隠しているのか、それを犯罪にもせず、自然に全責任を押し付け、羞恥心を煽らせながら解き明かすことが出来る……


とっても素晴らしい風魔法なのだ!こんな風が不意に吹けば、青春がさらに濃く彩られること間違いなし!


「目的が不純極まりないけど、確かに興味深い魔法陣だぜ……。ワザと上手に魔法陣が噛み合わないようにすることで、威力を落とし調節するだなんて今までにない発想さ」


『エッチな風』は人を精神的に傷つけても、決して物理的に傷つけてはならない。だからこそ威力を最大限まで落としつつ、最高効率でスカートをめくる、そんな魔法でなければならない。つまり魔法の威力調節が必要不可欠!


だからこそ、そのための機構を魔法陣に取り入れることで、誰でも使いやすく、そして自然な風に見せかけることを可能にした。


「俺からしてみれば、魔術師全員、威力をいかに上げるかに囚われすぎっすね」


「あはは、耳の痛い話だぜ。この魔法陣は制御魔法と言う分野に置いて研究に新たな一石を投じるような、そんな革新的な魔法だと言えるよ」


「これで正当に、評価されること間違いなし。じゃあもう論文書き終わるんで、最後に実際に使った所感でも書いときます。えいっ」


俺は新しく作り出した風魔法を、早速使ってみることにした。

目の前の無防備な少女に……


「ひゃう!」


少女のスカートがふわりと翻り、いちごの柄が描かれたパンツが顕となる。


「ふぎゃあああああ!!!君!なんてことをするんだ!」


「先生見た目通り、幼いパンツ履いてるんですね」


「う、ううううううるさいぜ!あ、あれだぜ!今日はたまたまってだけで!いつもはもっと大人っぽいパンツなんだぜ!」


「はいはい」


「はいはいじゃないぜ!と言うか僕に使うな!犯人分かってたらそれ正当なセクハラだぜ!君、捕まるぜ!」


「そんなぁ……先生すいません」


「え!?そ、そんなまともに謝られるとは思ってなかったぜ……。しょうがない、実際に研究の協力してしまった僕に責任が無いわけではないし、今回は不問に……」


「えいっ!」


「ひゃうっ!ああああああああぁぁぁ許さん!」


これクソ面白いな。

高度な魔法陣にしては、消費する魔力も少ないし効率がいい。

我ながら素晴らしい魔法だ。


「あははははは」


「笑いものじゃないぜ!騎士団に、変態がいるって訴えて来る!」


「まあまあ落ち着いてください。魔法の研究において、使われた側の意見も知らなければならないじゃないですか。これは言わば、研究の一環です。カペラ先生が監督役として研究に協力してくれるって言ってくれたから、してるんですよ」


「むぅううううう、確かに協力するって言ってしまった記憶があるぜ。しかし実験体としてという意味では……くっ」


「先生なのに生徒の研究に協力してくれないんですか?」


「ぐうううううう、はぁ……しょうがない。じゃあもういいぜ!好きなだけ僕のスカートをめくるといいさ!」


「お、さすがカペラ先生!『アインヌ』の魔術師なだけありますね!では遠慮なく、えい!」


「本当に躊躇ないね、君。そのネジが1本飛んでるとこ、魔術師って感じがするぜ……。ただこれが他人に見られたらと思うと……」


「ちょっと、失礼するわよ」


「ぎゃあああああああああああああぁぁぁ」


何故かシャウラが入ってきたを見て、カペラは今日一の絶叫をした。

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