第9話 能ある鷹は爪を隠す
窓からこぼれる明かりに気付き、朝になっていたことに気付いた。どうやら俺は一睡も出来なかったらしい。ただ不思議と眠くはない。ゆっくりと起き上がり、グッと背伸びをする。そして……深いため息をついた。
ふと昨日のことを思い出す。決闘に勝利、それは良かった。
けどその後に告げられた言葉。どうやら俺は『S』クラス1位の魔術師だったらしい。
俺が1位、今でも信じられない。
けど学生書を確認したら、確かに1位であった。
そう……疑う余地のない事実であった。
色々と原因について、夜通しベットに横になりながら悶々と考えてみた。おかげで寝れなかったものの、思考は整理され纏まっている。
俺の出した結論をお話しよう。
多分だがこれは、間違いなく俺が転生者であることに起因している。なろう系と言って、多くの物語の転生者は何かしらチートの能力であったり、突飛な個性であったりを持っているものである。そして俺はまさにそのなろう系主人公のように、魔法の才能をずば抜けて持っていた。そういうことなのだろう。
もちろん俺だって転生したときは、もしや……とか思った。
けど現実的に有り得ないってすぐに思ったし、特に才能が求められる場面も無かった。俺の出身であるフィオーレ村は都会から離れた田舎だし、特殊な結界が張られているおかげで魔物も出没しない。住んでるのはほとんど年寄りでガラの悪い連中はいなかったし、賊がわざわざ入ってくるような地理では無い。
この世界では珍しく、俺の村はめちゃくちゃ平和なのだ。
だから畑耕して、水あげて、収穫して、暇が出来れば友達と遊んで……俺はその生活が充実してたし、楽しいと思ってた。魔法の勉強をしようと奮起するまで、特に俺は目新しいことをしようと思わないくらい。
だから才能に気づいていなかった。
魔法の勉強中だってそう。
魔法の勉強してるのは俺だけだったし、比べる対象がいなかった。だからこそ、自分自身の実力を理解出来ていなかった。
魔法の勉強ってのは難しくて、分からないことばかり。何とか村にかろうじてあった魔術本三冊全巻を完全に読み込んで、落とし込みはしたが、その三冊で数年かかったのだ。
それで俺に才能があるとか気づけるわけなくね?
あと三冊しか読んでない時点で、普通に勉強不足だと普通思うだろ。魔術師って何代にも渡って、研究し続けるんだぞ。
大体俺が魔術学園の試験を受けたのは、自分の実力を測るため。
そういう意味で言えば、やっと自分の実力が分かったため目的を果たしたとも言える。
うーんまさか、俺にそんな才能があったとは。
嬉しいってよりかは、驚きで未だに実感が無いって感じだな。
まあ才能があるってんなら、これからも『S』クラスにいれる確率が高いってことだし良いことではあるよな。
この超豪華な生活が、これから四年も過ごせる可能性があるのだ。
さらにこの帝国立魔術学園を卒業出来れば、エリート街道まっしぐら。
夢は広がるな。
けど……なんつうか、申し訳ないんだよな。
だって俺数年しか努力してないんだぜ?つまり才能だけでのし上がってきた連中ってことになる。
それに比べ魔術師たちは幼少の頃から、朝から晩までひたすら魔法と向き合ってきてるのだ。俺なんかとは比べ物にならないほど、努力を積み重ねてきている。
そんな努力の天才達を差し置いて、俺が1位って……そりゃ申し訳ないだろ。
「あーあ勉強してなかったけど、100点取っちまったわ」とか言って、東大行ったクラスの山田君と同じってことだぞ。あいつめっちゃ嫌われてたなぁ……。
俺はアレにはなりたくねぇ。さらに並々ならぬ努力をしている魔術師たちからしてみれば、その妬み嫉みは計り知れない。
無駄な問題を抱えないためにも、1位であることはできるだけバレないよう慎ましく生きていこう。実家が農家であることも伏せるべきだ。
俺の目標は『S』クラスだろうが、1位だろうが関係なく、あくまでも青春を取り戻すこと。
そのために先ずは友達を10人作る!
そのための障害は少ない方が良いに決まってる!
にしても昨日、ヨイ先生と話してるとき、『実力だってまだまだ』とか言っちゃたよ……。マジで言われた通り、飛んだ皮肉だよな……。何か俺やっちゃいました?と同じこと言ってるって!
魔術師たちが必死に努力しても到達できない高みに、俺はいんだから。なのに実力はまだまだ……とか、ウザすぎる。
ヨイ先生もさすがに、イラッと来てたかもしれん。
あ~昨日をやり直してぇ。マジでやっちまった。
恥ずかしいし、申し訳ない。
俺だったらぶん殴ってるぞ。
あ~もう、本当に、もう……
はぁ……これからはこんなことはしないようにしなきゃダメだ。
ったく、顔洗ってこよ。
キングサイズのベットから降り、洗面所で顔を洗う。
冷水で洗ったことで、頭がスッキリした気がした。それと共に覚悟も決まった。俺は……今から変わる!
近くのタオルを手に取り、顔についた水滴を拭く
うおぉ、タオルがふかふか。神か。洗面所もでけぇし、改めて見渡せばリビングはやっぱり広い。
一日経ったものの、未だにこんな豪華な部屋が俺の部屋とは思えない。
慣れねぇ……。
けど今になっては、俺が最上階の角部屋であることも理解できる。
俺が『S』クラス1位だからってことだろ?こういう快適さは、『S』クラス1位であって良かったと思える、唯一の所以だな。
時計を見ればまだ、朝の五時。
学園は九時から始まることに加え、この寮の立地は学園の目の前。
学園に向かうには早すぎる時間である。しかし二度寝をする気にも慣れない。
朝食を食べるにしても、起きて直ぐってのは食欲がない。
……となると、温泉だな。
朝起きて直ぐに、温泉に入れる。何という贅沢だろうか。
堪能しない手は無い。昨日は地下一階の温泉に行ったが、実は地下一階にはもう一つの温泉がある。
どうせだし今日はそちらに行ってみよう。
さっそく部屋にカギをかけて外に出ると、温泉へと向かった。
階段を降り男と書かれた暖簾をくぐり、脱衣所で服を脱ぐ。
ただもちろん忘れてない。
脱衣所が分かれていても、到達する温泉は同じであることを。
昨日の温泉含め、予算削減のためなのかは知らないが、この寮にある温泉三つ全て混浴なのだ。
なんでだよ!建築した奴、下心がすぎるだろ!
普段だったら褒めてもいいけど、昨日の出来事のせいで許せねぇよ!
建てた奴への文句を心の内で叫びならも、タオルに腰に巻き、用意完成。
さ~て、朝シャンとしゃれこみますか!
勢いよくドアを開け、突入!
って、え!?
そのとき俺は湯船に浸かっている一人の少女を捉えた。
雪のように白く長い髪をゴムで縛り、体をタオルで覆う一人の少女を……
鋭い歯が朝日に照らされてキラリと光り、鋭い目つきが俺を捉える。
「おはよう。奇遇ね、ベータ君」
「オーマイゴット」
そこには確かに……シャウラが佇んでいた。
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