第7話 目は口ほどに物を言う

「げほっ、げほっ、埃やばすぎんだろ」


俺はパッパッと服についた埃を払いながら、前方に立っている少女を見る。

アイツこれで死になさいとか言ってたけど、全然殺す気無いじゃねぇか。

弱者に対する情けってか?それとも様子見?

あるいは弱い魔法で、俺を油断させるつもりとか。


あり得るなぁ。コイツ性格悪そうだし。

けど普通に考えて強力な魔法で一発で終わらせた方良くない?

俺にはさっぱりだ。


シャウラの魔法、確かに凄かったし、これが『S』クラス魔術師の魔法なのかって感心した。

けどなんつうか、使いこなせてないって言うか、上手く噛み合ってないっていうか……

痒い所に手が届かないって感じなんだよね。

秘剣、銀世界だっけ?名前はカッコイイかもしれないけど、はっきり言ってイマイチ。


つうか多分この魔法、まだ完成してないんだよな。

フルパワーじゃないって感じだったし。俺が使った方が、まだ上手くできそう。

完成してない魔法使ってくんなよ。それとも俺を魔法の練習台にしたかったのか?

魔力の無駄遣いすぎる。


マジで舐めプの極みだな。

ここまで来ると馬鹿にされてるような気分になる。いや馬鹿にされてるんだろうけど。


溢れんばかり魔力があるから、軽く捻ってやるか…とか思ってんだろうな。

強者の余裕って言うか、エリート魔術師の矜持って言うか……

こっからとうとう本気出してくるってことなんだろう。

気を引き締めないと。


「え……嘘?なんで?なんで無傷なの?」


あれ?思ってた反応と違う。

シャウラはマジで驚いてるみたいに、目を見開いたまま棒立ちしていた。

次の魔法を準備するそぶりも無く、まさに文字通りの棒立ち。


おかしいな。俺の予想だったら……

「さて準備運動はここまでよ。覚悟しなさい!」

「くっ、これが『S』クラス魔術師の本気か!手も足もでねぇ!」

「あははははは!さあ、死になさい」

「あっ。UFO!」

「え!?」

「ふっ、かかったな!隙やり!」

「ぐはぁ」

って感じだったんだけど。


まさかあんな心底驚愕してるような表情をするとは思ってなかった。

これも作戦なのかな?シャウラって超演技派なんだな。


まぁ、あれこれ考えるのは止めよう。

良く分からないが隙が生じたのだ。これを利用しない手は無い。

きっと……このレベルよりは強い魔法打ってきなさいよって言う挑発だ。

そこまで言うなら、やってやろうじゃねぇか。


手を天に向かって突き上げ、魔方陣を展開する。

どうせだし挑発に乗って、シャウラが使った魔法をアレンジして使ってみるか。


展開した魔方陣に大きさと方向の異なる魔方陣を何個も組み合わせ、立体的な合成魔方陣を組み合わせる。

更にその魔方陣を中心として回る魔方陣を何個か追加。まるで太陽系って感じになった。

加えて魔法語が刻まれた特殊な魔方陣な帯を創り出し、何重にも包ませる。

今できる全力の模倣アレンジはこんくらいだな。


「う、嘘でしょ、何よこれ!なんなのよこの魔法は!」


シャウラが何かを叫んでいるような気がする。

だが魔法によって生み出された突風と、それに伴う轟音で全く聞こえない。

「弱すぎて草」とか言ってんだろうな。


展開した魔法の回転を加速させ、それと共に縮小する。

莫大なエネルギが中心の一点に集中し、激しい光を纏った。

魔法闘技場の中が真昼以上に明るくなる。決闘の空間は白い光に包まれ、俺からはシャウラが直視できないほどに眩い。


そして俺の展開していた魔方陣は、一本の剣に変貌していた。

シャウラが生み出していた剣よりも、一回り大きい。

激しい光を放ちすぎて、直視すれば失明になるんじゃなかろうか。

剣の周りの空間が歪み、突風は剣に吸収されるように激しく吹き荒れる。


「何よ、何を見せられてるの私は?意味が分からない。こんなの、こんなの……」


俺は剣を構えて、気配だけで前方に立ち尽くすシャウラを捉える。

そして一歩前に踏み出した。


「俺流アレンジ魔法!名付けて、国境の長いトンネルを抜けると雪国であった……だ!」


「こんなの……神の領域じゃない!」


少女の呟きが、剣が降られた爆音によってかき消される。

爆音と爆風が、その空間一帯を包んだ。

光で視界は奪われ、振動だけが地面に響き渡る。



けど俺は何も見えなかろうが、剣を再び構えた。

シャウラは一振りで終わってたけど、俺の魔法は連続攻撃。

新たに魔方陣を書き加えることで、俺流にアレンジしていたのだ!


一回と見せかけて何度も放つことで、シャウラを油断させ仕留める作戦。

名付けて


『……あれ?一回で終わらないの?シャウラ超ビックリ作戦』

相手は死ぬ。


って、ありゃ?


二振り目をいこうとってときに、空間魔法が解除されてることに気付いた。

俺の魔法がキャンセルさせられ、剣がしぼんで消えて無くなる。

そして舞い上がった埃の中から、地面に倒れているシャウラの姿が見えた。


「決闘終了!勝者、ベータ・フォルナーキス!」


ヨイの声が耳に響く。

え?勝ったのか?俺が?

マジか……良く分からないけどめっちゃ嬉しい。


けど何でだ?俺のこと舐めすぎて、十分な防御魔法を展開しなかったとか?

確かに棒立ちしてたな。舐めすぎた結果の敗北。

うさぎとかめってわけか。


しかし防御魔法を十分に展開できなかったってことは、俺の魔法を直撃でくらったってことだよな。

え、大丈夫か?割と遠慮なく七割くらいの力で、魔法放っちゃったぞ。

普通に死ぬんだが。


「おい、シャウラ!大丈夫か?生きてるか?」


俺は走って、倒れているシャウラに近づいた。

急いで脈を計ってみる。うん、正常。呼吸、正常。魔力脈拍も、ちょっと主張が弱いものの正常。

良かった……気絶しているだけだ。


「何をそんな焦っているんだ。致死量の攻撃と判断された瞬間、魔法は到達寸前でキャンセルされると聞いていなかったのか?」


審判をしてくれていたヨイが、あきれ顔で俺の傍まで歩いてくる。


「いえ、すいません。知ってはいましたが、倒れてたものでしたから。正常に魔法が発動してなかったのかと思って」


「ははは、なるほどな。確かに本来なら、シャウラはピンピンしてるはずだよな。きっと君の魔法に圧倒されて、気絶してしまったのだろうな」


「圧倒……ですか?」


「そうだ。当たり前だろ。あんな魔法目の当たりにして、自分に迫って来たら私も気絶する自信しかない。にしても良いものを見せてもらった。さすが『S』クラス1位の魔術師。審判をした甲斐があると言うものだな」


「『S』クラス1位?誰がですか?シャウラ?」


「おいおい、何を言ってるんだ。ベータ君、君のことだろう」


「え、俺?ってええええええええ、俺!?」


「当然だ。生徒手帳見なかったのか?確認しろと言ったはずだが」


「い、いえ、それはそうなんですけど……俺が『S』クラス1位?何かの間違いじゃないですか?」


「あんな魔法使っておいて、何を言ってるんだ」


「いや、え、だって、俺、魔術師の家系でも何でもない一般人ですよ。魔法だってまだ全然勉強し足りないし、理解も追いついてない。実力だってまだまだ。そんな俺が『S』クラス1位なわけないじゃないですか!」


「君のレベルがまだまだだったら、世界中の魔術師は何だと言うのだ。魔術師ですらないということか?なるほど、中々の皮肉だな」


「いや、違っ、だって」


「それ以上はこの世界、全ての魔術師への冒涜だぞ。それくらいにしておけ」


「え、いや……はい、すいません」


マジで……マジでどういうことなんだよ。

俺が『S』クラス1位の魔術師?そんな訳なくないだろ。

確かに一人で勉強していたから、他の魔術師なんて受験会場で初めて会ったし、自分がどのくらいのレベルなのか分からなかったけど……俺が一番?


嘘……だろ?ドッキリか?ドッキリなのか?そうだと言ってくれ。

それか壮大な手続きミス、そうとしか思えない。

俺なんて、ホントにまだまだなのだ。魔法について分からないことばかりなのだ。

何代に渡って継承を繰り返し、努力の全てをそこに注ぎ込む魔術師たちより優秀であっていいはずがない。俺は農業の傍ら、趣味で勉強してただけなんだぞ。

そんなの……そんなのって無いだろ。


「さて……問題はないとは思うが、一応シャウラを救護室まで運んでいく。決闘の後の手続きは……シャウラが意識を取り戻した後、私から話しておくことにしよう。何であれ、君は決闘に勝利した。君の要求は満たされる。」


「そう……ですか」


「何だか、納得しかねると言う顔だな。勝ったのに、そんな顔するな。負けたシャウラに申し訳が立たないだろ。シャキッとしろ、シャキッと!胸を張れ!喜べ!」


「は、はい……すいません」


「……まあ、いい。今日は帰って寝ろ。明日から授業が始まるからな。遅刻したら許さんぞ」


ヨイはシャウラをおんぶすると、救護室へと歩いて行ってしまった。

俺は……


未だに理解が追いつかずその場に立ち尽くしたままだった。

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