第11話 二人で幸せな景色を見続けて行く


 彼女は俯いたまま言いたくないと、そう態度で俺に示した。

 でも、俺はその理由が知りたかった。あの寂しげな表情の?意味をずっと知りたかった。

 彼女の事が知りたかった。


「みんなに、言いふらすって言ったら?」


「……誰も信じないと思うけど……」


「まあ……確かに」

 確かにそうだ。私服組の中に俺がいきなり入って、秋風は実は誰とも付き合った事の無い処女だって言った所で、信じる者などいる筈もない。

 この3年間でそれはいやって程わかっている。


「──いいわ教えてあげる……私には婚約者がいるの、親同士で決めた婚約者が、そう、うちの学校にはそういった子が沢山いるわ」


「え?!」


 彼女は意を決したように俺に向かって話始めた。

 俺のいる世界とは全く違う異世界のような話をし始めた。


 長い話だった、おとぎ話のようなそんな話に俺はついていけなかった。

 

 ただ一つわかった事があった。

 彼女の嘘の理由と寂しげな表情の理由、それは閨閥、政略結婚の道具となっている私服組の女子を救いたいからだったと、俺はそう理解した。 


「……どうするの?」


「どうって」


「このまま……別れる?」


「え?」


「だって、私は貴方にも嘘をついた、貴方をリードしてあげるなんて言った、婚約者がいる事も黙ってた……」


「でも、今までアドバイスは的確にしてたよね? 婚約者は親が決めただけだって……」

 あの相談内容をずっと聞いていたけど恋愛経験が全く無いとは思えない……ひょっとしたらその婚約者と。


「所詮机上の空論よ、婚約者とはろくに会ってもいないわ、純粋に知識だけ身に着けた。でも駄目だった……あははは、私もまさかこんなにダメダメだとは思わなかったわ、情けない」


「でも、そんな事ない、俺は……楽しかった」


「そ……」

 慰めにもならない言葉を彼女に投げかける。

 彼女は俺をチラリと見ると、また俯いてしまう。


「嘘はそれだけ?」

 俺はそんな彼女に向かってそう言った。


「え?」

 俺にそう聞かれ意味がわからなかったのか? 彼女は顔を上げ不思議そうに俺を見つめる。


「嘘は今まで彼氏がいなかったって事だけ?」


「そ、そうだけど」


「婚約者には興味無いってのは本当?」


「それは本当よ」


「そか、じゃあ俺が彼氏ってのは嘘じゃないって事だよね?」


「え? どういう事?」


「嘘じゃないなら、俺と付き合ってあげるってあの言葉が嘘じゃないなら……俺達は恋人同士って事、だったら別れない。俺にそんな考えは全く無い」


「別れないって……」


「嫌だよ、絶対に嫌だ。俺は秋風さんの事大好きだから、経験とか未経験とかそんな些細な事どうでもいい。今日一緒にいて俺は楽しかった……もっと、もっと君と同じ景色をた見たいって、そして俺も君に同じ景色を見せたいってそう思ったから」


「景色?」


「そう……俺と秋風さんじゃ見てる世界が違うって、ずっとそう思ってた。でもさ、こうして同じ景色を見れるって、二人でこれから同じ景色を見ていけるってわかったから、これから一緒に……経験したいって思ったから……だから俺は別れない、別れたく無い」

 そう言うと俺は彼女に近付く、そして今度は結び目に触れないように注意して彼女の肩をそっと掴む。


「経験って…………恒君の……エッチ」

 彼女は俺を見上げ真っ赤な顔で俺に向かってそう言った。


「これから本物にして行こう、俺が協力する……君の、秋風さんの目的が何か、何の為に嘘をつき続けていたのか分からないけど、でも……俺は秋風さんの味方だから」

 

「味方じゃなくて……彼氏でしょ?」

 そう言ってクスクスと笑う秋風さん。

 その天使の微笑みに俺は完全に虜になってしまう。


 これで俺達は本当のカップルになれた。って事だよね……じゃ、じゃあちょっとくらい良いよね?

 俺は我慢出来ずに秋風さんを自分に引き寄せ、彼女を強く抱き締めた。


「ひゃう!」

 バスタオル越しに秋風さんの胸の柔らかさが俺のお腹の辺りに伝わる。

 お風呂上がりのとてつもなく良い匂いで俺の頭が蕩けそうになる。

 

 ああ、女の子ってこんなにも柔らかくこんなにも良い匂いがするんだ……。


「も、もう……強引な人とは一度距離を取った方がいいってアドバイスしてるんですけど」


「あ、ああああ、ご、ごめん」


「ま、まあ……女の子が臆病だったら、少しは強引な方がいい時もある……のかなって……今はそう思う」


「あははは」


「ふふふふ」

 俺達は顔を見合せ笑いあった。

 彼女の瞳に俺が映っている。

 それは彼女の今見ている景色に俺がいるって事になる。


 この後どんな景色が見れるのだろうか? 二人でどんな景色を見ていけるのだろうか?


 婚約者、経済と身分の違い、様々な問題がこれから俺達に降りかかるだろう。


 でも二人で一緒に乗り越えて、そしていつか二人で一緒に幸せな景色を見続けられたら……、いや見続けて行きたいって俺は思った。


 彼女をもう一度思いきいっきり抱き締め、心からそう思っていた。




 

【あとがき】

やっぱりカクヨムでも駄目だったか(。-`ω-)

残念ながら二人の今後を祈りつつここで終了します。


作者の次回作(が人気になる事(笑))をご期待ください(≧ヘ≦ )ピエン

お読み頂きありがとうございました。m(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それぞれの景色、経験豊富な箱入りお嬢様と付き合うには? 新名天生 @Niinaamesyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ