第6話 俺の位置まで天空から舞い降りてくれる天使の様な彼女
不安と期待と着ていく服のおかげで朝まで寝れなかった。
とりあえず集合時間が昼で良かったと軽く仮眠を取った俺は、昨日用意した一番高そうなシャツにカーディガンを羽織って池袋駅に向かう。
駅に到着し改札を出ると東口方面に進んだ。
東口の外に上がる階段手前に小学生くらいの大きさの目付きの悪い石のふくろうが見えてくる。
集合時間30分前、もしも電車が遅れでもしたら、もしも途中で下駄の鼻緒が切れたら、まあ下駄は履いていないが、そんな色々なアクシデントを考慮して30分程早く待ち合わせ場所に到着すると、そこには既に彼女の姿があった。
季節はまだ春、少し肌寒いというのに彼女は黒基調のミニスカートを履き、白いブラウスを着ていた。ブラウスは胸元と腕が透ける生地で肩にはフリルが付いている。
頭にはベレー帽、赤い眼鏡をかけ高そうなブランドのハンドバックを持ち値段も踵も高いヒールを履いていた。
恐らくずっと見ている俺以外は、今の彼女の姿を見て秋風さんだって事には気付かなかったかも知れない。
いつもの優等生風な制服姿とは違う気合いの入っている服。
俺なんかの為にと、目頭が熱くなる。
学校では体育の授業かプールの授業でしか見れなかった彼女の美しいおみ足が本日は惜しげもなく晒されていた。
周囲には多くの人が待ち合わせ場所であるそこに立っているが、その中で一際目立つ彼女に注目が集まっている。
そしてそれを見た瞬間俺の足がすくむ……そう俺は今から彼女の元に近寄らなければいけないのだ。
彼女の元に行き声を掛ければ、周囲の注目が俺に集まるのは必死。
「釣り合わないよ」……昨日言っていた彼女の言葉が頭を過る。
少しの間躊躇していると、俺の近くにいた二人組の男が彼女を見ながらこそこそと話す。
「レベルたっけえ、声かけねえ?」
「いや絶対男待ってるだろ?」
「でもナンパ待ちかもよ」
「じゃあお前行って散ってこいよ」
その声に改めて周囲を見回すと、今にもアタックしそうな輩が彼女の近くに集まって来ている。
駄目だ、彼女は今俺を待っている。
彼女は今、俺の彼女。
俺は勇気を振り絞り彼女に近付いた。
「お、おはよ……えっとあ、あれ? 時間間違えた? は、早くない?」
冷静を装い何事もない様に、教室ではなしかける様に、俺から話しかけた事は今まで無いが、彼女に向かってそう言った。
「ひえ? あ、えっと……ちょっと買い物したくてね」
彼女は俺に驚きつつも笑顔でそう言う。
そして周囲からは「ちっちっ」と、舌打ちの音が聞こえてくる。
その音を聞き俺の中で、ざまぁという優越感が沸き起こった。
「えっと……」
慣れていない自分の感情にこの環境に戸惑いつつ、とりあえず注目されるこの場所から早く移動したい、そう思っていると、彼女はそう言えば私がリードするんだと思い出したかの様に俺の腕に自分の腕を回す。
そして「い、行きましょう!」 そう言ってどこかぎこちない感じで、まるでペットの散歩でもするかの様に俺を引っ張り階段に向かう。
生まれて初めて女子と腕を組む……でも……これって何か違う気がする。
俺はキョロキョロと周囲を見回すと、思っていた通りこの腕の組み方が違っている事に気が付く。
腕の回し方が逆なのだ。周囲を見ると男性が輪を作り女性がその輪に腕を入れている。
でも今は俺が彼女の腕に抱き付く様なそんな状態になっていた。
これはわざとなのか? 今日は彼女がリード役だから?
そんな些細な事が気になる。
始めてのデートで相手は超の付くベテラン、失敗は許されない。
俺は迷った挙げ句、彼女に言ってみた。
「あ、あのこれって逆では?」
彼女に組まれている腕を見つつそう言うと、彼女は少し剥きになって俺に向かって言った。
「あ、あああ、あなたが、もたもたしてるから!」
「す、すみません」
何か必死な形相の彼女、俺は少し驚いてしまう。
だって……もっとスマートなデートを予想していたから。
そんな必死な形相の彼女の顔を始めて見た俺は、俺は面を食らってしまった。
「ご、ごめん、えっと……とりあえず貴方に合わせた定番デートって事で、水族館に行きます」
「は、はい」
俺に向かって強い口調で否定した事を反省したかの様に、彼女は一度深呼吸すると、腕を組み直しそう言って水族館に向かって再び歩き始める。
でも俺の拙い知識だと、最初は手を繋いだりだと思うのに、いきなり腕を組む彼女は流石経験者だなって思わされた。
そして普段は高級外車に乗りつつ高級ホテルや高級なお店で食事をしているのだろうが、多分今日は俺なんかに合わせてくれている。
そう思ったら、何か彼女に悪い気になってくる。
そしてやはり、俺と彼女では釣り合わない、釣り合うわけが無いって改めてそう思ってしまった。
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