第5話 初メッセージ
初めて彼女が出来た。
それも、相手はあの秋風美冬だ。
ずっと夢に描いていた事が現実になった。
お金持ちで可愛く綺麗な彼女、まさに俺の中に描いていた理想が現実になったのだ。
俺は教室で彼女とわかれ、鼻歌混じりに浮かれながら家に帰る。
そして玄関を開けるとそこには……妹が立っていた。
妹は、いつもの様に蔑んだ様な、冷たい視線を俺に投げ掛ける。
「た、ただいま……」
「……」
そう挨拶するも妹は侮蔑の表情で俺を見ると、何も言わずに部屋に戻って行った。
浮かれていた気分が一気に落ち込む。
俺の妹……血の繋がっていない義理の妹……。
俺が生まれて間もなく俺の父は死んでしまったらしい。
そして母親は直ぐに再婚する。
母は経済的に、義理の父は子育ての為に。
愛し合っての結婚ではないと後に知った。
俺と妹がある程度成長すると、両親は仕事と言って家に帰ってくる事が少なくなった。
でも、俺と妹は違うって知っていた。
それでも俺と妹は本当の兄妹の様に仲良く暮らしていたが、思春期を迎え態度が一変する。
妹が急に俺と口を聞かなくなったのだ、何を言っても返事をしない。
丁度俺が中学受験で必死になっていた時だった。
特に喧嘩をしたわけではない、気が付いたらこうなっていた。
なので関係を修復する事も出来ず、ずるずると3年が過ぎてしまった。
そう、うちの家はうちの家族はバラバラなのだ。
だから俺は彼女に救いを求めたのかも知れない。
愛情に飢えていたのかも知れない。
経験豊富な彼女なら、俺の寂しさを埋めてくれるかも知れない。
そう、思っていた。
でも、妹からの冷ややかな目で睨まれ、一旦冷静なると、途端に不安が込み上げてくる。
俺は部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。
俺が秋風さんと付き合う?
冷静になって改めてそう思い、不安を通り越し恐怖に怯え始めた。
俺はずっと彼女の話をこっそりと聞いていた。
彼女の男性遍歴をずっと聞いてきた。
彼女は包み隠さず周囲のお嬢様達に吹聴していた。
大学生、社会人、スポーツ選手、IT系会社社長、芸能人やユーチーバー。
彼女の経験談、幸せそうな彼女の声を俺はずっと聞き続けていた。
だからこそ不思議だったのだ。彼女は何故あんな寂しそうな顔をしていたのか?
まるで迷子になっている子供の様な、そんな顔をしていた。
俺は知りたかった、ずっと……あの表情の意味を。
そして、今日はっきりわかった。自分の感情を想いを。
俺はずっと辛かったのだ……彼女が嬉しそうに彼氏の話をする事に、ずっと苦しんでいたのだ。
幸せならそれでいいって自分に言い聞かせていたのだ。
そしてあの悲しげな表情に寧ろ喜びを感じていた。
ひょっとしたら上手くいっていないんじゃないかって、別れたんじゃないかって、そしてその度に可能性はないか、自分が彼氏になる可能性をひっそりと模索していた。
そんな事はあり得ないと言いつつも、奇跡を信じていた。
そしてその奇跡が今日起きたのだ。
しかし、今はその喜びに浸っている場合ではない。
あれだけの男性遍歴を重ねていた彼女……そして今はフリーだと言っていた。
つまり、その誰とも上手くいかなかったということなのだ。
そんな彼女を俺なんかが幸せに出来るとは、満足させられるとは到底思えない。
そして、その今まで彼女が付き合ってきた男と自分が比べられる恐ろしさを俺は今ひしひしと感じている。
ヤバい、ヤバい、ヤバすぎる……。
そもそも付き合うってどうすればいいんだ? 何をすればいいんだ?
彼女いない歴年齢の俺が、あの秋風さんと付き合うって……。
「ぐあああああああああ…………」
俺は思わず悲鳴を上げてしまう。
しかし今さら断るなんて選択はあり得ない。
「とりあえずネットで調べるか? それともギャルゲーとか? いやここは妹の部屋に行って少女漫画をって……行けるわけねええ」
妹が風呂に入ってる隙に……なんて思ったがバレたら一貫の終わりだ。
既に終わってるとはいえ、さすがに部屋に入るのは
そしてスマホを取り出し検索を掛けようとしたその時、『テロン』とメッセージソフトの音が鳴った。
画面にはさっき教室で交換した俺の愛しのマイハニー……って登録しようとして最後に躊躇し結局普通に登録した『秋風美冬さん』という文字が表示されている。
俺は慌ててメッセージソフトを起動すると彼女からのメッセージを緊張しながら読んだ。
『明日デートをします、池袋のいけふくろうの前に12時集合で、駄目なら返信してください』
定型文の様なメッセージ。
えっと恋人になっての初メッセージがこれって普通?
いや、そんな場合では無かった。
俺はこの日とばかりに練習を重ねたフリック入力で間髪いれずに返信を打ち込む。
交際するにあたって恋人に既読スルーなんてあり得ない……と誰かが言っていた。
『もちろん喜んで行きます!』
そう、返事をする……すると直ぐに既読マークがついた。
えっと……もしこれで返事が来たら……どうすればいいんだ? もし寝てる間に来たら既読スルーになるのか? 等とドキドキしていたが……風呂に入って寝るまで、いや寝ててもわかる様にボリューム最大にして返信をする準備していたが、彼女からの新規のメッセージが来る事は無かった。
メッセージだけでこの有り様な俺、明日は一体どうなるんだろうか?
「ああああ、やっべ、服どうしよう!」
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