第11話 助けを呼ぶ声

父の冴島孝介と久しぶりに会話をした刹那は、父に誘われ、これまた久しぶりの銭湯へ行った。


未だに煙突が付いていて営業をしている時は、煙が夜空に空高く舞い上がっている。

父は良く、その煙を見ては、おー、やってるなー!と夜空を見上げていた。刹那はそれを良く覚えていた。


銭湯に着くとの入り口には男と女ののれんがかかり、ドアはガラガラと音がする古いスライドドアだ。

中には木製で出来た長椅子に着替えを入れる大きな棚があり、真ん中にはフロントでオバサンがお金のやり取りをしながら世間話しをしていた。

中では父くらいの年齢のオヤジ達が、ワイワイガヤガヤと話しながら、風呂に浸かっている。


刹那と父も身体を洗い、湯船に浸かると二人でフワーッ♪と声をあげて顔にお湯をかけた。


そこに隣の女性用風呂からも声があれこれ聞こえてきていた。


そんな時、悟ルが刹那に話しかけてきた。


兄ちゃん、女の子だよ。女の子の声がする。


・・女の子?風呂屋だから、聞こえるだろ?・


違うんだ!見て!

悟ルが刹那の頭の中に自分の視界を映し出した。


すると、茶色いドアで薄汚れた玄関扉の前で女の子が泣きながら、誰か、助けて!と、叫んでいた。


刹那 ・・・何だよ?これ・・・


悟ル ・・多分、そんなに遠くないよ・・


刹那 ・・・場所は分かるのか?・・


頭の中での会話をしていると父が話しかけてきた。


どうした?また、霊魂か?


刹那 うん。助けを呼ぶ声が聞こえるんだ。


そうか。じゃ、行ってやれ!お前にしか出来ねーんだろ?俺とはまた、来たら良いんだからよ。


刹那 うん。分かった。


刹那が風呂から上がり急いで着がえると、声のする方へ走った。


刹那 風呂上がりって寒~!


優香 男湯って最高ね♪あたし達、霊体にとって水場って落ち着くわ♪


刹那 そうゆうもんか?


全ての霊魂がほんわかして頷いていた。


コンクリート壁の街路字を抜けて右に左にと曲がり、街灯が少なくなってきた頃、少し薄汚れた白い10階建て程のマンションが見えてきた。


その8階から声は聞こえてきた。


・・・助けて・・・


刹那 はぁ、はぁ、どこだ?


悟ル 見て!あそこ!


そこは、8階と9階を繋げる階段であった。


刹那 大丈夫か?どうした?


少女 あのね?こっち!


少女に着いて行くと、8階の809号室の前で止まり、扉を指さした。


中から何やら男性の怒鳴り声が聞こえてきた。


悟ルに遠隔視を指示すると中では、男性が女性に包丁を向けていて、その横で少女が怯え泣いていた。


刹那はすぐに警察へ電話をした。


10分後、警察が到着し、男はパトカーへ連れて行かれた。


祖母 どうやら生き霊だったみたいだね。助かって良かったよ。刹那、やったな♪


刹那 夫婦喧嘩は犬も食わねーんだぞ!

なー、ポチ


ポチ ワン♪


刹那 さて、帰るか!悟ルの感度がマジで上がったよね!


その後、刹那は途中のコンビニで牛乳を買い、黙って帰宅した。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る